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キングダムパーティー  作者: 渡雪
1/7

第1話 新人隊士

某日、訓練所卒業式。

そこでは、卒業生の部隊配属式も執り行われていた。


「ミラーシャ・ワイアット」

「はい!」


卒業生の席から少女が1人立ち上がる。

そして舞台にあがり、配属される部隊を告げられる。


「ミラーシャ・ワイアット、第7部隊……アルファス隊配属を命じる。」

「はい。」


礼をして部隊章をもらう。

配属部隊を告げられたとき、堂々としていた彼女は心の中でおびえていた。


(私が第7部隊?無理無理無理、最初の戦で死ぬの確定だよ。)



第7部隊、それは他国との戦闘の際に一番初めに攻撃をするいわゆる突攻隊。

突功隊ゆえ、一番死と隣り合わせだと言われている隊なのである。




次の日 第7部隊隊舎


先ほど起きたばかりの青年は朝食を食べるために食堂に向かっていた。

午後から昨日配属された新人隊士がやってくる。


「レオル騎士隊長、おはようございます。」


1人の隊士が彼に礼をする。


「ああ、おはようナクシム。」


レオルと呼ばれた青年もあいさつを返す。


「隊長、今日は遅かったですね。」

「ガーネット、おはよう。昨日はここにくる新人隊士の詳細を見ていたんだ。」

「そんなに新人隊士が嬉しいですか……。」


ガーネットがため息をつく。


「え?訓練所から配属されるんですか!?」


1人の隊士が席を立ち上がり、レオルに寄る。

その声に食堂にいた隊士全員が彼に注目する。


「そんなに注目しないでくれ、そんなに大事じゃないから。……まあ1人だけだが今年訓練所を卒業した者が我が隊に配属されることになった。」


レオルが言い終えた瞬間にみんなが歓声をあげた。


「何年ぶりだ?」

「さあ?けど珍しいよな!」

「ほとんど他の隊からの移動だったから新人さんはありがたい。」


各々自由に喜びあう。

レオルはあまりの声の大きさに耳をふさぐ。

しかし顔は嬉しそうだ。


「……というわけで、今日は新人の実力を見るのを含めて模擬戦をしようと思うんだ。」


レオルはそう全員に告げた。

そして、自分の分の朝食を持って、適当に空いていた席に座る。

早速スープに手をつけようとしたところで、テーブルの向かい側に座っていた青年が声をかけてきた。


「それにしてもうちに配属されるなんて珍しい新人ですね。今いるメンバーの中でも最初からここに配属された人って少ないですよね。」

「そうだな。何か深い理由があって、うちに来るのかも知れない。だからちゃんと慕われるような先輩になってくれよ、リディオ。」


リディオと呼ばれた青年は笑顔で頷き、食器を片づけるためにその席を離れた。


「にしても遅いな。もしかしてどこかで迷っているのか?」


時計は午後1時を過ぎていた。





「寝過ごしたー!」


ミラーシャは隊舎に向かって、全力で街中を走っていた。

今は大通りではなく、近道となる露店などがひしめき合う地元民の道を走っていた。


「どいて、どいてー!」


道を歩く子供や老人を器用に避けながらスピードを落とさずに、右へ左へと曲がる。

後どれくらいかな、とミラーシャが考えていると、水瓶を抱えた少年が目の前を通り過ぎようとした。


「どいてぇー!」


しかし時既に遅し。

少年も回避を試みたが、間に合わずに水瓶は空を舞った。




「ふむ、遅いなあ。」


レオルは待ち切れずに隊舎の入口の前で新人の姿を探していた。

しかし未だにそれらしき姿は見えない。

するとそこへ、


「すいません……、ここって第7部隊の隊舎ですか?」


頭から水を被って、半泣きの少女が歩いてきた。


「あ……ああ、そうだがどうしたんだその格好。」


ミラーシャは隊舎前から来た少年を見た。

年は自分とそう変わらない。

そして胸元にある隊長章を見てミラーシャはこれが噂の天才隊長だと気づいた。


「それは……」



ミラーシャはレオルにここに来るまでの出来事を話した。

それを聞いたレオルは


「それは大変だ。中に入って着替えなさい。……その…服が透けてしまっているから、早くしたほうがいい。」


ミラーシャは自分の今の状態を確認すると顔を赤らめた。


「とにかく、こっちだ。」


レオルも急いで隊舎に招き入れる。


「走れるか?」


ミラーシャは頷く。

レオルは彼女の荷物を持ち、重い物を持っているとは思えないほどの速さで走った。

ミラーシャも遅れないように走る。

他の隊士とぶつかりそうになりもした。


レオルが向かっていたのは隊舎の風呂場だった。


「こっちが女性用だからここで洗いなさい。あとで他の女性隊士をここに向かわせよう。」

「は、はい。ありがとうございます……。」


ミラーシャは少し驚いていた。

精鋭部隊の第7部隊の隊長がイメージと違っていたからだ。


レオルは少女|(とはいえ彼女は自分と同年代だが)を風呂場に入れると、隊唯一の女性隊士を探した。


「ああいたいた。ガーネット!」


ちょうど突き当たりの角を曲がってきた副隊長ガーネット・ムルキナスを呼んだ。


「なんですか、レオ。」


ガーネットがレオルに走りながら問う。


「今さっき新人隊士が来たんだが……ずぶ濡れだったんだ。だから今風呂場に入るように言ったんだ。出てきたらその子を部屋に案内してから隊長室に連れてきてくれないか?」

「しかしなんで私なの?他にも隊士はいるわよね?」

「彼女が女性だからに決まってるだろ。ここで女性なのは彼女と君くらいだろ?」

「ああ、そういうこと。わかりました隊長。」


ガーネットに頼むとレオルはすぐ隊長室に向かった。

少女が風呂に入っている間にレオルは隊長室で模擬戦の内容でも考えようて思っていた。




ミラーシャが風呂場から出たとき、隊長の姿はなく、代わりに女性の騎士がいた。


「ガーネット・ムルキナスです。隊長から頼まれたの。」

「あ……ミラーシャ・ワイアットです。」


ミラーシャとガーネットは一緒に歩き始める。


「まずはあなたの部屋に案内するわね。部屋は風呂場から東へ行ってすぐよ。」


本当に風呂場から東に行ってすぐに隊士の部屋があった。


「あなたの部屋は一番奥よ。」

「はい。」


ミラーシャはガーネットが優しい人だと思い安心していた。


「さ、部屋に荷物を置いたら次は隊長室よ。」





ガーネットが隊長室の扉をノックした。中からは「入ってくれ」という声が聞こえた。

二人が隊長室に入ると、中ではレオルが羽根ペンで羊皮紙に何かを書きこんでいた。

「隊長、新人隊士を連れて来ました。」


レオルはペンを動かす手を止めて、顔を上げた。


「改めて、ストラスト王国騎士団第7部隊にようこそ。私はここの管理、統制を任されているレオル・アルファスだ。」


優しい笑みを浮かべて、立ち上がり、ガーネットにいままで書いていた羊皮紙を手渡した。


「模擬戦の規則を書いた紙だ。隊舎の集会所に貼っておいてくれ。」


「わかりました。」


ガーネットは紙を受け取り、一度目を通す。

そして一礼すると、部屋から出ていった。


「あの、模擬戦って……」


ミラーシャが何か言いたそうにしていると、


「そうか、言ってなかったか。今日は修練場で君の実力を見ることを含めて、交流会をしようと思うんだ。そう真剣なものではないから緊張せずに、気楽にやってもらえばいい。」


レオルは一通り説明を終えると、隊長室の本棚から薄い冊子を一つもってきた。


「これはこの隊で生活する際のルールをまとめたものだ。時間がある時にでも目を通しておいてくれ。模擬戦は二時間後に始めようと思う。それまでに準備をしておいてほしい。」

「わかりました。」


ミラーシャの返事と同時に、部屋を出ていったガーネットが帰ってきた。


「ガーネット、立て続けてすまないが、彼女を部屋まで案内してくれ。」





ガーネットとミラーシャが隊長室から出ていった後、しばらくすると一人の青年がノックもせずに扉を開いた。

その青年のベルトには隊長章が付いていた。


「やーやー、レオル。久しぶりだね。最近ぜんっぜん会っていないからさー、暇でしょうがなかったんだよね。」


レオルは呆れた顔をして、その青年を見る。

レオルより3、4歳くらい年上に見える。


「ヒューレ隊長、そちらも今日は新人と挨拶をしなくてはいいのですか。」

「いーの、いーの。こっちは副隊長がしっかりやってくれるから俺はフラフラしてても。だって今日は模擬戦やるんでしょ。楽しそうじゃん。」

「ちなみにヒューレ隊長は出ないくださいよ。これは第7部隊の模擬戦なので。」

「え~、俺も久しぶりにレオルと戦いたいのに。まあ、いいや。じゃあ客席で見てるから。」


そう言って、風のように隊長室を出ていった。


「まったく……、あの人はいつもああなんだから。」




ミラーシャはガーネットに連れられて女性隊士の更衣室にいた。

ミラーシャはガーネットに自分の部屋を教えてもらったり、雑談したりで初日にしてもう打ち解けていた。


「もう準備するんですか?」

「そうよ。」


ガーネットが頷く。

現在、模擬戦1時間前である。


「早く準備しないと遅れるわよ。遅れたら自分の使いたい武器が取られてるなんてことがあるんだから。」

「そっ、そうなんですか!?なら急がないと!」


ミラーシャは着替えのスピードを少し上げるが、急ぎすぎて逆効果になっていた。


「もう……。」


ガーネットは呆れていた。


「ところで、ガーネットさんの得意武器はなんですか?」

「私?……うーん………、強いて言うなら素手かな?」

「素手!?」

「一応何でも武器は扱えるけどやっぱり自分の手足が一番だと思えるの。ミラは?」

「ミ……ミラ?」

「ミラーシャだからミラ。ミラーシャってちょっと言いづらくて……。」


ミラーシャは困惑していた。

彼女はあまりニックネームで呼ばれたことがなかったからだ。


「ダメだったかな?」

「い……いえ、いいです。すごくいいです!」

「よかった。……あ、だからミラの武器は?」

「あ……。私は双剣です。なんか剣一つだと物足りなくて……。」

「そう、二刀流なのね。」


そういう会話をして、2人は更衣室をあとにした。




そして2人は武器庫まで武器を取りにきていた。

周りを見ても他の隊士はまだ来ていないようだった。


「あれ?まだ誰も来てないの?」

「そうですね。」

「まあいいわ。……じゃあ、今日私はこれにしようかな。」


と、ガーネットはハルバードを取り出していた。


「え?模擬戦って本物の武器で戦うんですか?」

「ん?ああ、大丈夫よ。一応魔法で斬っても斬れないようにしてあるから。」

「そうなんですか。なら……私はこれとこれにします。」


と、ミラも武器庫の一番奥にあったちょっと豪華そうな箱に入っていた二本の剣を取り出した。

ミラが取り出した剣を見てガーネットが青ざめた。


「……今までこの隊に双剣士がいなかったからこんなことなかったけどありゃりゃ……。」

「? この剣使っちゃダメですか?」

「いや、そういうわけじゃないけど。それ、うちの最強の剣二本。」

「えっ!?」

「よくうちの剣士はこれの取り合いになるんだよね。威力高いし、使いやすいし。」


そう話していると、他の隊士が武器庫にぞろぞろと集まってきた。


「な……、それは……。」

「俺あれ使おうと思っていたのに……。」

「ま、まあ新人にハンデを与えても構わないか。」


みんな悔しがっていた。

ミラは自分のとった剣を眺め、剣の威力を早く試したくなっていた。


「ん?もしかしてミラもうやる気満々?」

「はい。」


ガーネットが微笑む。

ミラは剣を持って武器庫から出た。

そして剣を手に馴染ませるために急いで修練所に行こうとしていたが、


「ミラ、場所分かるの?」

「あ……。」

「もう……。」


本日二回目のガーネットからの飽きられだった。


「私が一緒についていってあげるわ。ついでに、始まるまで軽く手合わせしましょ。」

「はい。」


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