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機械少女クロニクル 2

 頬をつねられる感覚で目を覚ました。視界を覆いつくす闇が身体にまとわりついて、俺をベッドに押さえつけるように感じた。


 頭もひどく痛んで、身体中の水分が抜けてしまっているようだった。


 なんとか身体を起こそうとしてみるが、闇は一向に退く気配がない。


 無理やり起き上がろうとして力を入れたところで「きゃっ!」と甲高い声が起き抜けの頭にキンキンと響いて、何かがおかしいと気が付いた。


 さっきまで黒一色だったはずの部屋は窓から入り込むやわらかい日差しに照らされているし、そもそも俺は一人でこの部屋に住んでいるので頬をつねられるのはおかしい。


 寝ぼけ眼をこすってから目を凝らしてみると、俺の腹にまたがって座る女の子と目が合った。


「(なんだ、夢か……)」


 おそらく前日までの疲労で夢か現かの区別がつかなくなっているのだろう。


 色事には興味がないつもりだったが、無意識では求めてしまっていたのだろうか? 


 今日はせっかくの休日だし、もうひと眠りしてしっかりと疲れを取ろうと決めてもう一度ベッドに潜り込もうとした。


「なかったことにするんじゃないわよ、この馬鹿!」


「痛っ!?」


 今度は先ほどより強く頬がつねられた。痛みで意識が急速に覚醒して、状況を認識し始める。


 慌てて身体を起こすと、そこにはやはり女の子の顔があった。


 綺麗な顔立ちだった。目を惹くのは宝石のような赤い瞳で、見つめていると吸い込まれそうになる。


 肌は透き通るように白く、長く垂れているつややかな黒い髪と対照的で、窓から差し込む日差しもあってどこか幻想的な雰囲気を纏っていた。


 そんな女の子が、むすっとした顔で俺の頬を引っ張っている。なされるがまま女の子の顔を見つめているとなんだか無性に仕返ししてやりたい気分になってきた。


 朝っぱらから人の頬を許可なく引っ張っていいわけがない。ましてや今日は休日なのだ。


 俺は手を伸ばして、女の子の白いほっぺをつまんでみた。見た目通りすべすべでひんやりしている。


「な、なにしゅんのよ!」


 あまりに触り心地が良くてそのままむにむに揉んでいると、女の子の白い顔が少しずつ赤くなってきて、そして俺を衝撃が襲った。一拍遅れて、頬が痛んで彼女に平手で打たれたのだと理解した。


「なにすんだよ!?」


 たまらず俺が抗議すると、彼女はぷいっとそっぽを向いて、


「それはこっちの台詞! 勝手に私の頬をつまんで! いいから早く起きなさい!」と言って、黒い髪を揺らしながら早足に部屋を出ていった。


 部屋に一人残された俺は、打たれた左頬を抑えて呟いた。


「誰だ?」




 着替えを済ませて顔を洗い、歯を磨いてリビングに向かうと例の女の子がソファに座ってコーヒーを飲んでいた。


「悪いけど勝手に使わせてもらったわ。ポットにまだ入ってるけど、あなたも飲む?」


 俺がうなずくと、彼女は勝手知ったる我が家のように手際よくカップを持ってきて、ポットからコーヒーを注いで俺に渡してくれた。


 「ありがとう」と言って一息に飲み干すと、強い苦みが少しずつ頭痛と眠気を和らげていくような気がした。


 空になったカップにもう一度自分でコーヒーを注いで、部屋の窓を開けてから彼女の隣に腰を下ろした。


 俺たちはしばらく黙ったまま座っていたが、耐えきれなくなったのか彼女が口を開いた。


「昨日のこと、どこまで覚えてるの?」


 彼女に訊かれて昨日の記憶をたどってみるが、霧がかかったみたいで鮮明に思い出すことができなかった。


 なんでそんなことが気になるのかと少し不思議に思ったが、特に探らずに素直に答えることにした。


 そもそも彼女が悪意を持っているのなら、俺はとっくに寝首を搔かれている。


「公園のベンチで座って猫を撫でてたところまでしか覚えていない」と俺が言うと、彼女はわざとらしくため息をついた。


 そして、コーヒーで唇を湿らせてから「あなたはね」と話しだした。


「あろうことかかわいいかわいい黒猫を放り出したあなたは、その足で近くの酒場に入ってべろべろになるまでお酒を飲んだのね。それはもう情けないくらい酔っていたわ。そうしてつぶれたあなたを私がこうして家まで送ってあげたのよ。わかった?」


「これでもかなり端折っているのよ」と彼女は鼻を鳴らして言った。俺はなんと返事をすればいいかわからず、とりあえず頷いてカップに口をつけた。


「......家まで運んでくれてありがとう。でもどうして俺の家が分かったんだ?」


「まず私が誰なのかを訊きなさいよ。ふつうはそれが最初でしょう」


 全くその通りだった。どうにも寝起きと二日酔のせいで頭がうまく回っていない。


「君は誰なんだ?」


 俺がそう尋ねると、彼女は胸を張った。艶のある黒い髪が窓から射す陽光を受けてきらきらと輝いた。


「私はマキナよ」


「そうか」と言って俺はカップをテーブルに置いた。朝ごはんを作るためにソファから立ち上がると、マキナと名乗った彼女が俺のシャツの裾を引っ張ってきた。


「ちょっと待って。もうちょっと気になることはないの? 私が言うことじゃないけど、すんなり受け入れすぎよ」


「確かに気になるけど、そんなに大事じゃない気がするんだよな。だって君……いや、マキナが悪い人なら俺はもう死んでいるし」


「確かに悪いことするつもりはないけど……」と彼女は髪を指でくるくるといじりながら言った。


「まあ一旦朝飯を食べよう。話はそれからだ」と俺は言った。


感想、評価、誤字報告など大変励みになります。

明日(2/28 19:00) 3話投稿予定です。

よろしくお願いします。

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