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フェイクムーン ー偽りの楽園ー  作者: 幻燈 カガリ
第 3 章 黒き檻

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36/37

❨ Act. Ⅰ


 夕陽が一気にオグナ村を朱色に染め上げる。気温も少し下がったようで、ゼフィールは身体をブルっと震わせる。よいしょと持っていた大釜を地面に置いた。


「ん?そういえば…」


 辺りを見回した。下級聖者たちが忙しなく動き回り、重病人を幌馬車へ運ぶ姿を端目で見ながらゼフィールは姿を探す。


「ホムラ、ウィルは見なかったか?」


 夕陽が眩しく手庇をするが、ウィルの影さえも見当たらない。ホムラは少し黙り、上へと目を向ける。腕を前に組みながら顎に指を当て、口を開いた。


「────言われてみれば、見てへんな」

「どこ行ったんだ?ウィルのヤツ」


 ───ザッ。

 ゼフィールの後ろに誰かが立った。ふたりはその者へと視線を向ける。


「……ウィル様なら、」


 その顔を見るだけで安らぎを覚える笑みを浮かべたマレットがそこにいた。少し疲労の色が見える。


「少し疲れが出たようで…休んで貰おうと、先に教会にお連れ致しました」

「そうか。なら、教会で休ませてやってくれ。俺はこの村にいる。そう伝えてくれ」

「分かりました。ウィル様にそうお伝え致しましょう」


 それでは、と胸に手を当て深く頭を下げたマレットは下級聖者のもとへ戻って行った。

 その背を静かに視線を送るホムラにゼフィールは声を掛けた。


「で?お前はどうするんだ?」


 片眉を上げ、腕を組む。強い風が吹く。ホムラの純白のマントがバタバタとなびく。その向こうで、干していた大布が風に攫われ、空を舞う。それを追う下級聖者は慌てて布を追い掛けている。


「そやな。じゃあ、オレは────」


 風が止む。風に攫われた布はヒラヒラとぬかるんだ地面へと落ち、白を犯していった。汚れた布を前に聖者たちは落胆している。その様をホムラは眺めて、ゼフィールへと視線を戻す。


「兄サンと一緒におるかな」


 ホムラは首を傾げ、目を細めた。そうかと、ゼフィールは答えるとまた大釜を手に取った。


「なら、ウィルの代わりとして働いてもらうぞ」

「え?まさか、それ運べって言わんよね?」


 ゼフィールは白い歯を見せ、ニヤッと笑う。ホムラはその笑みの意味を知り、肩を落とした。


「それはないわ……。オレ、肉体派じゃないんやけど」

「つべこべ言わず、運ぶんだな」


 颯爽と大釜をものともせず運ぶゼフィールの姿を、遠くを見るように眺めていると、ゼフィールが叫んだ。


「さっさと、来い」

「はいはい」


 鞭で叩く乾いた音。それに連動するように馬が嘶く。マレットたちが教会に戻るようだ。ホムラは走り行く背中を黙って見送った。その眼光はとても鋭かった。




「司祭様、どうされたのです?何か良いことでもありましたか?」


 ガタガタと幌馬車を御す下級聖者が隣に座るマレットに話し掛けた。自分のことのように嬉しそうな年若い青年は声まで弾んでいる。


「そのように見えますか?」

「はい。とても」


 にこやかな表情を浮かべ、容赦なく手綱を捌く。その様を眺めながら、マレットの口が歪む。


「これも、全て……月神のお導きです」


 教会へ急ぐかのように馬の速度が上がる。マレットの背の後ろので何かが動いた。




 ───ピシャン、ピシャン。


 水滴が落ちる音で目が覚めた。辺りは闇に覆われ、自分の手でさえも認識するのがやっとだった。床に触れれば、無機質な冷たさと若干の湿り気を感じた。体勢を変えようと足を動かすと、チャリっと金属の音が響いた。


「ここは…どこ」


 錆びと脂の匂いが混ざり合った独特の香りが、鼻を通る度にむせ返りそうになる。気持ち悪い。

 その場に立ち上がる。ウィルが動く度にチャリチャリと音を立てる鎖が煩わしい。闇の中から鉄格子が浮かび上がった。ウィルはその鉄格子に手を伸ばした。


 ガチャン。


 床と同じ感触が指先から伝わる。無意味とは分かっているが、揺らしてみる。案の定、結果が覆るはずはなかった。


「……檻?」


 明かりも無く、ただ闇が広がるこの空間はウィルを孤独にさせた。足が震える。それに振動する鎖。汗が服に張り付く。

 叫び声を上げそうになった途端、ギイィィーと音と共に眩い光が闇を払った。急な閃光にウィルは腕で防ぐ。

 カツカツと石階段を降りる音が耳へと入った。

 まだ、光に慣れないウィルは音の主へと顔を向けた。










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