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キングダムパーティー  作者: 渡雪
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第6話 ドラゴン

 最初に動いたのは、ドラゴンの方だった。レオルたちが動き出そうとするのを見てから反応したのだ。ドラゴンは背中についている一対の翼を大きく広げて、二度羽ばたいた。これは飛ぶためではない。四人を威嚇するために突風を起こした。


「みんな散れ!」


 レオルは大きく声を上げた。ミラとヒューレはドラゴンに対して左に、レオルとガーネットは右に飛んだ。ドラゴンは構わず、火炎弾を吐き出す。

 彼らが左右に別れた直後、その場所を巨大な火炎弾が通貨する。その火炎弾は広場を囲む民家の外壁に直撃する。被弾した民家は弾の勢いに負けて、脆くも崩れ去る。

 ドラゴンの注目はレオルとガーネットの方に向いている。


「ミラ、私たちが囮になるからそっちは死角から攻撃して」


 ガーネットはハルバードを右手で刃を後ろに向けて持ち、左右に撹乱しながらドラゴンとの距離を詰める。レオルはガーネットが右に動けば左に、左に動けば右へと反対の動きをする。

 ドラゴンとの戦いで重要なことの一つに動きを集中させないことがある。ドラゴンの攻撃は一撃ずつが強力である。故に複数の人数が一度で負傷をすると、一気にピンチへ陥ることになる。


「来るぞ、ガーネット」


 細かいステップを踏み、体を左右に揺らす二人に対してドラゴンは連続で火炎弾を吐き出す。今度は人の頭台の大きさの細かい弾が大量に二人を襲う。


「二人とも、今だ」


 レオルの掛け声と共にドラゴンの死角から回りこんだミラとヒューレがドラゴンの背後に現れる。


「くらえ!」


「そらよっと」


 ミラは左の翼、ヒューレは右の翼に剣を振り下ろす。ドラゴンに当たると、金属同士が擦れるような不快な音を発した。


「はー、かってぇ。鱗も尋常じゃねぇな」


 ヒューレは剣を引いてドラゴンと距離を取るが、ミラはそのままもう片方の剣で追撃をかける。ドラゴンもミラに気づいたのか左の前足を邪魔な物を追い払うかのように乱雑に振る。


「ッ!」


 単調な一振りを下に潜りこんでミラはかわしたが、巨大なドラゴンの攻撃は周囲の空気を揺るがす。その揺れによってミラの体勢が崩された。

 ドラゴンは攻撃の手を緩めず、もう一度ミラに向けて前足を振り子のように振る。


「よくかわした」


 注目の逸れたレオルとガーネットは一気にドラゴンとの距離を詰めて、十分に溜めた一振りを放つ。レオルが放った剣はミラを襲う前足をたたき落とし、ガーネットはドラゴンの顎にハルバードを思いっきり振り上げる。

 ガーネットの一撃でひるんだドラゴンに体勢を立て直したミラと再び接近したヒューレが攻撃を仕掛ける。二人の剣はドラゴンの頭部を直撃して、頭を地面に打ちつける。


「来るぞ、唸り声だ!」


 レオルが上げた声に反応して、四人がドラゴンから距離を取るために後ろに跳ねた直後、ドラゴンは勢いよく首を持ち上げ、口から唸り声を吐き出す。その声は周囲の空気を振動させて、レオルたちの動きを鈍らせる。


「っぶねぇ!」


 乱雑に振り回したドラゴンの両前足がヒューレの鼻先をかすめる。一瞬でも判断が遅れていたら、硬い鱗に包まれた前足の餌食になっていただろう。ドラゴンとの戦いでは一撃が命取りになる。

 唸り声を止めたドラゴンはレオルたちが追撃をかける前に大きく翼を開いて、ゆっくりと羽ばたきを早くする。ダメージを負ったので、一旦空に逃げるつもりである。


「させるかっ」


 いち早く気づいたガーネットはハルバードを両手に持ち、一気に飛びかかる。

しかし、ドラゴンの方が一枚上手だった。向かってくるガーネットに火炎弾を吐き出すと同時にかわすことを予測した場所に前足を振り下ろす。ガーネットは火炎弾が障害となって、前足の動きに気づくことが遅れた。


「がっ――!」


 ハルバードを上に構えることで前足の直撃は避けられた。だがその凄まじい衝撃は直に受けて、受け身も取れずに真下の地面に叩きつけられた。さらにドラゴンは攻撃を続けようとする。倒れているガーネットには攻撃から守るすべはない。

 ドラゴンの攻撃はヒューレが横から前足を弾くことで、地面に叩きつける位置をずらして、ガーネットに当たることを逃れた。ヒューレはそのままガーネットを抱えて、ドラゴンから距離を取り、レオルの元まで運ぶ。


「隊長、すいませんが衝撃で腕をやられてしまったみたいです」


 ガーネットの腕は赤く腫れている。叩きつけられた衝撃で肋骨が数本折れているようで胸を押さえて苦しそうにしている。


「ああ、無理するな。早く戻って手当してもらえ」


 ガーネットはもう一度「すいません」と言って、ゆっくりと下がっていった。

 その間にドラゴンは飛び立つ準備を終えて、空中に静止しながら地上の様子を見ている。


「どうします、レオル隊長」


 ミラもレオルの元に来て、空中のドラゴンを見上げている。剣ではドラゴンの高度に届かないだろう。おそらく建物に昇ったところで届かない。


「残念ながらあの高さは剣じゃさすがに無理だろうね。どうするこれから? あいつも今は積極的に攻撃する気はないみたいだし」


 ヒューレは肩に剣をかけてニヤケ笑っている。先ほどまでの戦闘で疲労を感じているようで笑顔にも力がない。


「いつまでも飛んでいるわけにはいかないでしょう。これで向こうに戦意が無くなり、飛び去ってくれればありがたいですが、まだ戦う気みたいですね。いつ攻撃を仕掛けてくるかわからない以上、警戒を解くわけにもいきません」


 その時、辺り一帯に警報の音が鳴り響いた。その後に早口の声が続く。


「D57地区にてドラゴン抗戦中の隊士に伝達。ただいまから第四魔術部隊の対空遠距離魔術砲【雷鳴】の座標設定に移ります。よって隊士たちにドラゴンの行動を止めることを命じます。今から60秒後に砲撃を開始します」


「はあ、やっと準備完了か。じゃあさっさとドラゴンの気でも引きますか」


 ヒューレは放送を受けて、空を見上げて剣をドラゴンに向ける。


「隊長、何ですか【雷鳴】って?」


 ミラは頭をかたむけてレオルに聞く。


「そうか、ミラはまだ知らないんだったな。【雷鳴】とは第四部隊、魔術の精鋭たちが使う都市防衛用の大型魔術砲の一種だ。他にも種類は存在するが、【雷鳴】は空中にいる対象に有効なタイプの魔術砲だな。普段はあまり使われることはない。発動するのにも莫大な魔力が必要になるしな」


「要は外敵を排除する魔術ってこと」


 ヒューレは最後に付け加える。なるほど、とミラは頷く。その外敵というのは今回の場合、ドラゴンになるわけである。


「というわけで俺たちはそいつが外れないように、おとりをするの」


 ヒューレは落ちていた小石を思いっきりドラゴンに投げつける。当たったとしてもダメージになることはない。その後もヒューレは小石を投げて続けている。結果は当たったり、当たらなかったり。


「あれは気を引けているんでしょうか」


 ミラはその光景を見ながら小さくため息をつく。大の大人が空に向けて石を投げている光景というのはシュールだ。しかもドラゴンに向けてということを足すとわけわからなくなる。


「たぶんなっている、と思う。そろそろ砲撃の時間だ。ヒューレ隊長、もういいですよ」


 ヒューレが帰ってくると、レオルが時間を確認しながらカウントを始める。


「5、4、3、2、1――」


 空に一閃の光が突き抜ける。光はドラゴンを飲みこんで山の端まで続いている。音も無い。ただ一瞬で地上から放たれた巨大な白い線が空を通った。


「ありゃ喰らったら一溜まりもないな。おっ、落ちてきた」


 雷撃に飲みこまれたドラゴンは羽ばたきを止めて地面に向かって自由落下を始めた。地面にぶつかると振動が起こる。レオルたちがドラゴンの落ちた場所を確認しに行く。

 ドラゴンの硬い鱗は所々が焦げ、まったく動かなくなっていた。


「なんとか倒せたようだ」


 レオルは安心して、構えを解く。見る限りは再び動くことはないだろう。とりあえず事の収拾をつけることができたようだ。


「はぁ~、疲れた疲れた。ったく人騒がせなやつだよね。あぁそうだ、レオルとミラちゃんはガーネットちゃんを見に行ってあげな。心配してると思うから早く安心させて上げた方がいいと思うよ。俺が本部には報告しとくから」


「すいません、ヒューレ隊長。恩にきます」


「ありがとうございます」


 レオルとミラは第七部隊の隊舎へと走っていった。

 残されたヒューレは倒れたドラゴンの方を眺める。そして大きくため息をつく。


「隠れてないで出ておいでよ、潜入者さん」


 ヒューレが面倒そうに声を上げる。すると町の風景の一部がぐにゃりとねじ曲がり、黒いローブにフードで顔を隠した人間が現れた。


「魔術で隠れてたのか。まあ、いいや。用件は何だい。こいつの回収、それとも情報の収集か?」


 ローブの人間はヒューレの応答に答えず、ゆっくりとした動作で倒れているドラゴンに手を向ける。手には黒い手袋をつけている。

その動作の後、ドラゴンを囲むように地面に魔術陣が現れた。魔術陣が完成すると、ドラゴンは光に包まれて、その場から姿を消した。


「やっぱりこいつを使役した人間か」


 ローブの人間は袖からタガーを覗かせて、それを構える。


「目撃者を抹殺するつもりか。でもいいのか。こんなとこで俺の相手をしてると、部隊の援軍が到着するぞ。今の俺にだってその時間を稼ぐことはできるぜ」


 ヒューレにも現在の状態でおそらくこの相手には敵わないことが。相手は一人で大型の魔物を使役できるくらいの実力者だ。ドラゴンとの戦いで疲れ切ったこの体じゃ相手にならない。とにかくハッタリでこの場を乗りきるしかない。


「どうした? かかってこないのか。それならこっちから行くぜ」


 絶対、行かないけどな、とヒューレは心の中で呟く。

 熟考しているようでローブの人間はダガーを手にしたまま静止している。未だに構えは解いていない。


 しばらくの無言の拮抗が続き、ローブの人間はダガーを引っ込めた。どうやら口を封じることは諦めたらしい。ヒューレに背を向けて歩いていくと、再び風景の中に消えていった。


「本当に疲れる一日だ」


 ヒューレは剣をしまい、ドラゴンが倒れていた場所を背に歩いていく。


「クークル帝国の動きが活発化している中でこの奇襲。ククール帝国の先兵、それともこの状況を好機と見て台頭する組織か。候補が多過ぎて絞り切れないな。どちらにしろ、もう争いは始まっているのか」


 ヒューレはもう一度大きくため息をついた。


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