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キングダムパーティー  作者: 渡雪
3/7

第3話 ミラの実力

ミラに大剣が振り下ろされる。

ミラは全てギリギリでかわして攻撃の隙をうかがう。

大剣という隙が大きそうな武器だが、グリーフはただ振り下ろすだけではなく振り下ろした時に自分をガードできる盾にしている。

さすが精鋭ぞろいの第7部隊だとミラは感心する。


「ちっ、なんで当たんねえんだ!」


グリーフは剣を振り下ろしながら舌打ちする。

ミラは剣術より見切り術のほうが得意で、訓練所での模擬戦で彼女に傷をつけた者は1人もいないと噂されるほどだった。

そしてグリーフの攻撃も雑になっていく。

ミラはそのチャンスを逃さなかった。


「……すみません!」


ミラが2本の剣を抜く。

ミラの左手の剣がグリーフの大剣の軌道をそらし、右手の剣で彼の首を斬る。

いや、実際は峰打ちだった。

しかしミラの防御から攻撃への切り替えが早かったのでほとんどの人がミラが彼を斬ってしまったと錯覚してしまった。

グリーフの巨体は静かに崩れ落ちた。


「ふう……。」


ミラが安堵の息をもらす。

自分の力でもここに通用するのだと思い安心したのだ。

しかし安心しきっているわけではない。

先ほどの戦い方を見せてしまったので、同じ手は通用しないかもしれない。

だが周りは全員自分の先輩であり、容赦なく倒していっていいのか彼女は疑問にも思っていた。


「ミラ。」


そう思っていたときにガーネットに話しかけられた。


「あ、ガーネットさん。」

「さっきの戦い方すごかったよ。私にはまず真似できない戦い方ね。」

「ありがとうございます。」


ミラは一礼する。

しかしガーネットの表情が険しくなる。


「けどね、剣にカバーをはめないと危ないじゃない。峰打ちだったけどそれで死ぬかもしれないんだから。」

「……カバー?」

「ほら、あそこにあるカバー。グリーフだってつけてたでしょ?」


ガーネットが指差したところにゴムでできたカバーが置いてあった。

ガーネットはそのままそこに行き剣用のカバーをもらい、ミラの元に戻ってカバーをつけた。


「あ、ありがとうございます。」

「いいのいいの。新人隊士にはよくあることだから。」




レオルは各々で戦っている隊士達を見ながら、先ほどまで副隊長と会話していた少女をずっとみていた。


「どう?あの子は?」


その副隊長がやってくる。

隊長は少女から目を離さず副隊長の顔を見ずに返す。


やっぱり・・・・私が見込んだ子だよ。」

「……すごく嬉しそうね。そんなにあの子と闘ってみたいの?」

「いや、それにはまだ早すぎる。さっきの彼女の戦い方はまだ実力の一部分だけだろう。もう少し見て実力を測らないと。」

「けど、結局はあの子とは闘ってみたいんでしょ?」

「ああ。」


レオルは嬉しそうに返す。

ガーネットはそんな彼を見て大きく溜め息をする。


「あなたとは腐れ縁だけど、やっぱりその子供っぽい性格はいつまでたっても直らないのね。それがなければあなたは完璧なのに……。」

「ガーネット、完璧な人間なんてこの世には存在しない。人はいつでも成長するのだから。」

「……あなたの場合は一番成長しなきゃいけないところが成長してないけどね。」


けど…、とガーネットは続けようとする。

彼女は昔から直らないレオルの性格によって何度も助けられたこともあったと思い出す。

そのレオルはけどと言ったまま何も続けようとしないガーネットを不思議そうに見つめた。


「けど……、何だ?」

「けど、それがなきゃレオがレオじゃないと思っただけ。それだけよ。」


レオルの頭にあったクエスチョンマークがさらに増える。

しかしガーネットは肝心なことを言わずにその場を去ろうとする。


「じゃ、私もそろそろ闘ってきます。」

「あ、ああ。頑張れよ。」

「ええ。ありがとうございます、隊長。」


レオルは心に引っ掛かっていたものがあったが、今は隊士たちを見るのが優先だと心を切り替え、そちらに集中しようとする。

だが、自分も少しくらいは体を動かしたいと思っていた。

そのためかガーネットやミラ、そして自分と張り合える隊士たちのほうばかりに目がいってしまう。


「……公平に見なければ。」


と、思いながらもどうしてさっきガーネットに軽く相手をしてほしいと頼まなかったのか後悔していた。

レオルはミラを探す。

さっきまでいたミラがどこかに行ってしまったのだ。


「あれ?」


もう一度ミラがいたところを確認してみるとそこにミラがいた。

レオルはそこでミラがなぜ一瞬消えてしまったように見えたのか理解した。

ミラは一戦目とは全く違う戦い方をしていたのだ。

ミラは剣一つを地面に刺してその剣を利用した戦い方をしていた。

ミラが剣を踏み台にして相手であるアラドの頭上から剣を思い切り振り下ろす。

しかし彼もそれに反応して自身の剣で防御する。


「……」


レオルは何も言わずにただその闘いを見ている。

しかし彼は嬉しそうだった。

こんな面白い闘い方はみたことないと。

ぜひ相手したいとワクワクしていた。


……ガーネットがどこかで溜め息をするのを感じた。




ミラはバックステップでアラドと距離をとる。

そして、距離をとりながら地面に刺さっている剣のもとに行き、その剣を右手で、逆手で持ち抜いた。

また戦闘スタイルを変えたのだ。

ミラは右手の剣で斬り上げる。

しかし空振りだった。

だが砂煙が上がる。

アラドはそれで視界を奪われた。

彼はどこからくるか身構える。

しかしどこからも来る気配は無い。

ミラはその時、アラドが警戒していなかった背後から攻撃しようとしていたのだ。

ミラはアラドが自分をギリギリ見えない位置から一瞬の隙を見て一気に左手の剣でアラドの背中に剣を突きつける。


「終わりです。降参してください。」

「う……」


砂煙が晴れる。

レオル達がみたのはミラがアラドの背中に剣を突きつけていたところだった。


「もう先輩は一度背後から刺されているんです。私がそうしなかったのはあまり傷つけたくないからです。これ以上待たせるのなら私はもう片方の剣であなたを斬ります。」


斬るといっても剣にカバーがついていて斬れないので叩くといったほうがいいかもしれない。

アラドは剣を手から放し、そのまま両手をあげて


「……わかった、降参する。」


と降参した。

ミラは安堵し、剣を鞘におさめる。

その時だった。


「ミラーシャ・ワイアット。」


第7部隊隊長レオル・アルファスがミラに近づいていった。


「は、はい。」


ミラはいきなり隊長に呼ばれたため、緊張して声が裏返ってしまった。

レオルはミラが緊張していることなどお構い無しに話を続ける。


「ミラーシャ、君はもう他の人と闘わなくていい。」

「……えっ…」


ミラの目から涙が出そうになる。

自分がなにかいけないことをしたのかと思い返す。

しかし思いつかない。

だが一つだけ、彼女は先輩を容赦なく倒してしまっている。

そういうことがいけないのかと後悔する。


だが、次にレオルの言葉から発せられたのはミラが予想していなかった言葉だった。


「その代わり、と闘ってくれ。」

「え?」


また驚きの声が出た。

しかし今回のは少し間の抜けた声だった。


レオルはミラが驚いたことに少しうろたえた。


「え?私が隊長と?」


ミラは混乱している。

レオルは少し落ち着いて、ミラにもう一度言う。


「ミラーシャ、私と闘ってくれ。君の戦闘は面白い、ぜひ闘ってみたいんだ。」

「で、でも私なんかが相手で大丈夫なのでしょうか?」

「新人に稽古をつけるのも隊長の仕事の一つだと思う。まあ稽古というより模擬戦だから本気できてもらうけどね。」

「な、なら、できる限りでやってみます。」


ミラは剣を抜き、深呼吸する。

するとミラの雰囲気が一変した。

先ほどまでおどおどしていた少女の姿はなく、そこには一人の双剣士がいた。

レオルは思わずにやけてしまう。

だがそれも自身が剣を構える前までだった。

レオルが剣を構えた瞬間にミラは攻撃に入る。

ミラがリズムよく攻撃していく。

タンタタンタタタタ、タタンタタンタンタタタン。

しかしレオルはそれをいともたやすく防御していた。

そこでミラは剣の攻撃に加え、蹴りを使う。

だがレオルは下段の蹴りは片足をあげて避け、中段の蹴りは剣で受け止める。

ミラは片方の剣を斬るのではなく、突きで攻撃するようにした。

レオルは突いてきた剣を流し、ミラはその勢いで転んだ。

立ち上がったミラに今度はレオルが斬りかかる。

しかしミラは得意の見切りでレオルの剣をかわしていく。


「目視できるなら絶対に当たりませんよ。」

「なら、これはどうだ!」


レオルは剣を地面からあげて、ミラに砂をかけた。

ミラはそれを避ける。

だがレオルは続けてミラに砂をかけるが、彼女はそれをすべてかわす。

そしてレオルが次に砂をかけようとしたときにミラが自身の双剣で止める。


「無駄だって言っているじゃないですか。」

「数打ちゃ当たるっていうからそうしてみたまでだよ。」


レオルは少し剣の軌道をそらしてミラの剣をはじく。

剣をはじかれ丸腰になったミラだが、一瞬驚いただけですぐにレオルに蹴りを入れてきた。

チャンスだと思って油断していたレオルはミラの蹴りを食らった。


(な……どうして剣無しでも攻撃しようとしてくる?)


ミラはさらに殴りにきた。

だがレオルはそれを剣でガードする。

ガードするほどにレオルは違和感を覚えていった。

ミラは剣を使っていたため、他の武器をつけていないと思っていた。

実際ミラがつけているグローブは剣士用のグローブだとばかりレオルは思っていた。

しかし違ったのだ、ミラがつけていたのは拳闘用の拳甲だったのだ。


「まさか拳闘もできるとは。ミラーシャ、君はすごいな。」


レオルが誉める。

しかしミラは表情を変えない。


「これをつけろと仰ったのはガーネット副隊長です。多分隊長が闘えと言うだろうからそのためだと。」


レオルはこの闘いを見ている幼なじみの部下を見た。

当の本人はレオルがミラにしたことがバレたとわかったのか慌てて目をそむける。


「お二人とも、真面目で堅い人なのかと思っていたんですけどそういう子供っぽいところもあるんですね。」


ミラが笑う。



「……お互い他の人とはあんな風に接しないよ。君にだっているだろ?そういう親友が。」


ミラの表情が曇る。


「どうした?」

「……すみません、あとで話すのでまずはこの闘いに集中しましょう。」


ミラはバックステップでレオルと距離をとりあえず、はじかれた剣を取りにいく。

レオルはさっきのが気になって少し行動が遅れたためミラが2つの剣を手に入れた。

レオルも気持ちを切り替え攻撃を再開する。

だがまたさっきと同じで砂をかけるだけであった。

ミラはその攻撃にイライラしたのか自分で大きな砂煙を発生させる。

レオルはそうなっても地面を削る作業はやめない。

しかし彼はそれでも360°警戒していた。




ミラはすでにレオルの頭上にいた。

ミラが思いっきり剣を振り下ろす。

その風圧で砂煙が晴れる。

しかしそこにレオルはいなかった。


「残念だったねミラーシャ、もし私の背後をとる戦法だったなら勝てたかもしれない。」


ミラは声のした方向を見る。

レオルは最後の地面を削るところだった。


「圧陣。」


レオルが削った地面が光る。

レオルはミラにただ砂をかけていたわけではなく、彼は魔法陣を描いていた。

そしてその陣の中心に立っているミラは地面に押し付けられ。


「ミラーシャ・ワイアット、君の戦闘スタイルをコロコロ変える戦法は面白い。人をよく見てそれをコピーしたんだろ?その観察力と見切りは隊長クラス以上だろう。」

「…人の動きを見切るには人をよく見ないと…いけませんから。」


ミラは押し付けられながらもなんとか声を出した。


「だが君は人を見すぎだ。自分で言っていたとおり不意打ちにはとことん弱い。もっと周りに警戒しなければ今のようになるぞ。」

「……はい。」


レオルは陣を解き、ミラを立たせる。


「さて、君はもう疲れただろ?四戦やったことにするからもう休みなさい。」

「わかりました。ありがとうございます。」


ミラは一礼し、立ち去った。

レオルはそのミラを見えなくなるまで見ていた。


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