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ここはなにかが欠けている

誇りなき決闘

作者: 浮月重月
掲載日:2026/10/28

北方大陸では未だに、決闘というものがある。


例えば互いの利益。例えば互いの名誉。中には恋人の奪い合いなど。

理由は様々ながら勝者は望む全てを得て、敗者は全てを失うものだ。

王国でも貴族に限らず、決闘を申し込む権利は公認されている。

第三者からすれば実に馬鹿馬鹿しい理由だったとしても。


なお決闘は当人同士が戦わずとも、代理の参加が認められている。

自分自身が戦わないのに、金銭で解決して名誉も何もないのだが、

決闘代理の請負によって生計を立てる者もあって黙認されている。


こうした決闘代理人は、食うに困った腕のある冒険者であったり、

あるいは引退した兵士であったり、単なる力自慢であったり。

あまりマトモとは言い難い境遇にある者がほとんどである。


◆


今回も話し合いでいいじゃないか、という決闘が持ち上がっている。


ある大型魔獣の討伐を合同で行った際、どちらが戦闘に貢献したか、

つまりはどちらの報酬の取り分を多くするかで激しい口論となり、

決闘で勝った方の総取りで話がまとまった。


実のところ争っている二組の冒険者一行は普段から非常に仲が悪い。

冒険者組合側も通常なら彼らが殴り合いになろうが放っておくし、

出来る限りもめ事が起きぬよう合同依頼もさせようとしなかった。


しかし今回は依頼をこなせる冒険者がこの二組だけだったのだ。

仕方なく彼ら二組へ合同依頼の形で討伐を出したのだが。


彼ら二組の因縁は下級冒険者時代の二つ星から続いていた。

中級冒険者の三つ星、四つ星に上がってもそこは変わりなかった。

そこまで気が合わぬなら、片方が拠点を移せば良さそうなものだが、

今までの周囲への付き合いもあるし、逃げたようで気分が悪い。

「地平線の向こう側」も「草原の暴れん坊」も実力は同程度。

経験を経て強くはなっているものの、相手側も同様だ。


模擬戦で決着をつける手もあったが、今回は踏み込んでしまった。


◆


ただし、怪我で済まないのは二組とも理解はしていた。

正直認めるのも腹立たしいが、相手の腕前は確かに上がっている。

幾度となく模擬戦をやって来たからそれは良く分かっている。


今回は刃のついた武器を振り回すのだ。

勝てればよいが、負けた場合は冒険者を続けるのも難しくなる。

何としてもここは勝ちたい。ではどうするか。


決闘代理人を雇うという手がある。


…と二組とも考えたらしい。やはり似た者同士である。


決闘当日に三人の立会人の前に現れたのは、二組の冒険者一行。

と、一見無関係と思われる同行者が互いに一人ずつ。


ああ、恐れをなして同じ事考えたらしいな、こいつらは。

と、乾いた笑いを一様に浮かべる決闘立会人達。

まあそれでも代理人は違反ではない。外聞は悪いものの。


さて、お互いが連れてきた同行者、決闘代理人達だが。

体格は二人とも、この場に揃った誰よりも大きい。


冒険者組合では見かけた事のない、かなりいかつい男達である。

当然腕前も分からないが、見るからに腕力は相当なものだろう。

一方は熊でも真っ二つに出来そうな大斧を軽々と片手で持ち、

もう一方もやはり巨大な金属製の棍棒を振り回している。


「決闘の決着は、どちらかが戦闘不能になる事。死亡も含めます。

 あるいはどちらかが負けを宣言する事。

 よろしいですね?では所定の位置へ。


 はじめっ!」


開始の合図と同時に、双方の大男達が接敵、大型武器をぶつけ合う。

あの大きさの武器にもかかわらず、振り回す速度が半端ない。


「地平線の向こう側」の中にも「草原の暴れん坊」の中にも、

彼ら二人と対等に戦える者はおるまい。全員でかかっても怪しい。

激しい音と共にしばし競り合いは続き、次第に優劣が見えてくる。

棍棒男の方が大斧男を圧倒しだした。


大斧を弾き飛ばされ、棍棒で胴体を横殴りにされた大斧の男。

倒れて呻いているが起き上がれそうにない。


◆


「そこまで!この勝負『地平線の向こう側』代理人の勝利!」


喜ぶ「地平線の向こう側」一行。悔しがる「草原の暴れん坊」一行。

とは言え棍棒男も無傷ではいられなかった。傷だらけである。

どかりと音を立てて地面に座り、依頼人に声をかけた。


「契約は果たしたぞ、報酬を頂こうか」


「勿論だ」


と答える「地平線の向こう側」一行だったが。

そう言えば報酬額を聞いてなかったな、と思い出す。


「んじゃ、今回あんた達が得られた報酬は全額俺のもんで」


と棍棒男は言い放ち、怖い笑顔でにいぃっと笑う。

戸惑う「地平線の向こう側」一行。そんな無茶苦茶な話があるか?


「俺らは一対一で体を張って金を稼いでるんだ。命だって落とす。

 負ければ銅貨一枚手に入らねえんだからな。見てる世界が違う。

 報酬が高いのは当然だろ?確認しないそっちが悪い。


 それとも支払いを渋るのか?んじゃ力づくで取り立てるぞ。

 一戦交えた後だが、今の戦いに怖気づく相手には負けねえよ。

 

 今度はそっちに代理人もいねえんだ。全員で来いや。

 素直に支払うか殴られて支払うか、好きな方を選べ」


さっきの決闘を見ていて、到底かなわないのは理解している。

「地平線の向こう側」一行は内心不満ではあったが報酬を渡す。


「へっ、毎度っ」


立会人から報酬を受け取ると、棍棒男はその場を後にする。

立ち上がった時にはもう呼吸も整っていた。勝てる訳がない。


今回は怪我こそしなかったが報酬も無しとなった。

立会人達は、最初から二等分しておけばいいものを、と思ったが、

彼らにとっては無理なものは無理なのだろう。

「拳で語る人々」から成長を遂げた人達(精神面は除く)。

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