ある日常/人形に生命を吹き込む法の事
最初、それが彼女だという事に気づかなかった。久方ぶり、だからというわけではない。それほどまでに今の彼女は彼女の知る彼女と違っていた。
彼女はあの時、確かに人形のような微笑みをその顔に浮かべていただけだった。あれは、そういうもののハズだ。
「今日のご飯、なにつくろっかなぁーっと、源十郎様ってば、放っておくと大量のインスタントラーメンとかで済ませかねませんからね。源十郎様をむりやり部活とかに入れておいて正解でした。しかし、油断は禁物です。この前のように部活が急遽休みになるということもあります。さて、この隙にはやく帰らねばなりません」
−人形に命を吹き込む法の事−
ヒトというものを形作るものを考えてみる。死体はもはやヒトではない、ヒトの形を成してはいるが、もはや死体はヒトではない。試しに肉というものを考えてみる。肉だけで人形を造ってみるが、それはやはり人ではない。死体に近くはあるがそれは死体ですらない。肉だけではヒトでは在りえない。
ヒトをヒトたらしめている命について考えてみる。生命有る樹に人型を彫ってみるがやはりそれは人ではない。戯れに土塊に獣の精を入れ、それを己の身体と認識させてみる。
それは一度動き、くずおれた。再度、土塊で人の型を造り、そこに宙にただよう人の魂を入れてみる。今度は、人の精がそこに入ると同時に土塊が霧散した。
長きにわたる試考と試行の末、樹の命と死した者の魂とを調律する法を得る。それをもってして人形の法となす。