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柊瑞希は青春コンプレックス  作者: 黒姫 百合


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帆波には聞いてないでしょ

「そう言えば一色もそんな言い方してたな。『あたしの舞』とか言って。同じだな。別に金森はお前たちの所有物でもないし、一色だって栗山の所有物じゃないだろ。なのにどうして『僕の』とか『あたしたちの』って付けるんだ」

「いや……それは……」


 そのことを指摘すると帆波はまたバツの悪い表情を浮かべる。


 おまけに歯切れも悪い。


「別に私は気にしてないから安心してくれ。だからその代わり私にいちゃもんを付けるのを止めろってだけ伝えておいて。面倒くさいから」


 もしかしたら椿も帆波も、相手を所有物だと思ったり、自分が所有者だなんて思ったうえで発言しているわけではないのだろう。


 それに瑞希だって相手を物扱いしているからイライラしているのではない。

 なにかしら理由や屁理屈をこねて文句を言ってくるからイライラしているだけである。


「うん、椿に伝えておく」


 帆波は椿より物分かりが良いらしく、素直に頷いてくれた。


 これで一件落着で良いだろう。


 そもそも椿も帆波も瑞希が関わって良い人種ではない。


 彼らはいわゆるクラスカースト上位、つまりリア充だ。


 一方、瑞希はクラスカースト下位、陰キャのボッチである。


 決して両者が交わることはない。


 その後、一人教室へと向かうのだが後ろから帆波も付いてくる。


 当たり前と言えば当たり前なのだが、帆波も瑞希と一緒のクラスのクラスメイトだ。


 行く道は同じである。


「……別にあたしはそんなつもりじゃないんだけど……」

「そんなつもりじゃなくても舞はあたしたちと一緒にいるより柊たちと一緒にいる方が良いんでしょ。ならそっちのグループに行けば」

「そうそう。別に無理して関わらなくても良いから」


 教室近くに来ると、教室の中でなにやら争う声が聞こえてきた。

 争う声を聞いた瞬間、誰が争っているのかすぐに分かった。


 舞と椿だ。


 最後の一人は誰だったか名前を思い出すことができないが、確かに椿と一緒のグループにいる女の子だ。


「ちょっと椿、早織。なにしてるの。舞を寄ってたかってイジメて」


 瑞希が気づいたのだ。いつも一緒にいる帆波が気づかないわけがない。


 帆波は慌てた様子で教室の中に入って行く。


 ここで瑞希が教室の中に入り、椿に見つかると色々と面倒なことになる。


 でもここは瑞希の教室だから朝のホームルームが始まる前までには入らなければならない。


 悩ましい問題である。


「おはよう柊さん。どうして教室の前で立ち止まっているのかしら。中に入らないの?」

「おはよう白鳥。いや、中で面倒なことが起こっていてな」

「面倒なこと?」


 瑞希が教室前で立ち止まっていると、それを不審に思ったのか登校して来た撫子が声をかける。


 撫子は舞や椿が言っていたことをタイミング的にも聞いていなかったらしく、瑞希の返しに首を傾げている。


「っていうか、舞って最近柊たちと仲が良いよね。あたしたちよりもそっちの方が良くなっちゃった」

「別にそんなわけじゃないよ。瑞希ちゃんたちと話すことも楽しいし椿ちゃんたちと話すことも楽しいよ」

「別にそんなんじゃないって、実際そうでしょ」

「椿も早織も落ち着いて。別に舞が誰と仲良くなっても良いじゃん。みんなと仲良くなることは良いことだよ」

「帆波には聞いてないでしょ。少し黙っていて」


 クラスのみんなもクラスカースト上位陣が争っていることもあり、誰も仲裁に入る人はいなかった。


 なにが気に食わないのか分からないが、とにかく椿と早織という女子生徒は舞を袋叩きにしている。


 舞も必死に弁解をしているが恐縮しているせいか、声が小さい。


 一応帆波が三人の仲裁に入ってはるが、椿たちはヒートアップしているせいか聞く耳を持たない。


「なにこれ。ここだけ小学校のクラスね」


 教室の外で四人のやり取りを聞いていた撫子は哀れんでいた。

 入ると絶対面倒事に巻き込まれるから嫌なのだが、ここにいても結局は教室に入らなければならないので、仕方なく瑞希は教室に入った。


 その後に続いて撫子も教室の中に入る。


 瑞希たちが教室に入った瞬間、一瞬クラスの時間が止まる。


 これは別に舞と椿が喧嘩をしているからではなく、誰か教室に入ると一瞬だけ誰が教室に入って来たのか気になって、一瞬だけその方向を見る。


 だから一瞬だけ会話が止まり、クラスの時間が止まったように錯覚するのだ。

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