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16 双子

 実技のペアが決まって以来、食事はいつもの四人にクリスも参加するようになり五人で取るようになった。


「すごいですね、シオンさん。クリストフ王子とペアだなんて」

「すごくないよ。ペアの相手は水か土か、せいぜい無属性の生徒だと思ってたから驚いて……食欲落ちちゃうし、困る」

「二人前食ってそれはないだろ」


 ちらりとクリスを見てしきりに恐縮するエミリオ。そんなエミリオの言葉に心底嫌そうに答えたシオンに間髪をいれずそれにつっこむランス。

 ペアなのだからと敬語や丁寧語も禁止され、シオンは萎縮気味だ。本人は食欲が落ちたと言っているが、それでも騎士クラスの生徒の二倍は食べていた。

 クリスはそんなシオンの様子を気にする様子は全くなく、上品に食事を取っている。ユージンはクリスの向かい側で、すでに食事を終え三人のやり取りを眺めていた。


「ところでシオン。お前に聞きたいことがあるんだが」

「ん、何?」


 食事を終え、食器を返却し席へと戻ったたクリスが遠慮がちに口を開いた。ちなみにシオンはまだ食事中である。


「お前、双子だというのは本当か?」


ぶほ。


「ちょっ!きたねえっ!」


 シオンの咀嚼していた物が向かい側に座っていたランスへ飛び、悲鳴が上がった。

 シオンは動悸を抑えながらなんとか平静を保つ。


(大丈夫、ばれた訳じゃない、ハズ……)


「ごめんごめん。そうだよ、俺には双子の妹がいる。体が弱くて療養の為に別の場所で暮らしてるから、あまり会ったことはないけど」


 汚れた口元をナプキンで拭き、平静を装って答える。


「双子か……似ているのか?」


 その言葉はそれまで傍観していたユージンのものだった。


「似てる、らしい。最後に会ったのはもう何年も前だからよくわからないけど。なんで?」

「病弱ならそうでもないんだろうが……女でシオンと同量食べるのか気になっただけだ」

「あぁ、確かにそれは気になるな。シオンの妹なら病弱でも食うかも」

「似ているならさぞかし可愛らしい方なんでしょうね」


 隠しているわけではないが、シオンにとってはあまり触れて欲しくない話題だ。

 そしてユージンとランスの感想が微妙に失礼なもので、エミリオは本人と同様にその感想も可愛らしいものだった。


「父上にペアの相手を聞かれ、答えた時にシオンが双子だと聞いたんだ。父親同士が友人だから知っていたんだろう」


 クリスがまじまじとシオンの顔を見つめながら頷く。

 シオンが思わず視線を逸らすと、その先にいたランスがぽんとシオンの肩を叩いた。


「そうなのか、そのわりにシオンはクリスのこと知らなかったよな?」

「王子(オトコ)に興味はなかったし……」

「まぁ普通はそうだろうが……論点が微妙に違ってる気がするぞ」


 ランスは「俺は同性同士の愛情も否定しないぞ?」と必要の無いフォローを入れてシオンを微妙に凹ませた。

 そこで時間となり、シオンの双子の妹についての話題はそこで一旦終了し、シオンはほっと胸をなでおろした。



 その日の講義は魔術師クラスには数少ない武術の講義で、外の騎士クラスの演習場の一部を借りて行われる。

 ちょうど演習場を使っていたのは一回生の騎士クラスの生徒たちのようだった。

 シオンのように家の都合で入学したのであろう、お世辞にも逞しいとはいえない体つきの生徒もちらほら見える。

 すでに彼らは準備運動を終え、模擬剣で打ち合いをしている。


「すげーな……」


 ぽつりと呟くランスの視線の先には、他の生徒とたちとは違い激しく打ち合う三人の生徒がいた。

 その中で一際目立っていたのは他の二人より頭二つ分以上背の低いエミリオだ。二人を同時に相手をしているにもかかわらず、素人目に見ても明らかにエミリオが優勢だった。


「うわぁ、やっぱりエミリオはすごいな」

「――そうだな」


 少々興奮気味なシオンの言葉に、ユージンは何とでもない事のように返事をする。

 ユージンとエミリオは幼少の頃から一緒に鍛錬をしてきたというから大して驚きもないのだろう。

 それに比べ、強いのだろうと推測していてもはっきりと知っていたわけでなかったシオンたちは驚きを隠せない。


「ユージン様、皆さん、今日はこちらで演習ですか?」


 シオンたちが振り返れば、ぱたぱたと駆け寄るエミリオ。

 全く息の乱れもなく、今まで激しい演習をしていた様子は感じさせない。一緒に演習していた二人の生徒はその場座り込み荒い息を整えていた。


(やっぱり騎士クラスはすごい……)


 自分に魔術師の素質はないと思っているシオンは本気でエミリオに憧れを抱いていた。


「ああ、今日はここで武術の講義を受けることになっている」

「そうそう、なんか講師の都合が合わなかったとかで今回が初めての武術の講義なんだ」

「そうなんですか……あぁ、確か魔術師クラスを担当しているのはハワード教官でしたね。あの教官は色々濃いですからがんばってくださいね」

「濃い……?」

「あ、それじゃあ僕は戻りますね。あまり話しているとサボってるって怒られちゃいますし。それではみなさん、また昼食で」


 手を振りながら、ぱたぱたと走って戻って行くエミリオをシオンは羨望の眼差しで見送る。

 ユージンは呆れたようにため息をつきながら、軽く手を上げてエミリオを見送った。

 クリスは「ふむ、さすがフィッツジェラルドの関係者だな」と納得したように呟き、ランスは「あの強さは反則だよなぁ」と呟きながら天を仰ぐ。

 彼らがエミリオが「鬼神」と呼ばれている騎士クラスで特別な存在だと気づくのはもう少し先の話。


 そしてエミリオが戻ってすぐ、魔術師クラスを担当する講師がやってきた。


「すまんすまん!ちょっとヤボ用で遅れてしまった」


 と、謝りつつも豪快に笑って。

 程よく筋肉がつき引き締まったいかにも騎士という体格にそれなりに整った容姿で、黙っていればそれなりにモテるんだろうと魔術師クラスの誰もが思った。

 しかしハワードという講師はその見た目の良さを相殺するほど、喋るとオッサンくさかった。

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