理事長室へ...呼び出された?!
表記を、校長先生から理事長に変更しました。
「机の上にご飯置いておくから、用意してあるスプーンで食べてね?」
「はーい!」
元気に返事するみか。
「行ってきまーす!」
「いってらっしゃーい!」
元気な声でいってらっしゃいを言ってくれるみか。
猫だった時も、こうやって玄関の前でお座りしてお見送りしてくれてたっけ。
みかは、ドアが完全に閉まる最後の瞬間まで笑顔で手を降ってくれていた。
「嬉しいなぁ! やっとちゃんとお喋りできるようになった!」
刻はちょっと進んで今は通学路。
いつもの待ち合わせ場所に居るのだが、約束の時間を大幅に遅れているにもかかわらず、全く姿が見えない。
俺は電柱に寄り掛かって足でタンタンとリズムを刻ませるくらいの苛立ちを覚えながら、友が来るのを待っていた。
そしてしばらくして……
「よお! 翔! 待たせたな! はっはっはー!」
『やっと来たか!』ちょっとムッとする。
しかしその苛立ちもすぐに消えてなくなってしまう。
こいつのどうどうとした態度と、この元気の良い声を聞いてると、さっきまで苛立っていた自分がバカらしく思えてきてしまうからだ。
「遅いってー! このままゆっくりしてたら学校遅刻しちゃうよ!」
「おう! おっしゃー! ギリギリモードの全開ドライブ!! うおおおおおお!! フルパワーブースト!!」
朝からよくあんなに走れるなぁと思いながら着いて行く俺。
というかさっきのセリフ、頭〓字Dかよ……しかもセリフなんか違うし……
遅刻者に訴えかけるような朝のチャイムが鳴っている最中に廊下を走っていた俺たちは、わずかその15秒間の間にそれぞれの教室へ向かい、チャイムが鳴り終わる頃には席に着く事ができた。
お陰で息が切れて汗ダラダラでヤバイ状況だが、遅刻にバツが付くよりかは断然マシだ。
ちょっとの間涼んでいたら、いつもの時間に先生がやってきた。
「ハイ皆さんー! 席に着いて下さーイ! センセーがホームルームを始めますヨー!」
そしてうちの担任は妙に元気が良い……
そして刻は授業終了後…………
キーンコーンカーンコーンという授業の終わりを知らせるチャイムが校内に鳴り響いた後、皆が浮かれている横から担任の先生が教室に入ってきた。
「ハーイ皆さん! 静かにして下さいネー! いつまでもウルサイと帰れませんヨー!」
皆が一斉に話を止め、それぞれの席につく。よっぽど帰りたいんだね。
「ハイッ! ホームルーム終わりっ! それと、翔クンはちょっとだけオハナシがあるから、センセーの所まで来て下さいネ! いいんちょーゴーレイ!」
ん? 一体なんだろう? なんかしちゃったかなぁ……
号令が終わった後、先生の所まで行く。
「なんでしょうか先生?」
いつものあの軽やかな笑顔は消え、ちょっと厳しい顔になる。
釣られて俺も緊張……!
「えーっと……その……理事長さんに呼ばれているみたいなの……すぐ行って……」
先生のいつものアメリカン口調が消え、普通の日本語になる。
それがいつもにも増して怖く、ちょっと裏返った声で返事をしてしまう。
「え? ほほ……本当ですか?! 生徒は誰も知らないというあの?!」
そう、誰も知らないのだ。理事長の事を……
先輩から聞いた話だが、何か行事がある時でも『理事長の代役』として教頭しか出てこないというし、実際俺たちの入学式の時も、理事長の姿を見る事が出来なかった。
それにこの学校に代々伝わる怪談話として、『ある生徒が理事長室に呼ばれてからそれっきり帰って来なかった』という怖い噂がある。
怖い事に、この噂は先生達も信じているというから、余計にリアリティがあって怖い。
「ええ……本当なの……」
じつはさっきの噂には続きがある。
居なくなった生徒の事を、教頭に聞き込みした先輩が居るらしく、その人が言うには『いくら教頭先生に聞いても【転校した】としか言ってくれない』のだそうだ。
教頭が口を割らず【転校した】の一点張りなので、今度は【転校した】その生徒の家の前まで行ってみた生徒がいるようだ。
当たり前であるが、そこには家がなく何事も無かったかのように、売り出し地になっていたという。
この話の恐ろしいのはこの後だ。
その人が近隣の人に【転校した】その生徒と家族について聞いても『知らない』としか答えが帰って来なかったそうだ。
もしかして俺は……
怪談話として語り継がれてしまうのだろうか?
「何があるか分からないだろうけど……とにかく行って!」
「あ! 先生!!!」
途中、自分の足につまずいて転ぶほど、理事長に恐れをなしている先生がどこにいるであろうか。
先生の今の態度、そして先輩達が言っていた理事長の事、どうやら嘘ではないらしい……
あまりの恐怖に足がガクガク震えてその一歩を踏み出す事が出来ない。心臓もバクバクしており、今にも爆発しそうだ。
誰かが閉め忘れたのであろう窓から強風が吹く。カーテンがガチャガチャ音をたて、その風の強さが伺える。
その風が俺に、これから起こる事を教えてくれているのだろうか?
「おーい先生に呼ばれたみたいだけどどうしたー?」
俺の大親友がいつもの調子でやって来た……
俺はこいつに本当の事を言うべきだろうか……?
こいつはかけがえのない親友だ。俺の私情に巻き込む訳にはいかない。
だがしかし、ここで嘘を通そうとしてもすぐに見抜かれてしまうのがオチだろう。
ここは……
--本当の事を言おう--
「よく聞け……俺は、理事長に呼び出しを受けた……」
「お、おい……」
こいつも真っ青になるだなんて……
「嘘じゃない。先生が言ってた……さっき先生が慌てて出ていくの見たろ?」
「ああ……俺に何か出来る事はないか?」
これほど友達という存在に感動したことはない。
例えそれが、口だけだったとしても、『俺の最期を知っている人』が居るのだから。
なにより……
---この怪談話のネタとなった人物を覚えていてくれるのだから……
「ありがとう。じゃあ、俺の事を……最後まで忘れないでくれ……例え居なくなってしまっても、少しでいいから、俺を思い出してくれ」
「ああ……! 俺は決してお前を忘れない!」
「じゃあ俺は行ってくる……」
俺は踵を返して教室から出た。
ゴーッという風のすごい音に煽られながら一歩一歩、理事長室の方へ足を踏み出す俺。廊下を吹き抜ける風が、俺を絶対に逃がさまいと槍を突ついているかのようだ。
俺は理事長室へ呼び出された。
それが意味するのは一体……