馬鹿、。
甘酸っぱいのを書こうとしたらこうなってしまった…
駄文失礼します
たんたんとドリブルの音だけが体育館に響いていた。死ぬほど蒸し暑くって最悪だけど、文句も言わないでここにいるあたしってなんて偉いんだろう。
目の前にいるクラスメイト、日下は真剣な表情でバスケットボールをついていた。ゴールを見据えてイメージトレーニングでもしているのだろう、ボールを投げるような仕草を何度も繰り返していた。
「日下、まだ?あたし暑くて死んじゃうんですけど?」
「待って、もうちょっと。」
そう言って日下はまたドリブルを始めた。かれこれ三十分くらい、同じ事を繰り返している。
あたしは良い加減いらいらして、傍に置いてあった日下の鞄の中身を引っ掻き回して中からガムを取り出した。乱暴に紙を破り、くちゃくちゃ言わせながらガムを噛む。ちょっと気が紛れたけど、このガム不味い。
「よし・・・!」
日下はやっと覚悟を決めたようだ。角度を決めて、いざスローイング。
「うあああああ駄目だまだ駄目ぁぁ!!」
日下はそんな台詞と共に崩れ落ちた。
「ふざけんな!何回目だよ馬鹿!こっちは暑いし待たされるしでいらいらしてるんだよ!」
メンタル最弱な日下を一喝して、あたしはまた日下の鞄に入っていたガムを噛んだ。
本当に不味いわこのガム。
最悪。
日下は泣きそうな顔で叫ぶ。
「お前はそうでもないかもしれないけどな、俺はこの一投に全てがかかってるんだよ!」
「かけられてるのにそうでもないわけないだろ!」
そうなのだ。
日下が一投にかけているのはあたし。フリースローが一発で入ったら付き合ってくれ、という日下の言葉から始まったものなのだ。
かけられている側なんだから内心どきどきしておかしくなりそうだったのに、日下ときたらうじうじしてなかなか投げないものだから、さすがのあたしもどきどきがいらいらに変わってしまうというものだ。
「さっさと決めなさいよ!」
「そ、それは、入ったら付き合ってくれるということか・・・?」
「そうだよ。」
「ああああなおさら緊張してきたぁあぁあぁぁぁ!」
駄目だこいつ、とあたしはため息をついた。
日下のことは嫌いじゃない。寧ろ気になる存在といえる。見た目もそんなに悪くないし、性格もなかなか良いから同姓にも異性にも人気がある。一応あたしだって女の子なので、ほかの子が日下を好きな気持ちも分かる。だから告白してきてくれたときは、すごく嬉しかった。
でも喜びもつかの間、こんな事になっている。
何で日下はわざわざ自分を追い込んだのだろうか。普通にokするのに。
崩れ落ちたままだった日下ががばっと起き上がった。
「俺は、やるぞ!!」
「おー、早くして。本当に暑くて死んじゃうから。」
口の中で酷い味を披露してくれているガムを吐き捨てたい衝動を抑えて、あたしはそう言った。
日下は小さく深呼吸をしてゴールを見据えた。
体育館がしんと静まり返った。
日下が沈黙を破るボールを放った。
きらり、と日下の耳についているピアスが光った。
日下の放ったボールが弧を描いて飛んでいく。
あたしは息をのんだ。
ボールは吸い込まれるようにゴールに入った。
「や、や、やったぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわあ!?」
日下は喜び余ってあたしを抱き上げた。
それから満面の笑みを浮かべて言った。
「これからは一緒だ!」
まるでプロポーズみたいな言葉を叫ぶ日下。真っ白なその笑顔になんだか顔が赤くなってしまう。あたしは小さくため息をつくとはにかんで笑った。
「馬鹿じゃないの。」
日下はそうか!と元気良く答えて、ひたすらあたしを抱きしめたのだった。
後日日下に何であんな提案をしたのか聞いた。そしたら笑顔で格好つけたかったから、と答えられた。あたしはやっぱり馬鹿、と小さくつぶやいた。