そうだったら良いな
撫子と仲直りした翌日。
久しぶりにすがすがしい朝だった。
この前は撫子とのいざこざがあり、朝が来るのが本当に憂鬱だった。
でもそれももう解決し、なにも憂うことがない。
「今日は明るいね瑞希ちゃん」
亜美も元気のない瑞希を心配していたらしく、すぐに瑞希の変化に気づく。
さすが血の繋がった姉というべきだろう。
「一つ肩の荷が下りたからな」
「なになに、なにかあったのー。お姉ちゃん、凄く聞きたい」
「さすがに教えないからな」
さすがに同級生の女の子と喧嘩して仲直りしたなんて恥ずかしくて言えるわけがない。
「瑞希ちゃんも高校生だもんね。色々とあるわよね~。あぁ、青春が眩しい」
亜美は一人納得した表情で頷いている。
なぜ大人は高校生と青春をイコールですぐに結ぶのだろう。
そもそも青春の意味が分からない。
大人たちは高校生は青春で羨ましいと言うが、高校生だって毎日良いことだけではない。
撫子と喧嘩してモヤモヤしたり、イライラしたり、ストレスや悩みだってある。
それをくるめて青春と言い、青春で良いなという大人は、高校生の苦労を知らないのだろうか。
そもそも瑞希は青春が羨ましいどころか嫌いである。
自分たちの苦労を青春という言葉で美化されるのが嫌いだ。
「別に青春じゃないから」
瑞希は冷たく亜美に言葉を吐きかけると、そのまま家を出る。
「瑞希ちゃん、おはよー」
「おはよう、柊さん」
「おはよう……珍しいな白鳥と金森が一緒に登校なんて」
校門前で舞と撫子と出会った瑞希は、朝から二人一緒だったことに驚いた。
朝から二人一緒の組み合わせは初めて見たかもしれない。
「珍しくたまたま会ったのよ、そこで」
「そうそう。だから一緒に来たんだ。友達だから。それに昨日や一昨日は避けられまくったから」
「そ、それはもう終わったことでしょ。もう持ち出さないで」
雨降って地固まるというべきか。昨日よりもさらに仲良くなった気がする。
舞にからかわれた撫子は頬を赤らめ、拗ねるようにソッポを向く。
撫子もいつも通りに戻ったようでなによりだ。
「ねぇーねぇー。あたし瑞希ちゃんと撫子ちゃんと写真撮りたいんだけど良いかな」
なにを思ったのか、突然三人で写真を撮ろうと言い出す舞。
「いきなりどうしたんだ金森」
「そうね、いきなりすぎて頭が追い付かないのだけれども」
いきなりすぎる提案のせいで瑞希と撫子の頭は追い付かないでいる。
どうして朝、三人と出会って写真を撮る流れになるのだろうか。
「えっ、なんかこの三人でいられる時間を思い出として写真に残しておきたいな~と思って。ほらっ、写真に撮っておけばずっと思い出を残せるじゃん」
舞はどうしてもこの三人で写真が撮りたいらしく、熱弁する。
瑞希はあまり思わないが、舞は思い出を写真とかで残しておきたいタイプらしい。
確かに写真を撮れば、今生きている一部分を切り取って残すことができ、写真というデータという媒体で思い出を残すことができる。
「すぐに終わるから、こっちに来て」
瑞希も撫子もあまり乗り気ではないということを悟ったのか、舞は二人の腕を抱きながら人気のないところに移動する。
瑞希と撫子は、されるがまま舞についていく。
瑞希も撫子も、いきなりことすぎて抵抗する暇もなかった。
「ほらっ、三人で写真を撮るから、近づいて近づいて」
舞は本当にこの三人と写真が撮りたいらしく、上機嫌だった。
舞を真ん中に挟み、舞の右側に瑞希、左側に撫子という並び順だ。
三人一緒に近くで撮りたいのか、舞は二人の腕を抱きしめ三人の顔を近づける。
「瑞希ちゃん、あたし両手塞がってるから写真取れないや。だから代わりに写真撮って」
「えっ、私が」
「うんお願い。このボタンを押すと撮れるから」
舞は自分の両手が塞がっているということに気付き、瑞希に助けを求める。
別に撮るとは言っていないのだが、舞の中では三人で写真を撮るのは決定事項らしく、写真係を瑞希に押し付ける。
一回撫子の方を見たのだが、腕がガッチリホールドされ逃げることができずに諦めたことをアイコンタクトで伝えてきた。
「それじゃー撮るぞー、はいチーズ」
撫子が諦めているなら瑞希も諦めるしかないだろう。
瑞希はスマホのシャッターボタンを押す。
スマホの画面には三人の頬が触れ合いそうなぐらい近く、体は完全にくっつている、第三者が見れば間違いなく仲良しリア充のような写真だった。
「ありがとう瑞希ちゃん。それじゃー二人にも写真送るね」
三人で写真が撮れて嬉しがっている舞の声は凄く弾んでいた。
「……あっ、そう言えば瑞希ちゃんも撫子ちゃんも連絡先交換してないじゃんっ」
スマホのラインを開いて、まだ瑞希と撫子の連絡先を交換していないことに気付く舞。
「……そう言えばそうだったな」
「……確かに交換していなかったわね」
瑞希と撫子もまだ三人で連絡先を交換していないことに気付いた。
そもそもクラスメイトと連絡先を交換していなくてもなにも不便がなかったため、すっかり忘れていた。
その後瑞希たちはお互いの連絡先を交換する。
初めてラインに家族以外の友達が追加された。
『白鳥撫子』と『金森舞』の名前が。
「せっかくだから三人のグループラインも作っておくね」
そう言って舞はすぐに『サポート部』というグループラインを作り、二人を招待した。
「……これがグループラインなのね。初めて見た」
初めて見るグループラインに撫子は感慨に更けていた。
「感動するところそこっ」
案の定、舞はそんな舞を見て驚いていた。
その後舞から、写真が送られてきた。
三人で撮った初めての写真だ。
舞はとても楽しそうな表情を浮かべているが、隣の瑞希と撫子はいきなりの写真に戸惑い、あまり楽しそうな表情ではなかった。
舞はこの三人でいられる時間を思い出として残しておくために写真を撮りたいと言っていた。
正直、今の瑞希はその気持ちはあまり理解できなかった。
写真は記録を残すことはできても感情を残しておくことはできない。
写真を見て、楽しかったーとか悲しかったーとか思うのはその写真を見て、忘れていた感情を思い出すからそう思うのであって、写真自体はただの記録の媒体でしかない。
だからこそ、写真というデータは消さない限り一生残すことができる。
この、ほんの一瞬の今を切り取った写真も、大人になって見返したら楽しい高校生活の一コマだったと思うかもしれない。
「これからももっとたくさん三人で写真を撮っていきたいな~」
「まだ高校一年生の四月なんだから撮るチャンスはまだたくさんあるだろ」
「そうだよね。もっともっと写真を撮って思い出を残していければ良いな。この三人で」
瑞希たちはまだ高校一年生、しかもまだ四月である。
高校生活なんてまだ始まったばかりである。
「大人になって高校生の時の写真を見て三人で笑い合いたいね」
舞はスマホで撮った三人の写真を見て思いを馳せる。
未来のことは誰にも分からない。
だから約束はできない。
「そうだったら良いな」
でも瑞希もそうだったら良いなと思っている。
青春という言葉は嫌いだが、嫌な思い出より楽しい思い出がたくさん残っている方が良いに決まっている。
今、この時を切り取った三人で撮った写真。
瑞希にとってこれが高校生になって初めて撮った友達との写真だった。




