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08 次男

 シオンは十四歳となり、ファシール家次男として立派に成長していた。


「なぁ……あの子はいつ娘に戻るのだ……?」

「さぁ?好きな殿方でもできれば戻るのではないですか?」


 そんなシオンを両親と兄は暖かく見守っていた。




 何故シオンがファシール家次男として生活しているのか。その理由は簡単なものだった。


 まずファシール家婦人であるイェシカが男の子の服を買いに行った際に、男の子がお生まれになったのではと噂が立った。

 その噂はアロルドの親友でもあるセルジオ王の耳にも届き、アロルドは王城へと呼び出しを受けた。


『次男が生まれたのであれば何故教えなかったのだ、水臭いやつめ』


 そんな書状が届き、書状には城へ来るようにとも付け加えられていた。

 呼び出しは王命であるので仕方なくアロルドが王へ事態の説明をしたのだったが……


「ぷっ……くくっ……なるほどな。面白いじゃないか、シオンを次男として認めてやろう。娘のほうは病気で療養に出ていることでいいな。逆に次男は療養の甲斐があり健康になって帰ってきたということでいいだろ」

「セルジオ!お前またそんないい加減なことを!少しは王らしくだな――」

「ふん、お前の息子も少々体が弱いところもあるのだから平気だろ。それに俺が許可したんだから問題ない」

「問題ありすぎだ!人の悩みを面白がりやがって……このお祭り男が」

「いいか?これは王命だ。シオンが自分で娘に戻るまで息子として育てろ」

「くっ……このアフォ王がッ!」

「ふっ、褒め言葉として受け取っておくぞ」


 こうしてセルジオ王の気まぐれによりシオンはファシール家次男となり、アロルドはがっくりを肩を落として帰宅したのだった。

 シオンにしばらく次男として生活するようにとの話があったと伝えたところ、


「いい王様だね」


 面白そうだからという理由で命令されたとは知らないシオンは寛大な王に感謝していた。

 そんなシオンにさらに頭を抱えるアロルドであった。





 ある日の昼下がり、シオンはリオルと中庭でお茶を楽しんでいた。


「兄様、準備は終わった?」

「もちろんだよ、シオン」

「兄様がいなくなると寂しいな」


 テーブルに突っ伏してシオンがぽつり、とつぶやく。


「いなくなるっていっても学園の寮に入るだけだし、休みの日には戻ってくるよ」

「それはそうなんだけど……」


 リオルから視線をずらし、シオンはふと離れて暮らしていた懐かしい祖母を思う。

 藤崎家は皆、紫苑を家族として接してくれていたがやはり祖母のことは気がかりで寂しくも思っていた。

 祖母もいつも紫苑を気にかけていてくれたが、そんなやさしい祖母に何も言えずに別る事になってしまった。

 思い出すとチクリ、とシオンの胸が痛む。そんなシオンにリオルは微笑みかける。


「父様と母様を頼んだよ」

「はい……」


 爵位を持つ家では息子を一人、王立騎士学園または王立魔術学園に通わせなくてはならない。

 息子がいなければその限りではないが、ファシール家も例外でなくリオルが魔術学園へ入学する事になっていた。


 アヴァロン王立魔術学園。

 それは多くの魔術師を輩出するアヴァロンでもトップレベルの実力者のみが通うことのできる学校。

 ファシール家は魔術の名門であり現当主であるアロルドも魔術学園を卒業しており、リオルもとても優秀で有望な魔術師だった。


(学校かぁ……懐かしいな。せめて高校ぐらいは卒業したかったな)


 そこでふとシオンは気づく。

 学園の入学資格は年齢制限のみで、十四歳から十八歳までの間となっている。シオンは十四歳なので受験資格を満たしており、試験に合格しさえすれば入学できる。


「そっか、私も来年受験すればいいんだ」

「そうだな。シオンならきっと大丈夫だよ」

「うん、もっと剣の練習しておかなきゃ」

「えっ、騎士科を受けるのかい?」

「そのつもりだけど?」


 シオンもファシール家の一員らしく魔力はあったがあまり魔法は得意ではなかった。

 その日の午前中にもコントロールに失敗し、大量の池の水をアロルドとリオルに浴びせてしまったのだ。

 どちらかというと体を動かすことの方が得意で剣の訓練の方が得意だった。


「そうか……まぁ騎士学園でも……ごほっ」

「――兄様?」


 咳き込んだリオルをシオンは覗き込んではっとする。昔から兄は体が少し弱いところがあった。シオンが昔池に落ちた時、助けようと池に飛び込んだ兄がその夜に熱を出したことは今でも覚えている。

 そして今日もやはり兄は池の水を大量に浴びていた。


「まさか……」


 リオルの額に手を触れればほんのりと暖かい。


「兄様熱がある!今日はもう休んだほうがいい!」


 叫ぶと同時にシオンは立ち上がりがばっとリオルを抱き上げる。シオンにお姫様抱っこされる形となったリオル。


「ちょっ、シオン!俺は大丈夫だから……!それよりなんでこんな力がっ!」


 慌ててリオルが降りようとするが、シオンはがっしりとリオルを抱きかかえたまま小走りで部屋へと向かう。

 いくら男の格好をしているとはいえ十四歳の少女であるシオンが、細身ではあるが十八歳のリオルを抱きかかえるのは普通では考えられないことであった。


「さぁ兄様、ゆっくりと休んでくださいね。また様子を見にきますから」

「……あぁ。ありがとう」


 リオルをベットに寝かせるとシオンは満足そうに部屋を後にした。

 残されたリオルは小さくため息をつく。


 先ほどのシオンに魔法を使った様子はなく、おそらく火事場のバカ力というものだろう。どうやらシオンはリオルが思っていたよりもずっと逞しく次男として成長しているようだ。

 リオルはシオンが喜ぶのなら、と男の子のような服装を了承した事を今更ながらに後悔した。


 弟でも可愛いのだがやっぱり妹に戻って欲しいと切に願うリオルだった。

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