……これが青春だったらマジで最悪だな
「みんな買い被りすぎだよ。あたし、そんなにコミュ力高くないし」
舞は苦笑いを浮かべながら謙遜する。
舞のことを知っている瑞希はそれが謙遜ではなくただの事実だと言うことを知っている。
「それにあたしが椿ちゃんと仲直りできたのはコミュニケーション部のおかげだし……あっ」
舞が話している途中に名案を浮かんだと言わんばかりに突然大きな声を上げる。
その声の大きさに瑞希だけでなく、教室にいた生徒のほとんどが舞に注目する。
教室にいるクラスメイトの注目の的になった舞は、恥ずかしくなり顔を赤らめさせる。
「そうだよ。これをコミュニケーション部に相談依頼を出せば良いんだよ」
椿たちはまだ分かっておらず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている横で舞は一人テンションが上がっている。
この時点で瑞希も舞がなにを企んでいるのかある程度想像ができた。
多分舞は、なぜ撫子が瑞希を避けているのかというお悩みをコミュニケーション部に解決してもらおうと考えているのだ。
そもそも撫子になぜ瑞希を避けているのか正面から聞いても答えてくれる可能性は限りなくゼロに近い。
でもコミュニケーション部に来た依頼だったら撫子も無下にあしらうことはできない。
まだ一ヵ月も経っていない関係だが、撫子が責任感の強い女の子だということは知っている。
例え正面から聞いても答えてくれないことでも、コミュニケーション部としての依頼としてなら聞いてくれる可能性は高くなる。
「どういうこと?あたしたちに分かるように説明しなさいよ」
「こんなことも分からないなんて馬鹿よね」
「今、馬鹿と言ったわね柊。少し面貸せや」
「まぁーまぁー椿、落ち着いて。柊も煽らないの」
理解力が乏しい椿を馬鹿にしたら、予想通り椿は激情し噛みついてきた。
それを見た帆波がすぐに仲裁に入り、瑞希が注意される。
「ごめんね椿ちゃん」
舞は理解できなかったことを自分の言葉足らずだということを謝罪して、椿たちに説明する。
舞の説明は分かりやすいもので、あの椿でも理解することができた。
そんなことを言うとまた椿と喧嘩してしまうので、今度は黙っておくことにした。
ちなみに、舞が椿たちに説明した内容は瑞希が考えたものと同じだった。
「なるほどね。良い案かもしれないわね」
「これなら白鳥も話を聞いてくれると思うよ」
「ナイスアイディアじゃん舞。これなら行けるよ」
椿たちも舞が考えた作戦が名案だと思っているのか口々に舞のことを褒めたたえる。
当の本人は満更でもない表情を浮かべている。
「ねぇ、瑞希ちゃん」
不意に舞が瑞希の名前を呼ぶ。
「この作戦はあたしだけじゃ上手くいかないと思う。サポート部の瑞希ちゃんとしての……ううん友達の瑞希ちゃんの力も貸して欲しい。お願い、あたしに力を貸してください」
舞がサポート部の瑞希に対して、いや友達の瑞希に対して頭を下げる。
そもそもこの問題は瑞希と撫子の二人の問題である。
言い方が悪いかもしれないが、舞は関係ない。
そんな関係な舞が瑞希と撫子のために頑張ってくれている。
それが嬉しかった。
それと舞に友達と言われた瞬間、妙にむず痒かった。
「これはサポート部の依頼だろ。私もサポート部の部員だ。無関係じゃない。もちろん手伝うよ。私も気がかりだし」
これはサポート部への依頼だ。
サポート部の部員である瑞希はもちろん無関係ではない。
それになぜ撫子に避けられているのか気になって、授業に集中ができない。
サポート部の部員でもある瑞希と撫子の問題をサポート部の依頼として解決させると作戦なんて、瑞希一人では絶対に思いつかなかったやり方である。
まさかサポート部にこんな使い方があったなんて。
瑞希は心の中で舌を巻いた。
「それじゃー放課後サポート部に依頼を出すね」
舞がそう締めくくり、こうして瑞希たちの作戦は決まった。
舞が悩んでいた時は撫子が隣にいてくれた。
つまり、瑞希、撫子、舞の三人全員が味方側だった。
でも今回は違う。
瑞希の隣に舞はいても撫子はいないのだ。
本当に人間関係というものは複雑ですぐに移ろい面倒くさい。
一人だったら悩まなくても済むのに、誰か知り合いが増えるとその分複雑になり面倒になる。
高校生たちの人間関係のもつれを大人たちは『青春』の一言で片づけてしまうかもしれないが当の本人にとってはかなり深刻な悩みだ。
些細なことでぶつかり合い、傷つけ合い、避けて避けられて、本気で悩むのだ。
そんな『青春』という安っぽい言葉で片づけないでほしい。
「……これが青春だったらマジで最悪だな」
休み時間が終わるタイミングで瑞希は一人愚痴を漏らす。
その愚痴はチャイム音にかき消されて、誰の耳にも届くことはなかった。




