表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/34

離れる二人

そんな二人も、成人に近くなった。神の成人は200歳、二人は180歳になっていた。

部屋は、碧黎に口づけているのを目撃された時から分けられて、維月は泣く泣く十六夜から離れて寝ることになり、やっとそれにも慣れたところだった。

「蒼、我は龍の宮へあれらを連れて参る。」

碧黎は、蒼に言った。蒼はにわかに緊張した。

「…維心様ですか?」

碧黎は頷いた。

「約したからの。転生したら必ず維月に会わせると。それからの事は知らぬ…あやつら次第ぞ。」

蒼は頷いた。ついに維心に会う…将維にも知らせず、二人が転生していることは隠してきた。維心が普通に育てられなかったらいけないからだ。しかし、将維は何も知らないにも関わらず、我が子に維心と名付けていた。

もしも、これで記憶が戻る何てことがあれば…。

蒼は、密かに期待していた。会いたい…十六夜に。母さんに。そして、維心様に。


「まあ、龍の宮よ?十六夜、私も外へ出られるのね!」

維月は父からそれを聞いてものすごく喜んだ。今まで、結界外に出る事を許される事がなかったからだ。十六夜は時に月に戻り、父と出掛けることもあったが、維月はそれがなかった。なので、嬉しくて仕方がないのだ。

「だから早く寝なきゃならねぇぞ。」十六夜は言った。「いつまでもここに居ないで、部屋に帰って寝るんだ。」

維月は首を振った。

「嫌よ。楽しみで眠れないの。ここで寝る。」

十六夜はため息を付いた。

「維月…、」

維月は懇願するように十六夜を見上げた。

「ねえ、お願い。十六夜、ここで寝かせて。」

十六夜は仕方なく寝台の横をあけた。

「…仕方がねぇな。いつもいつも、バレたらどうするんだとハラハラするんだよ。」

維月は嬉しそうにそこへ滑り込んで十六夜に抱きついた。十六夜は苦笑して、維月を抱き締めた。

「ほんとによぉ…お前の頼みは断れねぇなあ…。そろそろ結婚するか。父上に聞こう。」

維月は嬉しそうに十六夜を見上げた。

「本当?!じゃあ、また一緒に寝られるのね!」

十六夜は複雑な顔をした。

「ん…まあ、前にも言ったが、婚姻ってのはそれ以外にもいろいろすることあるんだよ。お前はそれを知らなきゃならねぇ。」

維月は真剣に頷いた。

「分かった。十六夜が教えてくれるのね?がんばる。」

十六夜はため息を付いた。先に知っててくれた方が、オレは助かるんだがなあ…。

十六夜は維月に口づけて、その日は共に眠った。


次の日、十六夜は維月を抱いて、碧黎と陽蘭と共に龍の宮へ飛び立った。

それを気遣わしげに見送っていると、明人が膝をついて頭を下げた。

「王?何かご懸念でもおありでしょうか。」

蒼は明人を見た。明人も300歳近くなり、もう、どこから見ても神の軍神だった。今では師団長を務め、立派に統率している。

「…主も知っての通り、十六夜は転生して、前世の事は何の記憶もない。だが、龍の宮に転生している維心様に今日、会うのだ。」

明人は驚いた。

確かに十六夜の転生は知っていた。神の世に来た時、飛び方を教えてくれた十六夜…。何かと相談にも乗ってくれた、心の支えのような存在だった。なので、転生したと聞いて、小さな頃からいろいろと世話をした。今では、前世の頃と同じように話す。何も覚えてはいないのだが…。

「それでは、もしかして記憶を戻す可能性があるのでしょうか。」

蒼は、十六夜達が去った方を見た。

「分からないのだ。十六夜達がどのように転生したのかも定かではない。碧黎は何もかも忘れてまっさらで転生したと言っていたが、あの三人が何もせずにそんなことに甘んじるとも思えぬし。何より、維月は転生した時、左手に維心様から贈られた、結婚指輪をしっかりと握り締めていた。なのでもしかして…と希望を持っておるのだ。」

明人は頷いた。王は記憶を戻して欲しいのだ。それはそうだろう…長く助け合いながら来たのだと聞いた。まして片方は母なのだ。戻って欲しくないはずはない。

「記憶が戻ればよろしいですね。」

明人は心からそう言った。蒼は微笑んで頷いた。

「そうだな。」と、月があるだろう辺りを見上げた。「もう一度皆に会いたい。」


昼過ぎになり、碧黎達が戻って来た。

しかし、維月の姿がない。蒼はいぶかしんで十六夜を見た。

「維月はどうした?」

十六夜はちらと蒼を見た。

「あっちに残った。珍しいものがあるからな。オレも残ろうと思ったが、父上にもう、自立しないとと言われてな。こうして帰って来たのさ。」

どうも気に入らないようだ。蒼は、十六夜の記憶が戻っていないことに少し落胆した。

「まあ、いい機会かもしれない。この180年、離れた事がなかったじゃないか。」

十六夜はまだ納得していないようだ。碧黎を振り返って言った。

「父上、そろそろ維月と結婚しようと思うんだが、もういいだろう?」

碧黎は眉を上げた。

「…そうだな。まだ維月があまりに子供だからと思うておったが、そんなことを言っていたらなかなか婚姻出来ないしの。良い。戻ったら、そうするが良い。」

十六夜は、やっと納得したように頷いた。十六夜と維月が結婚する…じゃあ、それで記憶が戻るかもしれない。

蒼は、それを心待にしたのだった。


十六夜が一人で軍に立ち合い指南に来ていたので、明人は話し掛けた。

「十六夜!どうした、維月は?」

十六夜は顔をしかめた。

「みんなそう言う。あいつは龍の宮だ。」

明人は眉を寄せた。

「え…まさか維心様と婚姻?」

十六夜は見るからに不機嫌に明人を見た。

「違う。父上も必ずしもそうではないと言っていた。あいつは帰ったらオレと婚姻の予定だ。」

明人は首をかしげた。

「まだだったのか?とっくに結婚してると思ってたんだが。」

十六夜はため息を付いて首を振った。

「あいつは何も知らねぇからな。機会はいくらでもあったが、そこまではまだだ。かわいそうに思ってよ。」

明人は不安になった。記憶が無くても、維心様は維心様ではないのか。維月をめとろうと、今頃必死なのではないか…。

「十六夜。」明人は真剣に言った。「じゃあ尚更早く戻さないと。維月をめとりたいと言われたらどうする?聞いて来るならまだいいほうだ。いきなり事後承諾もあり得るぞ。」

十六夜は眉を寄せた。確かにそうだと思っているようだ。

「…蒼に言う。」十六夜は言った。「そろそろ戻って来させるようにな。」

明人は頷いた。間に合えばいいが…。

明人は神の世の手の早さは知っていた。まして前世あれほどに執着していた妃。魂が覚えているのではないのか。

明人は他人事ながら、落ち着かなかった。


蒼は十六夜から言われて、すぐに将維に使いを出させた。

そろそろ維月をこちらへ戻せ…。

維月は、次の日に戻って来ることになった。


その夜、十六夜は夢を見た。

十六夜…!助けて!怖い…!

維月が呼んでいる。助けなくては。だが、どこだ?

維月、どこだ?もう一度呼べ!

だが、応答はない。ただ維月の混乱する感情と、何かに怯える感情だけが十六夜に伝わって来た。

何が起こっている?維月はどうした?維月…!

「維月!」

十六夜は自分の部屋で飛び起きた。空が白んでいる。

嫌な予感がする…。

十六夜は明け始めた空を見ながら、皆が起き出すのを待った。

そして、維心が維月をめとった事実を聞かされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ