……瑞希ちゃんって大人だね
放課後は最高だ。
別に友達と一緒に部活をするからとか、友達と一緒に遊びに行けるからではない。
家に帰れるからだ。
なにを当たり前のことを言ってるんだと思うかもしれないが、ホームルームが終わり放課後になれば、教室という箱庭にいる義務は発生しない。
つまり、家に帰って自分の部屋で一人で過ごすことができる。
一人で過ごす時間が瑞希にとって、一日の中で一番心穏やかに過ごすことのできる時間だった。
他のクラスメイトはグループで教室を出て行く割合が多い。
きっと友達と一緒に部活に行ったり、街へ遊びに行くのだろう。
こういうのを大人たちは『青春』と呼ぶのかもしれないが、瑞希は全く興味ない。
もちろん、瑞希も部活には入っているがほとんど活動はなく、帰宅部同然だった。
撫子もいつの間にか帰っているし、舞も見当たらない。
さっき、舞は椿たちと一緒に教室を出て行く姿を目撃した。
仲の良い四人組である。
「……さて、帰るか」
瑞希は立ち上がり、一人で教室の外に出る。
きっと周りから見れば独りで寂しい男の娘だと思われているだろう。
だが、全然瑞希は寂しくなかった。
むしろ、独りが好きな瑞希にとっては心地が良かった。
その後、家に帰る生徒たちでごった返している昇降口に着くと、いきなり声をかけられる。
「やぁー、奇遇だね」
オドオドしすぎて、ここが校内でなかったら警察に通報していたぐらい舞の挙動はおかしかった。
「クラスメイトなんだし、帰る時間が同じなのは奇遇ではなく普通でしょ」
きっと、舞は偶然を装いたかったのだろう。
でもそんなにオドオドして挙動がおかしかったら昇降口で待ち伏せしたのは誰が見ても明らかである。
さすがにそれをツッコむと舞がテンパって余計に面倒くさそうなので、スルーする。
「そうだよね、あはは……」
舞は苦笑いを浮かべながら、瑞希の横に並ぶ。
一緒に帰る気満々である。
「ねぇーねぇー瑞希ちゃん。途中まで一緒に帰らない?」
一緒に靴を履き替えながら舞は瑞希に話しかける。
「帰る方向は同じだし別に良いけど」
本当は一人で帰りたいがここで断ると、面倒になることは容易に想像が付く。
泣かれても困るし、駄々をこねられても困る。
それに断って食い下がられて口論になると、余計に時間を浪費することになる。
そんなくだらないことで時間が浪費するのは、嫌だ。
「そう言えば撫子ちゃん見なかった?」
「いや、見てないけど」
「そっか……すぐに帰ったから追いかけたんだけど見失って……もう外靴もないし」
撫子も瑞希同様、一人が好きな女の子だ。
一秒でも長く学校にいたくないのだろう。
舞は本当は撫子とも帰りたかったらしく、俯きながらショックを受けている。
同じ部員、クラスメイトと言えども部活がなかったら基本三人でいることなんてほとんどない。
なぜなら瑞希と撫子がみんなでいる時間よりも、一人でいる時間を優先させているからである。
「……さすがにそれはストーカーに片足突っこんでるぞ」
「えっ、マジ。そんなつもりはなかったのに」
さすがに舞のその行動は行き過ぎなような気もする。
舞はまさか自分がストーカーまがいなことをしていたとは思っていなかったらしく衝撃を受けている。
その後靴を履き替え瑞希たちは帰路に着く。
文化部とかは毎日部活があるわけではないので、瑞希以外の生徒たちも通学路を歩いている。
「そう言えば瑞希ちゃんっていつも一人だよね。もっと友達とか作らないの?」
「昼休みも話したと思うが、別に友達がほしいと思ったことがないからな。むしろ一人でいる方が楽しいし」
「そうなんだ……瑞希ちゃんって大人だね」
「大人?」
なぜ一人が好きなことが『大人』なのか意味不明だった瑞希は首を傾げる。
一般的に舞のように高校生は、友達を作って友達と遊ぶ方が一人でいるよりも楽しいと感じる人は多いのかもしれない。
それに瑞希は大人ではない。
『高校生』だ。
子供から大人になる途中の段階だ。
「えっ、だって一人でいても寂しくないなんて大人だよ……」
「金森は寂しいのか?」
「……うん、あたしは寂しいかな。だから友達作って楽しく過ごしたいな……だって一人は寂しいもん」
舞も舞で瑞希が驚いていることに驚いている。
瑞希がもう少し深く質問すると、舞のトラウマに触れてしまったのか表情が陰る。




