瑞希様。飲み物を持ってくるのを忘れたので一口飲ませてください
椿と帆波と早織は一旦トイレに行くと言い、瑞希たちと別行動をとる。
今日は恨めしいぐらいに晴れていて、いつもより暑く感じる。
そのせいで喉も渇く。
「今日は暑さもあって、凄く疲れる」
「そうね。インドアの私にはかなり過酷な部活動と言わざるを得ないわね」
「あたしもあたしも。もう脚が棒のようだよー……」
撫子も舞も瑞希同様、インドアの人間らしく、外でのボランティア活動のせいでかなり疲れているのが分かる。
「しみじみと運動不足だと実感させられるわね。一応体育とか登下校歩いているから大丈夫だと思っていたけど」
「それはあたしも分かるー。あたしも体育とかしてるから平気だと思ったけど、これ凄く疲れる」
撫子は自分で運動不足だと実感し、舞はそんな撫子に共感する。
「確かに私も腰や脚が限界を迎えている」
椿の言う通り、運動不足のせいか腰や脚がパンパンである。
明日筋肉痛なのは間違いないだろう。
とりあえず喉も乾いているので、水分補給でもしようとカバンの中から水筒を取り出す瑞希。
そんな瑞希を物欲しそうに見つめる舞。
「どうした金森」
「えーっと……ここら辺、コンビニもないし自販機もないし……それに今日暑いじゃん」
なぜそんな目で見つめているのか瑞希が舞に聞くと、舞はしどろもどろになりながら変な言い訳をする。
「言いたいことがあるなら正直に言え」
瑞希も舞がなにを言いたいのかだいたい予想は付いている。
だが、瑞希はあえて気づかないフリをした。
「瑞希様。飲み物を持ってくるのを忘れたので一口飲ませてください」
舞は頭を下げ、手を合わせて懇願をしてきた。
この暑さだ。
舞だって喉がカラカラなのだろう。
「私、男だぞ」
一応瑞希はその辺の確認をして、時間を引き延ばす。
瑞希たちはもう高校生だ。
高校生にもなって男女で飲みまわしは、さすがにアレだろう。
「別に友達なら男女でも普通に飲み回ししてるよ。ほらっ」
男女で飲みまわしを気にしている瑞希を、舞は飲みまわしをしている通行人……というか椿たちを指差して、それが普通だということをアピールする。
トイレ帰り、遠くのコンビニか自動販売機で買ってきたのだろう。
高校生はとにかく金がない。
きっと三人はお金は出し合って一つ、大きなペットボトルをシェアして回し飲みをしていた。
「ん?なに、舞」
いきなり指を差された椿は首を傾げている。
「友達同士なら飲み回しぐらい普通だよね」
「えっ、まぁ、仲が良かったら普通するんじゃない?あたしたちは普通に飲み回ししてるけど」
舞は椿から仲の良い友達なら飲み回しぐらい普通だよねという同意を得ようとする。
椿はその迫力に少し押されながらも、舞の考えに同意する。
「ほらっ、友達なら普通だって」
舞はなぜか勝ち誇ったかのように瑞希に報告する。
「もしかして柊、高校生にもなって女の子と回し飲みを意識してるの。キモッ」
瑞希が嫌いな椿は、飲み回しを恥ずかしがっている瑞希を煽る。
「別に恥ずかしがってない」
からかわれた瑞希は、頬を赤く染めながら否定するが体は正直だった。
「あたしのあげても良かったんだけどもう三人で飲んじゃったし、柊に飲ませてもらったら」
椿は意地悪い姑のようにニヤニヤしながら瑞希のことを見ている。
覚えておけよ。
瑞希は椿に復讐することを誓った。
「分かったよ。あまり飲みすぎるなよ。私の分までなくなるから」
「ありがとう瑞希ちゃん」
瑞希は少しだけ仕方なく舞に水筒を渡した。
舞はとても嬉しそうな表情で水筒を受け取ると、水を飲む。
うっすら汗をかいて水分を失った舞は、とてもおいしそうに瑞希の水筒の水を飲んだ。
「ありがとう瑞希ちゃん」
舞は水分を分けてくれて瑞希にお礼を言いながら水筒を返す。
「女の子との間接キスに緊張してるのね。この童貞」
「お前、一回ぶん殴ろうか」
「落ち着いて柊。椿も柊をからかわないの」
「あはは、この二人、マジで面白んだけど」
椿が瑞希を煽り、それに乗ってしまう瑞希。
そんな二人を帆波が止めにかかり、早織はケラケラ笑っている。
椿にからかわれた瑞希は癪だったので、できるだけ意識しないで水筒の水を飲む。
別に女の子の間接キスだからと言ってなんの味もしない。
鼓動だけ少し速くなったのは、椿たちには内緒だ。
「……私も水筒を忘れたから、一口もらっても良いかしら」
今まで蚊帳の外にいた撫子はなにかをカバンにしまうと、瑞希に水筒の水を飲ませてほしいと懇願して来た。
あの真面目で用意周到な撫子が珍しいことだ。
ちなみに、そのカバンにしまったのが水筒だったことは誰も気づくことはなかった。
「私の飲みかけだけど、大丈夫か?」
「別に大丈夫よ。いちいち間接キスで騒ぐほど子供じゃないもの」
一応男女の間接キスを心配した瑞希は撫子に確認を取るものの、撫子は涼しい表情を浮かべながら水筒を受け取ると、なんの躊躇もせず水筒に口を付ける。
高校生にとって男女の飲み回しは普通なのか。
瑞希はまた一つ高校生の常識を知った。
「ありがとう、おいしかったわ」
「そりゃーどうも」
撫子は唇の端に手の甲で拭いながら、瑞希に水筒を返した。
瑞希はそれを受け取ると、まだ喉が渇いていたためもう一度水分を補給する。
その時、撫子が瑞希から視線を外したことに瑞希は気づいていなかった。
やはり、撫子との間接キスもなんの味もしなかった。




