人形の見る夢 その3
「ヴィクトリア、ニケ、最期の役目を与えます」神無が奪い返された事を知ると目覚めた彼女は自身の役目を終えた人形どもにそう言い渡した。
「所詮人形は人間のくびきから逃れられない。それを思い知りなさい、源十郎」二体の人形が去った後で彼女は吐き捨てるようにしてその背に呟く。
*
目の前に打ち捨てられた二体の人形が居た。
「ヴィクトリアにニケか、…そう言う事か」その一瞬で源十郎はその意図を見抜いた。主を護ろうとして前に出ようとする二体を押しとどめ自身でその前に立つ。
緩慢なその動作に、それがもはや先程までの二体ではない事を知る。「繋がりを断たれたか」伝心タイプの人形はその主との繋がりを持つことで劇的な能力を発揮する。それが見られないという事はこの二体が文字通り主に捨てられた事を意味する。
それでもなお主の命を忠実に果たそうとするその所作はその造形が美しいだけに滑稽さを通り越し哀れみさえ誘う。
白銀の女騎士の振るう長剣が源十郎に触れるがそこに彼を断つだけの力は無く、ふらふらと飛行する少女天使ニケの体当たりにも彼をわずかばかりも動かす力すら無い。
己の生に疑問をもたず、主から与えられた命を唯一至上のモノとする。それこそが人形だと言わんばかりに、二体は哀れな所作を繰り返す。
「夙凪」静謐な声とともに一陣の風が吹き、目の前の二体は灰燼と化した。その身に宿す感情は哀れみかそれとも羨望か、その閉じられた眼差しは何も語る事はなく。
「ただ、諾と言うのみの人形は要らぬ」
「主様の命を守るが我が意で御座いますれば」憮然として男が呟きそれに整然と女が答える。
「…帰るぞ」男は散りゆく風に一瞥を送るといつものようにぼそりと呟いた。