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フェイクムーン ー偽りの楽園ー  作者: 幻燈 カガリ
第2章 白き聖域

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☽ Act. Ⅳ


「絶対、こっちの水を飲んで下さいね」


 指を差しながら、念を押す。


「分かりました。リファも分かったね?」

「うん、……分かった」


 幼いリファの頭を撫でながら、父親のネイルが頭を下げる。病のせいか、リファも気怠そうで欠伸を繰り返している。ネイルもドアの前まで来てくれたが、立っているのが、精一杯で壁に身体を預けている。ネイルがドアを閉めようとするのを、ウィルの手が止めた。


「あの、手を見せて貰っても?」


 ネイルは唐突な申し出に一旦、目を丸くした。だが、嫌な顔をせず、ふたつ返事で了承してくれた。ネイルが右手を差し出す。


「………同じ」


 ミランダの爪と同じく白濁していた。断りも無く指に触れたせいか、ネイルが手を引っ込めた。


「あ、すみません。こうなったのは、いつからか分かりますか?」

「ここ、…………いや、ずっと前、から」


 ネイルの煮え切らない言い回しに、ウィルは顔を上げる。視線が泳ぐ。目を合わせようとすると、慌てた様子で背けられた。


(何か、隠してる……?)


 掴んでいたドアを手放す。腕をゆっくりと下ろし、親指を強く握り締めた。


「分かりました。そういえば、あなた方を世話をしている方は普段どこにいますか?」

「……え?」


 ネイルは間の抜けた声を上げる。首を傾げ、ウィルはネイルの言葉を待った。


「わ、分かりません。……あまり家から出られないもので」


 もう良いですかと、ドアをバタンと閉められた。呼び止めようと伸ばした手を下ろす。閉ざされたドアをしばらく眺めていた。


「ウィル?どうしたんだ?」


 声のする方へ顔を向けると、土埃りで汚れたゼフィールがそこにいた。土のついた手で汗を拭ったのだろう。顔に土がついている。


「ゼフィールさん、あの人が言っていた世話をしている人という方をあれから見ましたか?」


 ウィルはゼフィールの隣に来ると、そのままふたりで歩き始める。ゼフィールは頭を掻きながら、記憶を攫う。


「……そんな人間は見てないな」

「そうですか。僕もまだ見てないんですよね。村の人が居る家を全て回りましたが、健康な人はいませんでした」


 俯きながら、会った村人を思い返す。皆、確信に触れようとすると皆、口を閉ざしてしまう。


「やっぱり、村全体で何か隠してる……」



 ─────ばちんっ。


 額に痛烈な痛みが。顔が顰める。額を指で擦りながら、目の前で笑っている隻眼の男と目が合った。


「─────ちょっ、いきなりなんですか?!」


 勝手に溜まる涙を無視し、睨めつける。ウィルの恨みなど、気にならないとゼフィールは相変わらず、笑ったままだ。


「ずっと難しい顔しやがって、少しはガキらしくしろ」


 ほらっと目の前に差し出された。その手にはムーンライトの証でもある貴重な純白のマントが土色に染まっている。

 開いた口が塞がらない。あまりの衝撃に肝が冷える。が、当の本人は全く気にする様子はない。


「え?なんてことしてるんですかー!?」


 出ていた涙もいつの間にか引っ込んだ。わなわなと震える口を手で押さえる。


「ゼフィールさん!なんてことを、

 ─────このゼレニア帝国の宝の証が!!」


 ぎゃああああと騒ぐウィルを横目に、ゼフィールは蚊帳の外だというように、耳をほじっている。


「ただのマントだ。気にするな」


 そんなこと全く関心がないと、何処吹く風だ。それを見てウィルの胃がキリキリと痛む。


「それよりも、中を見ろよ」


 ゼフィールはその場でしゃがみ込むとマントを広げた。そこにあったのは、ゴロゴロとした芋だった。


「シナイモじゃないですか!しかも大きい」


 ウィルの瞳が輝きだした。ひとつ手に取ってみる。ずっしりとした重みを感じる。皮に皺は見られず、変色もない。これは良品だ。


「良いシナイモです。あんな荒れた畑に良くありましたね」

「だろう?なんか一角だけ、あのなんだ?なんとか草が一本も生えて無かったんだ」

「ニュウガ草ですよ。誰かが抜いたんですかね?」


 シナイモからゼフィールへと視線を移す。ゼフィールはシナイモをひとつ取るとポーンと空へと投げる。


「手入れされてたとよりも、それだけないんだ」


 ウィルは空を舞うシナイモも眺めながら、ゼフィールの言葉を反芻した。喉に詰まった違和感が拭えない。

 落ちてきたシナイモをゼフィールが鷲掴みする。


「ウィル、これ茹でて飯にするか」


 腹を擦るゼフィールに、ウィルは快く応じた。広げたマントを手に掴むと、拠点のある家へと足を向けた。




「ご馳走さん」


 茹でたシナイモも、たらふく食べたゼフィールは、そのまま後ろに倒れ空を仰いだ。ウィルはろくに食べずに、何やら忙しなく動いている。


「何してんだ?」


 目だけをウィルへと向け、組んだ腕を頭の後ろに入れる。


「村の人のご飯です。そのままだと、食べづらいかと思って、潰してます」


 茹で上がったシナイモの皮を剥き、今一度鍋にを入れ、茹でたお湯を注ぎ、棒で潰す。少ない人数とはいえ、この量の芋を潰すのは骨が折れる。しっかりと棒を掴み、体重を載せる。滑らかではない棒のせいで、手の平に棘が刺さる。

 急に棒が動かなくなった。振り返ると、ゼフィールがそこにいた。ウィルの持っていた棒を掴んでいる。


「これを潰せばいいのか?」


 はい、と頷くと、瞳が鋭く光る。ゼフィールは両手で掴むと、ウィルの何倍もの力で芋を潰し始める。みるみると芋が滑らかに変わっていく。


「こんなもんだろう」


 どうだ?と白い歯を見せる。自信満々そうな顔で、俺も料理が出来るぞと魅せつけているようだ。


「上出来です!こんなに速く出来たのは、ゼフィールさんのおかげですよ!!」


 ウィルは鼻高々なゼフィールに謝辞を述べると、小鍋を並べてそそくさと振り分けて行く。


「じゃ、僕は皆さんに分けて来ますね!」


 鍋を器用に持つと、さっと居なくなった。


「ありゃ、休ませるつもりがまた行っちまったな……」


 こめかみを掻きながら、ウィルの後ろ姿を目で追い掛ける。仕方ないと、ゼフィールもまた畑に戻る事にした。





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