ストッ―――プ
その後、舞たちが待っている屋上に到着する。
屋上に続く扉を開けると目の前にそわそわしている舞と落ち着きを欠いている帆波の姿があった。
今日の空は春らしい穏やかな晴れ模様で、ポカポカと温かく、爽やかなお昼だった。
「来たわよ、舞、帆波」
屋上に足を踏み入れて早々、偉そうに椿は口を開く。
こんなことを言ったらまた帆波に怒られそうだが、こんな奴のどこが良いのだろうか。
いつも偉そうにしているし、言葉も高圧的だし瑞希だったらこんな奴と友達になるのは死んでもごめんだ。
「ありがとう椿ちゃん、来てくれたんだね」
舞は椿が屋上に来てくれただけで嬉しいのか、感謝の言葉を椿に伝える。
「あたしも三人が心配で来ちゃいましたー」
早織は少しでも雰囲気をフランクにさせようと明るい声で二人に話しかける。
「柊や白鳥も来てくれたの?」
一方帆波は、瑞希や撫子が来てくれたことに驚いているようだった。
「ホントだ。瑞希ちゃんや撫子ちゃんも来てくれてる」
舞はまるで援軍が来てくれた兵士のように嬉しそうな表情を浮かべている。
「別に来るつもりはなかったんだが、一色に言われて来ただけだ」
「この喧嘩は私たちにもあるって言われてね」
瑞希と撫子は嫌悪感を隠そうともせず、ここに来た経緯を話す。
「いや、それは普通言っちゃダメだから」
なぜか早織が呆れているが、なぜ早織が呆れているのか瑞希には分からなかった。
「凄いストレートっ。二人はもっとオブラートを覚えた方が良いと思うよ」
なぜか舞まで苦笑いを浮かべていた。
小学校、中学校と一人で学校生活を送って来た瑞希はなぜそんなに非難されるのか分からなかった。
それは白鳥も同じらしく、同じように首を傾げている。
「……なぜ金森はあんなに哀れんだ子供を見るような目で見てるんだ」
「……私にも分からないわ。でもあれは可哀そうな子供を見るような目よね」
「なにコソコソ話してるの。気持ち悪っ」
瑞希と撫子がヒソヒソ相談していたら、椿に罵倒された。
「チビのくせにずいぶん偉そうだな」
「別にあなたにとやかく言われる筋合いはないんだけど」
「今、チビって言ったな柊。一番気にしてることを言いやがったな」
罵倒された瑞希と撫子は泣き寝入りするほど弱くはなく、大人ではない。
椿に罵倒された瑞希と撫子は反射的に罵倒を返す。
その中で『チビ』というのが椿のコンプレックスらしく、激しく瑞希たちに噛みついてくる。
「落ち着いて椿。柊も人のコンプレックスを言うのは良くないんじゃないのかな」
帆波が仲裁に入るものの、やはり椿よりの仲裁だった。
帆波は人のコンプレックスを悪く言うのはいけないと言っていたが、そう言うなら瑞希だって納得してないことだってある。
「それを言うなら大村だって『陰キャ』だの『ボッチ』だの言っただろ」
人によっては『陰キャ』も『ボッチ』もコンプレックスの中に入るだろう。
「えっ、それってただの事実でしょ。あたしは事実を言っただけだし」
しかし早織は自分が言ったことは暴言ではなく事実を言っただけだと主張してくる。
「それなら一色の『チビ』だって事実だろ」
納得できない瑞希は再び椿のことをチビだと言う。
今まで人とあまり話してこなかった瑞希は、人とのコミュニケーションが上手くなかった。
「ストッ―――プ。また変なことで喧嘩してるよ。ここに来たのはあの喧嘩について本音で話すためでしょ。違うことで喧嘩しちゃダメだよ」
「金森さんの言う通りね。ここでまた違う喧嘩を始めるなんて時間の浪費よ」
また喧嘩を始めた瑞希と椿を、舞は体を間に入れて喧嘩を止めようとする。
撫子も舞の意見と同じらしく舞の援護をする。
舞と撫子の仲裁により、冷静さを失っていたと気づいた瑞希は呼吸を整えながら冷静さを取り戻す。
それは椿も同じらしく、言い過ぎたと自覚したのか噛みついてこなくなってきた。
「はいはい。早くしないと昼休みも終わっちゃうからさっさと終わらせるよ」
このままでは埒が明かないと思ったのが早織が脱線した話を戻す。
他の五人も本来の目的を思い出したのか大人しくなり、話しかけるタイミングをうかがってる。
日本人の特徴としてこういう時、自分から話し出す人は少ない。
理由は、悪目立ちをするからだ。
出る杭は打たれるという言葉にもある通り、人と違うことをするとすぐに叩かれる。
日本は同調圧力の国である。
みんな違ってみんな良いと誰かが言っていたが、それは間違いで、日本ではみんな同じであることを求められる。
それが面倒な瑞希は人と関わるのを辞めたのだが、そんなことはどうでも良い。
「別に舞が柊と一緒にいたいなら勝手にすれば。その代わり、あたしたちには話しかけてこないでよね」
ほとんどの日本人がこういう時、自分から話し出すのをためらう。
しかし、椿はそんなことに臆することなくストレートに今回こうなっている原因を聞く。
さすがクラスカーストトップの男の娘だ。
この子に怖いものなんてないのだろう。




