今、舌打ちしただろ
「ごめん、言い過ぎた。確かに幼馴染の栗山からすれば気分の良いものではなかった」
「ごめんなさい。確かに私たちは一色さんのことよく知らないわ。よくも知らないのに勝手にこうだと決めつけて一色さんを責めるようなことを言ってごめんなさい」
「ううん。僕こそカッとなってごめん。椿の悪口を言われるとつい頭に血が上って……それに二人は椿とは付き合い浅いしそう思うのも普通かなって。確かに僕が椿と初対面だったら二人と同じことを思う。うん、絶対思う。確かに椿は我がまますぎるよね~」
帆波に怒られて言い過ぎたと気づいた二人は申し訳なさそうに謝罪する。
帆波も帆波でカッとなってキレたことを申し訳なく思っているらしく、帆波も二人に謝罪する。
人が初対面の人に会った時、第一印象がまずその人の性格だと思ってしまう。
よく第一印象でその人の印象が決まるっていう話は有名な話だろう。
第一印象で分かるのはその人の表面的なことだけだ。
見た目。体型。話し方。言葉遣い。
色々な要素が組み合わさって、その人の印象が決まる。
そこから少しずつ話して、少しずつ仲良くなり、少しずつ深く知っていく。
そうすると、第一印象と違かったということはよくあることだ。
瑞希も撫子も椿の表面的なことしか知らない。
我がままで傲慢で、声は大きいし、生意気だし、リア充で自分の意見はオブラートに包まずにストレートに相手に言う。
それが瑞希の椿に対する印象だった。
だけど幼馴染の帆波はもっと深く椿のことを知っているのだろう。
椿のことを深く知っているがゆえに、表面的なことしか知らない瑞希たちに、表面的な椿のことを言われ、帆波はカッとなった。
つまり瑞希と帆波では、同じ椿でも違うものが見えているということである。
「そうだよね。あたしたちはまだ表面的なことしか知らないから、これから少しずつ仲良くなってお互いのこと深く知っていこー」
今まで静かだった舞が、この場を少しでも明るくさせようと思いっきり元気な声を出す。
「……いや、別にそんなこと望んではないんだけど……」
「……別に興味ないわ」
「そうだね。みんなお互いのことを知らないから喧嘩になっちゃうんだよね。少しずつ仲良くなろー」
「そうだよ、せっかく同じクラスになったんだし。仲良くならないなんてもったいないよ」
別に瑞希は椿と仲良くなるつもりなんて毛頭ない。
それは撫子も同じらしく、瑞希と同じように否定の言葉を言おうとした。
でも、社会は声の大きい人の声しか届かない仕組みなっている。
瑞希と撫子の小さい声は、帆波と舞の大きな声によってかき消されてしまった。
そもそも同じクラスになったからといって、そこにいる人たちはつい一ヵ月前まで同じクラスどころか名前も知らない赤の他人だ。
それが同じクラスになった途端、距離感が近くなったと錯覚する人が多い。
そもそも同じクラスになったんだから、その人たちと仲良くならないともったいないよねという発想が理解できない。
「そうだ。なら仲良くなるためにもっとお互いのことを知れば良いじゃん」
「それだー。もっと深くお互いのことを知れば、仲直りできるかも」
「そうそう。それならもっと仲良くなるために本音を相手に伝えるのが一番良いよね」
「うんうん、そうだね。ぶつからないと相手に伝わらないもんね」
さっきの話から急展開が起こり、話についていけない瑞希。
それは撫子も同じらしく、口を挟むことなく目の前で青春を始めてしまった二人を傍観していた。
「僕じゃきっと話を聞いてくれないから柊、頼んでも良いかな?」
「お願い瑞希ちゃん。あたしたちに力を貸してっ」
帆波は優しい口調で瑞希に頼み、舞は一生懸命頭を下げて必死に頼み込む。
この依頼はサポート部という部活で受けた依頼である。
最初から瑞希たちに拒否権はない。
「分かった。その代わり私たちは呼び出すところまでだからな。それから以降のことは二人でなんとかしてくれ」
椿とまた話すことは苦痛以外のなにものでもないが、やるしかない。
あんな我がまま男の娘、もう二度と口も聞きたくない。
でもこれを断って部活の活動記録に傷がついたらそれこそ最悪である。
最悪、尚美の職権乱用で廃部になる可能性だってゼロではない。
そうなったら、放課後は部活地獄が待っている。
部活で時間を取られるなんて死んでもごめんである。
「それじゃー頑張ってね柊さん」
「なに逃げようとしてるんだ白鳥。お前も手伝うんだよ」
「ちっ、バレちゃったわ」
「今、舌打ちしただろ。聞こえてるからな」
どさくさに紛れてバックレようとする撫子を逃げないように捕まえる瑞希。
自分だけ逃げようとするなんてそれは問屋が卸さない。
撫子は本当にバックレるつもりだったのか、憎しみのこもった舌打ちを瑞希に飛ばす。
奥ゆかしい女の子だと思っていたが撫子は結構腹黒い女の子なのではと思う瑞希だった。




