ゴールデンウィークだって三回しかないんだよ
白鳥撫子は聞きたいことがあって校門前で瑞希を待っていた。
最近の瑞希はかなり疲れているように見える。
それがなぜか気になってしまう。
今まで撫子は友達がいなかった。そもそも友達なんて欲しいとも思わなかった。
でも高校で瑞希と出会い、初めて気を使わない相手ができた。
だからだろうか。瑞希の隣にいると一人でいる時と同じぐらい居心地が良い。
「……柊さんは私のために居場所を作ってくれた。きっと彼にはそんな自覚はないと思うけど」
自分で言うのもおかしいかもしれないが、今までずっと友達がいなかったせいか撫子は協調性がない。しかも空気が読めない。
人に合わせるのは苦手だし、相手がなにを察してほしいのかも分からない。
だから空気を読み相手の気持ちを慮り、先輩に気を使いながら行う部活なんてやりたくはなかった。
もし、一人だったら新しい部活を作るなんて夢のまた夢だろう。
撫子にそんな人脈もなければツテもない。
友達すらいないのだから。
だから撫子は瑞希に感謝していた。
そんな瑞希がなにかで悩んでいる。撫子は自分に居場所を作ってくれた瑞希に少しでも恩返しがしたい。
「……あっ柊さ……ん」
校門から瑞希が出てきたので撫子は声をかけようとしたができずに、中途半端に出てきた言葉は虚空へと消えて行った。
「……どうして金森さんが隣にいるの?」
別に瑞希と舞はクラスメイトなんだから、一緒に校門を出てきても違和感はない。
だけど二人で校門を出てくる姿を見て撫子は胸の息苦しさを覚えた。
目の前がまるで回転しているかのように景色が歪み、動悸が速くなる。
最近、瑞希と舞が妙に仲が良い。
そんな仲の良い二人を見ていると、自分だけ二人の輪の外にいるかのような疎外感を覚える。
声をかければ届く距離に瑞希はいる。
でも撫子は瑞希に声をかけることができなかった。
物理的以上に精神的な距離が遠かったからだ。
近くにいるのに遠い。
撫子は二人に声をかけることができずに、一人で家に帰る。
撫子の感情はオーバーフローを起こし、自分でも制御ができなくなっていた。
高校生にとって最初に訪れる一番楽しみな日はいつか分かるだろうか。
そう、ゴールデンウィークだ。
高校二年生は高校にもなれ、受験というプレッシャーもまだないからゴールデンウィークを謳歌することができるだろう。
高校三年生も、今年は高校生最後のゴールデンウィークだ。悔いが残らないようにゴールデンウィークを過ごすに違いない。
高校一年生だって、高校初めてのゴールデンウィークに心を躍らせているに違いない。
「そういえば瑞希ちゃんってゴールデンウィークの予定とかあるの?」
「ない」
「えぇー、瑞希ちゃん高校生だよね。高校生って遊び盛りのお年頃よねっ」
朝、姉の亜美にゴールデンウィークの予定を聞かれた瑞希はきっぱりとした声で『ない』と言うと、物凄く驚かれた。
いや、ないものはないし。
「高校は三年間しかないんだから、ゴールデンウィークだって三回しかないんだよ。楽しまなきゃ損だよ」
「別に家でゴロゴロしてるから良い」
「ゴロゴロしてるなんてもったいないわ。高校生なんだからお友達と遊ぶ方が楽しいわよ。私も高校生だったらずっと友達と遊んでる」
亜美は高校生の頃からリア充だったため、瑞希に友達と遊ぶ楽しさを押し付けてくる。
瑞希は陽キャではなく陰キャだ。
友達とワイワイしているよりも一人で過ごす方が楽しい。
それに楽しみは人それぞれで、友達とワイワイするのが楽しい人もいれば、一人で過ごすのが好きな人もいる。
「それは姉さんの考えであり私の考えとは違う。私は一人でゴロゴロしてる方が楽しいから」
一方的に亜美の価値観を押し付けられた瑞希は、少しムスッとした表情を浮かべながらリビングを出る。
その後、学校に行く準備をして学校に向かう。
あと一週間……いや、十日後にはゴールデンウィークがやって来る。
ゴールデンウィークがやって来るせいか、校内はゴールデンウィーク一色に染まっている。
ほとんどの生徒がゴールデンウィークを楽しみにしているのかソワソワしている。
まっ、瑞希には関係ないが。
「おはよう白鳥」
「おはよう柊さん」
昇降口で撫子と出会いあいさつをかわす。
撫子は瑞希よりも最初に来ていたらしく、上靴に履き終えている。
「それにしても校内はゴールデンウィーク一色だな。みんな浮かれてる」
「そうね」
瑞希が上靴に履き替えながら撫子に話しかけると、今日は機嫌が悪いのか返事が冷たい。
いつもはもっと会話を広げるような発言をするのだが、今日は瑞希と会話をしたくないのかすぐに会話を終わらせるような返しをする。




