表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/34

三日後

維月が宮へ戻って来た。

明維はよほど気になっていたのか、早朝からもう、月の宮へ来ていた。蒼は、神威が維月に会わせろとか言っているのも気になるし、和奏がぼうっとしていて連日赤い顔をしているのも気になっていたので、明維の事は早く済ませたかった。なので晃維も呼んで二人を連れ立って、蒼は突然十六夜と維月の部屋を訪ねた。

すると、二人は庭を仲良く、よく足が絡まらないなというほどぴったりとくっついて歩いていた。

蒼ははきだし窓を開けて声を掛けた。

「十六夜~!」

十六夜がこちらを向いた。続いて維月もこちらを見る。明維と晃維は、二人の姿に絶句した…まさかあれは…。

「つ、月は」明維が言った。「姿が、あれと決まっておるのか。」

蒼は苦笑した。確かにそう思ってもおかしくはない。十六夜がやれやれという顔をした。

「維月がやっと帰って来たのに、なんだ?オレの邪魔ばっかしてよ。」

そう言いながらも、十六夜は怒っているのではないようだ。

「まあ…」維月は、蒼の横に並ぶ二人を見た。「まだ知らせてはいけないと言っていたのではないの?嬉しいわ!会いたかったの…明維、晃維。」

維月は、二人に向かって手を差し出した。

「母上…」明維が言った。「母上なのですか?」

維月は困ったように首を振った。

「母は死んだわ。私は母の記憶を持つ、維月よ。でも、好きに呼んでくれていいけど。」

明維と晃維は、何年かぶりに走った。そして二人して維月に抱き付いた。

「ああ…!転生されておったとは!」

明維が目に涙を浮かべて維月を見た。晃維も言った。

「ほんに…これで母上に、ご報告することが出来申す。」

維月は晃維を見上げた。

「晃維?何のこと?」

晃維は微笑んだ。

「後で申しまする。順序があり申して。」

晃維が抱き締めていた手を離すと、明維が自分に引き寄せた。

「では、もう母と呼ばずとも良いのだな。維月、待った甲斐があったというもの。これで我は主を娶ることが出来るのか。」

十六夜が慌てたように横から言った。

「こら!お前ら兄弟は全く…もう維月は満員だ。これ以上は無理、他をあたってくれ。将維ですら娶らなかっただろうが。維心も転生してるんだ。宮の皇子がそうだ。維月はあいつの妃なんだぞ。」

維月は頷いた。つくづく、王と皇子の違いが浮き彫りになる。皇子が妃を娶っても、身内すら知らないような些細なことなのだ。明維はため息を付いた。

「ま、そうであろうな。そうでなくとも今の兄上ならば、何でも思うがままであろうしの。我に勝ち目はないわ。だが、言うて見たかっただけぞ。ずっと言えずにいた…これですっきりした気分よ。」

明維は、そう言って維月に微笑み掛けた。もう、何百年も前に思い切った母、維月。また会えただけでも、良かったとしよう。

「明維…私は子達皆、それは想っているのよ?それは忘れないで。」

明維は頷くと、抱いていた手を離した。

「わかっておる。これからは、一個人として話そうぞ。」

明維は、なぜかすっきりとした面持ちで言うと、晃維を見た。

「それで主、我にも話さねばと言うておったの。何ぞ?」

晃維は頷くと、蒼を見た。

「蒼、主の第四皇女、和奏を我の妃に頂きたい。」

「ええ?!」

そこに居た全てのものが叫んだ。晃維が?!

「そ、そ、」蒼は息もつかえて言葉が出なかったが、必死に言った。「それは、和奏は、その、知っておるのだろうか。ぬ、主の姪になるが。」

晃維は蒼のその様子に、苦笑しながら頷いた。

「数日前にの。和奏は承諾してくれたゆえ、主に言わねばと思うておったのだ。」

だから、和奏はボウッとしたり、赤い顔をしていたりしたのか。それにしても、龍の皇子達は全くそんなことに興味がないようだったから、そんなことは思いもしなかった。しかし、晃維は優しくて穏やかな龍。なのに、維心の子なので気が強い。願ってもない縁談じゃないか。

皆が蒼をじっと見ている。蒼は頷いた。

「もちろん、良い。願ってもないことだ。晃維が和奏をもらってくれるなんて。桂もどんなに喜ぶことか。だが、一番喜んでいるのは和奏か。あいつは、幼い頃から晃維がお気に入りだったからな。」

維月が涙を浮かべて喜んだ。

「ああ、本当によかったこと。これで、幸せになれるわ、晃維。維心様と私の子達は、なぜか誰も結婚していなかったから、とても心配していたのよ…和奏は私も良く知っているけど、本当にいい子。何も心配は要らないわね。本当によかった…十六夜、お祝いね。」

十六夜は笑った。

「ああ。和奏がここに、蒼に抱かれて連れて来られた時のことを思い出すな。嵐の夜でよ、蒼が気を暴走させてさ。まだ生まれたての和奏が布の包みから出て来た時には、本当にびっくりしたもんだ。」

維月も笑った。

「ええ、覚えているわ。あの後しばらくして、六か月ぐらいの時かしら。維心様に抱っこをせがんでいたわよね。維心様が困ってらしたのを、まるで昨日のことのように。」

そう、前世のことなのに、これほど鮮明に。維月はそう思ったが、黙っていた。

「あいつは人見知りしなかったからな~。」十六夜は維月の肩を抱いて、宮の中へと歩き出した。「祝い、何にする?今生では親戚な訳でもないし、困ったもんだ。」

維月は十六夜を見上げた。

「これは気持ちだから、親戚でなくてもいいの。何を贈るか考えるだけでも楽しいわね。」

二人は、戻って行く。蒼も慌てて宮へと足を向けた。

「じゃあ、和奏の所へ行こう。明維はどうする?」

まだ呆然としていた明維だったが、ハッとしたように蒼を見た。

「ああ…我はいい。我が婚姻するわけではないからの。」と、宮の別の方角へ足を向けた。「我はこちらに用があるゆえ。」

蒼は頷いて、晃維と共にそこを後にした。

明維はそっと、治癒の対のほうへ向けて歩き出した。


そこは、今日は静かだった。

重症の者も居ないらしい。明維がそこに足を踏み入れると、奥から結奈が出て来て、明維を見とめると慌てて頭を下げた。

「明維様。御用でありましょうか。」

明維は、頷いた。

「主、仕事か?」

結奈は驚いたように頷いた。

「はい。しかしもうすぐ我の時間は終わりまする。当直でありまして、夜働いておりましたので。」

「そうか。」明維は言って、きょろきょろしたかと思うと、窓の外を指した。「我は、あの北の庭で待つ。話しがある。終わったら参れ。」

結奈は仰天した。皇子が我を待つですって?!

「そのような…すぐに参りまする。あ、しばらく。」結奈は、奥へ引っ込んだかと思うと、すぐに出て来た。「では、参ります。」

明維は頷くと、先に立って庭へと歩いて行った。結奈は、何の話だろうと、こわごわ明維について行ったのだった。


しばらく歩いて行ったあと、明維は、いきなり振り返った。

「主、晃維と良く話しておったの。」

結奈は驚きながら、顔を赤くした。知っておられたのかしら。

「はい。治癒の術のことで、何度かお話致しました。」

明維は頷いた。

「我は見ていて気が見えるのだが、主、晃維を想うておるか?」

結奈はあまりにストレートに訊かれたので、どぎまぎして口ごもった。

「え…あの、私は、いつも晃維様には、甘い食べ物などを頂いて、あの、」

明維は、じっと結奈を見ている。そして、ため息を付いた。

「…やはりの。すまぬな。我から言うのも何だが、あやつは誰にでも優しすぎる。我は誰にでもこんな風であるから、誤解もなく面倒もなくここまで生きて来たが、あやつに限ってはこれが最初ではない。しかも、自覚がない。まさかと思うておったが、主、あれは諦めよ。」

結奈はびっくりして明維を見上げた。

「え…それは、我が身分の低い者であるからでしょうか。」

明維は首を振った。

「そうではない。主の身分は低くはない。父は慎吾であろう。あれは慎怜の息子。今の龍の宮の筆頭軍神ぞ。ではなくて、晃維にその気が無いからであるのだ。このままでは、主が傷つくことになろうぞ。主は何かと我らの砦の治癒の対のために、尽力してくれたゆえ、我もこうして言うておるのだ。」

結奈は、涙を浮かべた。

「そのような!その気がないなど、どうしてそう思われるのですか?!我がつまらない女であるからですか?!」

明維は眉を寄せた。

「そうではない。なぜに分からぬ。」明維は、結奈に背を向けた。「もう良い。我は主に言うたからの。後で泣くでないぞ。」

結奈は、明維が去って行くのを、涙を流しながら見ていた。酷い…!同じ兄弟なのに、どうしてあんなに酷いことが言えるの?!

結奈は泣きながら、部屋へ戻ってもまだ泣いていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ