人形の見る夢 その2
「私と主様の中にある神無を映します。…主様」言って、男の方に振り向く「…ああ」一つ頷くと男は彼女と口づけを交わす。
「では…」男との短い口交の後、さらに彼女は自身の”無楯”の中に捕らわれた神無のカタチと同じように口交した。
「帰るぞ、神無」再度告げられたその一言に、ぴくりと微かにそれが反応したかと思うと、その後の変化は劇的だった。まるで色づくようにして彼女はそこに存在した。
しかし目覚め、駆け寄ろうとする少女を押しとどめ源十郎の前に今度は神凪が立ちふさがる。
「私達を手放せば源十郎という名にまつわる全てのしがらみから解放されます。一度たりともそれを望まなかった事がないという事は有りますまい。源十郎様」静かに問う眼差しに男は答えず。変わらず真っ直ぐと二人の人形を見据えるのみ。
「私達は怯えております、人はいずれ私達の側を通りすぎます。私達とともにあるには人の生はあまりに短い。しかし人とともに過ごすうちにこびりついた澱が私達に狂おしいほどの想いと人形にはあるまじき望みを抱かせます。私達が主様の望みのままの力を持てるなら、神というものが在られるなら、その力を、主様の望み通りに振るい、神の力をこの身に宿し、あなたとともに在りたいと。我ら三振りの剣はそのためにあなたの命に跪くといえば、主様はどうしますか」それは激烈な想いを秘めた最後通牒、今なら間に合うという真摯な脅迫でもあった。
「…そうしたければするが良い」言って、無造作に彼女の突きつける剣尖が目に入らぬかのように近づき、神凪の側を通り過ぎるが、彼女も微動だにしない。
そして不安げな眼差しを向ける少女に近づくと「どう、ということもなく、いままでとかわらんさ」言って、ぽん、とその頭に手を置く、そして感極まったように少女は男にすがりつきその少女然とした容姿にふさわしく泣きわめく。
「これが現在の神無ですか」側に立つ女が肩越しに静かに問い。「失望したか」問われた男もそれに静かに答える。
「いえ、主様の望みに否やはありませぬ」そう言った彼女は微かに笑ったようであった。