18 実戦
最初に仕掛けたのはクリスだった。
合成獣(キメラ)に向かって真っ直ぐに走り込む。そのすぐ後にはにユージンが続く。合成獣(キメラ)が吼え、自分に向かってきた愚かな敵であるクリスに向かってその鋭い爪を振り下ろした。
それはシオンにはやっと目で追える程度の速度であったがクリスはその攻撃を体を捻るだけでかわし、その勢いを利用し頭に向かって蹴りを放つ。
しかし合成獣(キメラ)はその攻撃を振り下ろした腕とは反対の腕で受け止めた。
続けざまにユージンが合成獣(キメラ)が振り下ろした爪の側からその拳を叩きつける。
合成獣(キメラ)もその攻撃は受け止めることも避けることもできず、ユージンの拳はその頭を捉え鈍い音を響かせる。しかしそれでも合成獣(キメラ)は顔をそらしてダメージを軽減させたようだった。
合成獣(キメラ)が低い呻き声を上げながら再びその鋭い爪でユージンへと襲い掛かるが、ユージンはその攻撃をバックステップで難なく避けた。
しかし合成獣(キメラ)はそれを狙っていたかのように体をくの字に曲げ、その尾で着地前のユージンへと襲い掛かる。
「ちっ……」
ユージンは舌打ちして体を捻りそれを避けるが、尾はその途中から向きを変え先端を二つに割りユージンへ噛み付かんとばかりに襲い掛かる。
ユージンは更に体を捻り避けようとするが、如何せん身動きのとりづらい着地前の瞬間である。いくら身体能力に優れたユージンでも無傷で避けることは不可能であるのは一目瞭然の間合いだった。
「ユージン!」
シオンが思わず悲鳴にも近い叫び声をあげると、ランスが手でシオンを制した。そしてすっと目を細めたかと思うと、手にした石を合成獣(キメラ)に向かって投げつける。
石は吸い込まれるように合成獣(キメラ)の蛇のような尾に命中し、その攻撃はユージンへは届くことなく僅かに横へと逸れた。
「ランス、助かった」
ユージンが無事着地し、すぐに態勢を立て直し向き直る。
ランスはその言葉に答えるように残りの石を合成獣(キメラ)の顔目掛けて投げつけた。無駄のない動作から放たれたそれは、見事なまでに合成獣(キメラ)の両目に当たり、合成獣(キメラ)が激しく咆哮する。
その瞬間を二人は見逃さなかった。
すばやくクリスが合成獣(キメラ)の顎を蹴り上げる。クリスの攻撃を受けて合成獣(キメラ)の上半身が浮き上がり、その首元にユージンが手刀を叩き込んだ。
何かが砕けるような音がして合成獣(キメラ)が動かなくなる。
「終わったか?」
クリスの言葉に、ユージンが合成獣(キメラ)を足で転がし仰向けにする。
合成獣(キメラ)は口から涎をながし、その見開かれた目は濁り何も映してはいなかった。
「……そのようだな」
ユージンが答え、それにクリスが頷く。そして二人はシオンとランスの元へと戻ってきた。
「おつかれさん、怪我はないようだな」
ランスが二人に駆け寄り、労う。
それまで呆然と見守っていたシオンだったが、妙な違和感を感じて視線を上げる。
合成獣(キメラ)は動かない。しかし次第に強くなる違和感は間違いなく合成獣(キメラ)から感じられる。
ユージンたち三人はその違和感を感じてはいないようで、なにやら話し込んでいる。シオンが感じる違和感はさらに強くなり、合成獣(キメラ)を睨み付ける様に見つめていた。
そして違和感が確信へと変わる。
合成獣(キメラ)の目から濁りが消えて再び世界を映し出す。そして少し開かれたその口には真っ赤な炎が生まれた。
「危ない!」
シオンの叫びに三人が合成獣(キメラ)を振り返る。それと同時に回避行動を取ってはいるが、すでに炎は三人の目前へと迫っていた。
間に合わないと心が冷酷に告げる。
真っ赤に染まる視界と三人の友人たち。
その光景は紫苑の最後の記憶と重なった。
どくり、と心臓が跳ねる。
「あああっ……!」
自身を抱え込むように腕をまわすが、押さえきれない感情が魔力となって溢れだす。
その魔力は黒い霧となり迫りくる炎を友人ごと飲み込んだ。
「なんだぁ? なんでこんなとこにこんなもんがいるんだ?」
場違いともいえるのんびりとした声が静寂を打ち破る。
次第に黒い霧も霧散し視界も戻り、声の主は武術講師ハワードのものだと気づく。
その足元には真っ二つに両断された合成獣(キメラ)。そしてその手に握られているのは一振りの枝。
次の瞬間には合成獣(キメラ)は黒い煙となって消え、その後に残ったのは二つに割れた赤く濁った石だけだった。
「核……そっか、よかった……」
それは合成獣(キメラ)の動力源であり命そのもの。
それが破壊されればどんなに回復力が高い合成獣(キメラ)であってもその体を維持することはできない。
もう合成獣(キメラ)の脅威がなくなったことを実感したシオンは、その安心感からなんとか保っていた意識を手放した。
とさり、と軽い音がして三人が振り返るとシオンが倒れていた。
「シオン!」
ランスが慌てて駆け寄りシオンが頭を打ちつける前にかろうじて支える。ユージンがシオンの傍らに膝をつき、その腕をとり脈を測る。
「一気に魔力を放出して疲れが出たんだろう」
「そうか……」
やはり心配そうなクリスもほっとしたように息をつく。
「ぱっと見て異常はないようだが念のためお前たちはソイツを連れて学園に戻って保険医にみせてこい」
「ええ、もちろんそのつもりです」
やはりのんびりとした様子のハワードに答えたのはクリスだった。
「彼の魔力の霧がなければ私たちも無傷ではいられなかった。彼に何かあっては困りますからね」
「ならば俺がシオンを担ごう。ランスには少々きついだろう」
「コイツやたら軽いから問題ないんだが……また何か出てきたら辛いのは確かだな」
クリスの言葉にユージンが深く頷きランスからシオンを受け取る。
ランスは少々納得いかないような表情をしつつも素直にユージンの言葉に従った。
「本当なら俺が連れて行ってやるんだが、他の生徒もみてやらないといけないからなぁ」
「俺たちなら大丈夫ですから構いません」
「ま、お前らなら大丈夫だろう。下手な騎士クラスの連中よりよっぽど使えるからな」
トントンと肩を手にした枝で叩きつつ、ハワードは四人を見やる。そしてシオンをすうっと目を細めて見つめた。
「さあさっさと戻れ。他の生徒が到着したら俺もすぐ戻るからな」
「はい」
もと来た道を三人はそれまでの疲れなどないように走っていた。
しばらく走ってランスがぽつりと口を開いた。
「シオンがこの状況を知ったらなんていうだろうなぁ……」
ランスの前を走るユージンとクリス。シオンはユージンにお姫様抱っこされた状態だ。
自分が同じ立場であったなら死にたくなる。そうランスはシオンに同情しつつも、何とも言えない少々複雑な心境だ。
しかしその状態で小走りに近いとはいえ難なく走っているユージンの体力に感心もするランスだった。




