機械少女クロニクル 1
習作です、よろしくお願いします。
金曜日の夜は華やかな空気が街を支配している。
あたりを見渡せば、カフェテラスでおしゃべりしている人たちも、酒場で酒を酌み交わす人たちも、あるいはただ道を行く人たちも、明るい雰囲気を纏っているように見える。
一方で、光が強ければ強いほど影もまた濃いと言ったのは誰だったか?
きらきらした夜の街の隅っこで、俺は屋台で買った得体のしれない串焼きを片手に一人で公園のベンチに腰かけている。
かの格言は本当に言い得て妙だ、そう思わないか? と膝の上で丸まっている黒猫に語りかけたが、猫は身じろぎしてニャーと鳴いただけだった。
串焼きをかじってみると、味は意外と悪くなかった。黒猫は湯気を立てている串焼きに顔を近づけて匂いを嗅いでいる。少し近づけてやると、恐る恐るかじってからまたニャーと鳴いた。
最近こうして公園のベンチで時間をつぶしていると、どこからか現れて俺のほうへやってくるのだ。動物を飼ったことはないけれど、構ってほしくて絡んでくる妹を思い出して懐かしい気持ちになる。
串焼きを食べ終えてしまうと、俺は猫を撫でながらこれからどうするか考えた。彼方の空がわずかに赤みを帯びているのを見ると、夜はまだ始まったばかりのようだった。
俺の数少ない友人もこのような仕方で時間を浪費することを好まないので、いつもなら適当に酒を買って帰って家で飲むのだが、今日はなんとなく外で飲みたい気分だった。
一度考えを決めてしまうと気分が軽くなった。猫を膝から下ろして腰を上げると未練がましく鳴いたが、もう一度撫でてやると満足げに夜の闇に消えていった。
切り替えの早さに少し悲しくなったが、俺は立ち上がって繁華街のほうへ一歩踏み出した。
しばらく歩いて目に入った中で一番大きな酒場に入った。
雑多な店内はすでに出来上がっている者たちの喧騒で満ち溢れていた。俺が席に着くやいなや注文を取りに来た店員にビールを頼んだ。
少しして運ばれてきたグラスは良く冷えていた。誰に言うでもなく口の中でいただきます、と呟いてから一気にあおると、俺を縛り付けている悩みや不安などが洗い流されていく気がした。
特別ビールが好きなわけではなくて、アルコールが入っていればなんでも良かった。
とにかくいまは俺と関係するすべての事象を忘れて、この世界から解放されたい気持ちだった。全てを諦めて、そしてそのまま消えてしまいたいと思った。
ここしばらくの間、俺はそうした考えに取りつかれていた。そうして俺はビールを飲み続けた。
現実的にそのようなことができる可能性がないことくらいはわかっていて、わずかに残った理性は無駄なことをするなと叫んでいたが、俺はその声が聞こえないふりをし続けた。
*
一人の少女が酒場に足を踏み入れた。
作り込まれた人形のように整った顔立ちと特徴的な赤い瞳が目を惹く彼女は、衆目を一気に集めたが気にする様子はなかった。
「おい、姉ちゃん。こっちで一杯飲まねえか? もちろん俺たちがおごるからさ!」
酔って気が大きくなった一人の男が声をかけたが、彼女は一瞥しただけで取り合わなかった。
「お前、舐めてんのか?」
そんな彼女の様子が気に障ったらしい男は、仲間の制止を振り切って少女の腕をつかもうとした。
しかしその直後、男は地に伏せっていた。理解が追いついていない男に、少女は言った。
「あなたに用はないの。次はないから」
喧騒に満ちていた酒場はしんと静まり返っていた。男は呆然としていた。
自分より一回りも二回りも小さい女の子相手に力負けしたことが現実としてうまく認識できていないようだった。
しかしそれすら気を留めない彼女はずかずかと歩を進めていき、机に突っ伏している一人の男の隣に座った。卓上には空になったビールグラスだけがあった。
彼女は気まずそうに注文を取りに来た店員に「すぐに帰るからいい。騒いじゃってごめんなさい」とだけ言って、横で眠る男の顔をじっと眺めていた。
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