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キングダムパーティー  作者: 渡雪
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第4話 会議

「隊長、全部の試合が終わりましたよ」


 既に隊士による練習試合はすべて終わり、ぞろぞろと試合を終えた隊士たちが修練場から去っている。ガーネットが試合結果の書かれた書類を見ていると、修練場の壁を背に、何か考えているレオルの姿に気づいた。


「ん、あぁ。そうか」


 レオルは話しかけられるまでガーネットが近くいたことに気づかなかった。自分の考え事にそこまで集中していたのだ。


「どうしました? 何か問題でも」

「……ガーネット副隊長。片付けが済み次第、隊長室に来てくれ」


 そう言い残し、レオルは思い悩んだ表情のまま修練場を出ていった。




「失礼します」


 ガーネットが隊長室の扉をノックすると、中からレオルの返事が聞こえた。扉の先のレオルは腕を組みながら椅子に座っていた。机には棚から出したであろう書類を乱雑に広げている。


「そこに座ってくれ」


 レオルは自分と机を挟んで向かい合うように置いてある椅子を指した。ガーネットがその椅子に座ると、レオルは机の上にある書類の中から一枚をガーネットの前に出した。

ガーネットはその書類に目を落とす。


「これは、ミラーシャが訓練所にいた時の実績ね。これがどうかしたの?」

「書類で見る限りは成績優秀で有能な隊士になりうる人材だ。しかし彼女と剣を交えた時、一瞬だけ彼女の剣が鈍ったような気がしてな」


 レオルが言う一瞬とは、ミラに親友のことを訪ねた時だった。見ていた人間にはわからなかったが、直接剣を交えたレオルだけは感じることができた。


「それが気になるの?」

「ああ、もしかしたら何か問題を抱えているのかもしれない」


 ガーネットは書類を机に戻し、未だに腕を組んで悩んだ顔をしているレオルに目を向けた。小さい頃からの付き合いなので知っていることだが、レオルは何かと考え過ぎる節がある。どんな他愛もない、誰もが見逃してしまう物でも。


「またいつもの考え過ぎじゃないの」


 ガーネットは力を抜いて、椅子に背を預ける。


「いや、しかし……」


 レオルは一向に意見を譲らない。ガーネットは自分が譲らなければ、話が終わらないことを理解している。


「はいはい、わかったわ、協力する。でもあまり期待したいでね。こういう問題は誰にも教えたくないこともあるから。個人の問題の時は、私には何もできないわよ」

「ああ、ありがとう。助かるよ」


 ガーネットは席を立ち、扉から出ていく。


「いいわよ。幼馴染なんだから」






 翌日、


「おはようございます」


 食堂に入ってきたミラは朝食を食べているガーネットの向かいの席に座り、周囲に目を走らせる。


「どうかしたの、ミラ?」


 ミラの行動に気づいたガーネットは手を止めて、不思議そうな顔をしているミラに尋ねる。


「いえ、隊長の姿が見えないなぁ、と思って」

「あぁ、隊長ね。隊長なら今頃は定期会議に行ってるよ」


 ガーネットの答えを聞いたミラは余計にクエスチョンマークを増やす。


「定期会議?」





 レオルは所々松明で照らされた暗い階段を下りていた。彼の後ろを二人の男女がついている。ここは王宮から地下に向かって伸びている階段、そこの入り口は限られた人間にしか知らされていない。


 三人の足音だけが響く中、男の従者が口を開いた。


「しかしこんな時でも定期会議は開かれるんだな」


 男の呆れたように息を深く吐きながら言った。


「ヨラ、私語を慎みなさい。このような時期だからこそ情報を交換する会議が必要になるのです。まったく……」

「っつてもシナだって来る前に、会議が面倒くさいって言ってたじゃないか」

「なっ!レオル隊長の前でそういうことを言うのはやめなさい」


 レオルの背後で階段を下りながら口を塞ぐ、それを避けるという器用なことをする音が聞こえる。その証拠に階段に足を下ろす音に乱れはない。

 二人が騒ぐ音を聞いて、レオルは笑みを洩らす。


「いつも二人は仲がいいな。おっとそろそろ着きそうだ」


 目的地である部屋の前には松明に照らされた一つの影が扉にもたれかかっていた。その影はレオルの影は階段を下りてくるレオルの姿を認めるとゆっくりと近づく。


「やーやー、レオル君。昨日ぶりだね」

「ヒューレ隊長……、復活していたんですね。どうしたんですか、中には入らないですか」


 


「いやはや、俺としたことが隊長章を隊舎に忘れてしまったようでね。今急いでファニールちゃんに取りに戻ってもらってるんだ」


 なるほど、それで頬に二、三発殴られた跡があるのか、とレオルは納得した。


「じゃあ先に失礼しますね」

「ああ、遅れるかもしれないから後のメンバーによろしく言っといて」


 自分で伝えてください、そう言ってレオルは胸元につけている隊長章を扉に向ける。すると隊長章は赤く輝き、その輝きに呼応して扉は重い音を響かせながらゆっくりと開いた。


「では我々は外でお待ちしております」

「礼」


 ヨラとシナは同時に頭を下げると、今まで来た階段を再び上り始めた。

 レオルが部屋に入ると、自動で背後の扉が閉まった。

 部屋の中には二つの部隊長が揃っていた、と言っても今回の会議に参加するのは四つの部隊だけなのだが。つまり外にいるヒューレが中に入れば会議が始まる。


「第七部隊隊長レオル・アルファス、只今参上いたしました」


 一番奥の正面の席に40代くらいだろうか、くすんだ茶色の髪と目をした男が座っていた。彼は第二部隊の隊長を務めるクリフ・レーソンである。通常ならば第一部隊隊長が会議を仕切るはずであるが、その隊長は現在出払っているのでクリフが代理として仕切っている。


「うむ、適当に座ってくれ」


 クリフはいつも通りの優しそうな笑みを浮かべたまま席を勧める。

 レオルは一礼し、部屋の中を一瞥する。円状の机に並べられた9つの椅子は、2つの席だけが埋まっていて、何か閑散として空気を感じる。

 レオルは扉から一番近い席に座る老女とその隣に立つ少女に目を止める。


「やあ、おはよう」


 レオルは立っている少女に話しかける。レオルに気づいた少女はいそいそとお辞儀する。


「お、おはようございます!きょ、今日はよろしくお願いします。ほら、お婆ちゃん。第七部隊のレオル隊長だよ」


 少女は隣に無関心で座っている老女の肩を叩くがまったく反応がない。今度はレオルが老女の方を向き、一礼する。


「おはようございます。シュリマ第四部隊隊長」


 老女の名前はシュリマ・サースティン。国に所属する魔術師を統率する部隊の隊長である。今でこそ耳の遠い老人だが、昔は凄腕の魔術師だったという噂が流れている。そしてシュリマの隣に立つ少女は、孫のアリア・サースティンである。アリアも祖母の才能をしっかりと受け継いでおり、弱冠14歳で第4部隊に入隊した。常にシュリマのサポートをするため傍にいる。


「すいません、お婆ちゃん寝ちゃったみたいで」

「ああ、気にしなくていいよ」


 レオルが二人から離れて、空いている席の一つに腰掛けると同時に扉の前で立ち往生していたヒューレが入ってきた。ヒューレの姿を確認したクリフはゆっくりと頷き、姿勢を正す。


「さて、全員揃ったようだ。会議を始めよう」





 出席した隊長の数も少なかったこともあって、会議は何の問題もなく進行し、そろそろ終了を迎えようとしていた。


「もう最後の議題か。今回はいつもよりかなり早く終えることができそうだな。最後は隣国レークル帝国の動きが活発化してきたことだ。何か報告のある者は?」


 クリフの言葉に応じて、ヒューレが手を挙げる。


「クリフ隊長、その議題は今欠席している隊長方が戻られた後にした方がよいのではないでしょうか」


 ヒューレの発言は的を得ていた。例外を除いて、出席している以外の部隊長はその問題の対処をするためにクークル帝国がある東の地方にいる。


「ふむ、ヒューレの言うことも確かだ。わかった、この議題は他の部隊が戻ってきてからにしよう。それでは今回の定例会議はここらで--」


 クリフが会議の終了を告げようとした時だった。突然、扉をたたく音が部屋中に響いた。


「大変です!王都南部の商業地区に突如ドラゴンは出現しました。現在、周囲の市民を避難していますが、ドラゴンの被害が大き過ぎて対処しきれません」


 その声を聞いたクリフは冷静に隊長章を扉に向けて、扉を開く。


「各隊長は隊舎に連絡を取り、適当な人数を現場に向かわせてくれ。それが済み次第、隊長も現場に向かい、ドラゴンの捕縛または討伐を行ってくれ」


 クリフの声を聞きながらレオルとヒューレは部屋から飛び出して、階段を駆け上がる。


「レオル隊長!」


 階段の出口には従者のヨラとシナが立っていた。近くにはファニールの姿も見える。


「二人は隊舎に行って状況を説明、すぐに動けるメンバーを現場に送ってくれ」

「わかりました」


 レオルは指示を送ると、城を最短距離で飛び出す。


「いやはや面白いことになったね」


 いつの間にかヒューレがレオルと同じ速さで並走していた。


「遊びじゃないんで真面目にやってください」

「わかってるよ」


 進行方向から逃げてくる市民をかわしながら市街地を駆け抜ける。ドラゴンの遠吠えが耳に届く。目的地は近いらしい。


「ヒューレ隊長、一つ聞きたいことがあるんですが」

「なんだい」

「ドラゴンってこの辺りで出現しますっけ?」

「ん~、ここらは結構治安がいいから普通は出ないね。ドラゴンなんてダンジョンの中くらいじゃないのかな」


 ドラゴンは普段、人の前に現れるようなことはしない。洞窟の奥や古塔の最上階などの人目につかない場所で静かに暮らすのだ。


「……やはり不穏な臭いがしますね。可能性としては召喚師の仕業か」

「ま、その辺の事情は厄介な奴を倒してからでいいんじゃないの」


 ヒューレとレオルは目の前で暴れるドラゴンに剣を向ける。

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