一回っ
それから数日。
椿と早織には睨まれる日々を過ごしたが、実害はなかったので無視していた。
「椿ちゃん、全然機嫌直してくれない~」
「椿のフォローのせいでストレスで胃に穴が開きそう~」
お昼休み。
瑞希にとって無害でも、実害を被っている人はいる。
舞と帆波である。
舞が瑞希と話すのはいつも通りの日常だが、体が大きい帆波がいると圧迫感があるしいつも瑞希の周りにはいない人なのでなんだか居心地が悪い。
二人は頭を抱えて悩んでいるようだが、瑞希には全く関係ない。
その問題は二人で解決してほしいというのが瑞希の本音だった。
だがそう言ってられないのが辛いことだ。
「どうして私まで巻き込まれなきゃならないのかしら」
「それはお前がこの事情に片足を突っ込んでいるからであり、おまけに『サポート部』の部員だからだ」
舞と帆波に捕まった時、とっさに瑞希は撫子を道連れにした。
理由は一人でこの二人を相手するのは面倒だったからだ。
撫子は本当に迷惑そうな目で瑞希を睨み、小言を言い続けている。
確かにあの状況では撫子はただのとばっちりだが、舞のおかげで瑞希に大義名分ができた。
それは舞が、この案件を『サポート部』への依頼として持ちかけたからだ。
サポート部は瑞希たちが放課後自由に使える時間を確保するために作られた部であり、基本形骸化された部活である。
でも『部』は『部』である。
サポート部は主に、よりよい学校生活を送るためにサポートする部活である。
だから部員である撫子は瑞希から逃げることができないのである。
もちろん、部長の瑞希も逃げることができないのは同じことなのだが。
「……サポート部への依頼って言われたら断ることができないでしょ」
「……そう言われると文句を言うことはできないわね」
瑞希が撫子の耳元で耳打ちすると、撫子も観念したらしく諦める。
「サポート部なんて僕初めて聞いたけどそんな部活あるんだ」
「そうだよ。あたしと瑞希ちゃんと撫子ちゃんが部員で、新しく作ったの」
「そうなんだー。凄いね~。一年生で新しく部活作っちゃうなんて」
「えへへ~」
ちなみにサポート部は活動宣伝してないから知らない人がほとんどだろう。
本当に相談に来られても困るし。
帆波は一年生でありながら、部活を作ったこと驚くと、褒められたと勘違いした舞が一人デレている。
別に舞だけの功労ではないのだが。むしろ舞は最後に入部しただけである。
「それで二人は一色さんと仲直りがしたい。それが依頼ということで良いのよね」
「うん」
撫子は改めて今回の依頼内容を確認する。
今回の依頼を一言で言うと、舞たちと椿たちを仲直りさせるというものだ。
言葉で表すと簡単である。
舞も食い気味で頷いている。
「思ったんだけど、一色と仲直りしたいなら私たちに相談するよりも栗山の方が分かるんじゃないのか。栗山って一色と幼馴染なんだから私たちよりも一色をよく知ってるだろ?」
椿と帆波は幼馴染である。
瑞希や撫子のように、顔見知り程度しか知らない奴よりも昔から椿のことを知っている帆波の方が適任だと瑞希は考える。
「それはそうなんだけど……」
瑞希に話を振られた帆波はなぜか歯切れが悪い。
「椿の奴、あれから全然口聞いてくれないんだよね~。僕が話しかけても無視だし……こういうのは初めてのパターンだから」
椿に無視されるのが精神的に辛いらしく帆波の声に覇気はない。
入学当初から椿と帆波は仲が良い二人しか知らない瑞希からすると、今のこの状況は不思議な状況だった。
あの仲の良い幼馴染にも冷たい態度を取っていることから推測するに、椿は相当帆波に怒っていることが分かる。
「ちなみに栗山さんと一色さんって今まで何回ぐらい喧嘩をしたかって分かるかしら?そこから仲直りの手がかりを見つけられれば良いのだけれども」
撫子がナイスな質問をする。
いくら仲の良い幼馴染と言えども、喧嘩だってたくさんして来ただろう。
そこから今までの喧嘩のパターンと仲直りにいたった経緯を知れば、解決策が思いつくかもしれない。
しかし、帆波から返ってきた答えは意外な答えだった。
「う~ん……あまり覚えていないけど、覚えているものだと一回だけかな?」
「「「一回っ」」」
その答えに三人全員の声がハモリ、驚く。
だって椿と帆波は小学生の頃からの幼馴染だ。
そんなに長い時間を過ごしたのにも関わらず一回しか喧嘩をしたことがないだなんて……。
少なすぎて驚きである。




