人形の見る夢 その1
「やはり、ここか、解封する」言って、彼はその扉を押し開ける。その空間を表すならばすなわち”無”、そこは無限の空間を持たせたクラインの壷、神を封ずる為に造られた神無の器としての本性、あらゆるものを分解し、神すら呑み込む器。この初期層と呼ばれる、神無を分解し次の主に使える形を創り出す空間に入り今の神無を取り戻すは至難。
しかし、彼には確としたものがある。あの時、彼女自身を見つけたように今度も、その為のもう一振りだ。
「神凪」言う、男の前に出た女にひょうという音がして力の奔流がぶつかる。「ここは人の身で来れる場所ではありませぬ。主様、お早めに」「すまん、な」「いえ、初期層では、私も形を保つのが難しい故」
「帰るぞ、神無」何も存在せぬその空間に向かって男は呼びかける。しかし、それに応えるものは無く。
「仕方ない、神凪」「承知、形無きものに形を与え、そを弾くが我が役目、我が眼差しが捉えるは”神無”」開かれたその眼差しと声に答えて力場が形を為す。
それは神無の形をした力の奔流だった。力場の凝集した形、それが神無の形をとって牙を剥く。
一閃、その力の前に剣先が立ちふさがる。「形ある力は我が敵に非ず。形ある力は我が盾の前にあって無力、よって我が銘は”無楯”」静然として呟かれた呪言の檻の中に力の奔流が停滞する。
「これは形骸、神無のカタチをした力の塊で御座います。存在とは過去よりの縁、他者の認識の中にあるカタチ」