私と一色は友達ではない
春という季節は良い。
寒い冬が過ぎ、これからはどんどん暖かくなっていくからだ。
外にいても寒くも暑くもなく、過ごしやすい季節。
だから瑞希たちは屋上に上がり昼食を食べていた。
「屋上でご飯って最高だよねー。まさに青春って感じ」
「そうだねー。屋上で食べるといつもよりおいしく感じるよね」
舞が安っぽい『青春』という言葉を使って喜びを表現し、帆波がそれに同調する。
どうして屋上で友達と昼食を食べることが青春になるのだろうか。
瑞希には分からなかった。
「どしたー椿。そんなに嫌そうにご飯食べて。もしかしておいしくないの」
「別にご飯はおいしいわよ」
「それならどうしてそんなに不機嫌なの?」
誰が見ても明らかに不機嫌そうにご飯を食べる椿に、早織が椿に気をかける。
「ここに柊がいるからに決まってるでしょ」
椿は敵意を隠すことなく瑞希を睨みつける。
「奇遇だな。私も不機嫌だ。一色のせいで。せっかくのご飯が台無しだ」
瑞希も瑞希で敵意を隠すことなく、椿に言い返す。
「まぁーまぁー二人とも。仲良くしようよ」
「「ムリ」」
睨み合っている二人を仲裁しようと舞が間に入るが、二人は断固拒否した。
こういうところだけ息が合うのも不本意だ。
舞もどうしたら良いのか分からず、苦笑いを浮かべている。
「……嫌いっていうわりには殴り合いの喧嘩とかしないよね」
「……それな。むしろ嫌いとか普通面と向かって言えなくない?」
帆波と早織がブツブツと話し合っている。
「そもそもどうして柊を連れてくるのよ」
「えっ、友達だから?」
「あたしと柊は友達じゃないでしょ」
「一色の言う通りだ。私と一色は友達ではない」
「えっ、友達じゃないのっ」
舞の中では瑞希と椿は友達だったらしく、心底舞は驚いていた。
瑞希からすればどうしてそんなことで舞が驚いているのかが分からない。
瑞希と椿はお互いに『嫌い』だと公言しており、基本一緒に行動することはない。
ならどうして椿たちと一緒に昼食を食べているかと言うと、無理矢理舞に連れて来られたからである。
でなかったら、椿と一緒に昼食なんて食べない。
本当は嫌だったが舞が強引で、これ以上押し問答するのは時間の無駄だと瑞希が折れたためである。
もちろん、隣には舞に無理矢理連れてこられた撫子もいる。
撫子は表情変えることなく、淡々と自分のお弁当を食べている。
「ただのクラスメイトよ」
「そうだな。ただのクラスメイトだ」
椿も瑞希もそこら辺は同じ認識らしい。
本当は他人と言いたかったが、クラスメイトということは事実なので瑞希も『クラスメイト』ということにした。
「あたしたち、同じグループになったんだから友達じゃないの」
それでも舞は納得していないのか、首を傾げている。
「いや、あれは勝手に舞や帆波や早織が言っただけであたしは頷いてないわよ」
「私もだ。こいつと同じグループになった覚えはない」
あの時は周りが勝手に盛り上がっていただけで、別に瑞希も椿も同じグループになることを了承していない。
「そうだっけ」
舞は当時のことをあまり覚えていないのか、もしくは都合よく事実が改変されているのか首を捻っている。
「僕は柊や白鳥と仲良くなりたいなー。だって友達が多い方が楽しいし」
「それなー。なんか柊と白鳥が入った方が面白そうじゃん」
陽キャの帆波と早織は二人で盛り上がっている。
一方、撫子は一言も話さずに黙々とご飯を食べている。
静かすぎて逆に怖い。
「あたしは帆波と早織と舞だけで十分よ」
絶対瑞希と仲良くしたくない椿は瑞希のことを睨みつける。
「私も別に一人で良い」
椿と意見が合うのは癪だが、そこだけは同意見だったので瑞希も椿の意見に頷く。
「……そんな悲しいこと言わないでよ」
舞が悲しそうな表情でなにかを言っている。
でもその声はあまりにも小さすぎて瑞希は聞き取ることができなかった。
「ちなみに柊って今まで友達っていた?」
いきなり早織が脈絡のないことを質問してくる。
「別にいなかったし、必要もない」
今まで瑞希には友達と呼べる友達はいなかった。
それは瑞希が一人でいることが好きだったからであり、自ら一人でいることを望んだ結果がこれだった。
だから無理して友達を作ろうとも思わないし、それに友達がいなくても生活することはできる。




