瑞希ちゃん、嘘はダメだよ
「先輩か先生に目を付けられてイライラしていたとか」
「もしかして告白して振られたとか」
「さすがにそれは早すぎるだろ。白鳥も妄想で喋るな」
「だったらなににイライラしてたのかしら。白状しないと金森さんは多分柊さんを解放しないんじゃないかしら」
「解放しません。えっへん」
なぜ舞は偉そうに威張っているのだろうか。
瑞希的にはこんなことで自分の時間を奪われたくはない。
ほとんどの人間は忘れているのかもしれないが、人間の人生は有限だ。
人間いずれ必ず死ぬ。
だからこそ、こんなところで時間を浪費している場合ではない。
でもファストフードを全て食べ終えたからって、舞が大人しく瑞希を解放してくれる可能性はゼロである。
「分かったよ。話せば良いんだろ」
だからここは瑞希が折れることにする。
こんなところで時間を浪費させるなら、さっさと話して解放される方が有意義である。
その後、瑞希は昼休みに起こった顛末を話した。
ここで意外だったのは舞も撫子も瑞希のこととを一度も茶化すことなく真剣に聞いていたことだった。
「それは柊さんじゃなくてもイライラするわね。私だったらもっと激しい喧嘩になっていたかもしれないわ」
瑞希の話を聞き終えた撫子はまるで自分のことのように怒りを滲ませる。
「えっ、全然あたしの話しじゃん。瑞希ちゃん、嘘はダメだよ」
話を聞き終えた舞は、予想通りというか瑞希が嘘を言ったことに憤慨していた。
憤慨と言っても可愛らしく頬を膨らませているだけなのだが。
「だからあまり話したくなかったんだよ」
舞がそんな反応をすると予想していたから、瑞希は舞たちに話したくはなかったのだ。
舞と椿はいつも一緒にいるほど仲が良い。つまり、友達だ。
だから椿の友達である舞には、こんな椿の悪口みたいな愚痴を言いたくなかったのである。
誰だって友達の悪口なんて聞きたくはないだろう。
「反省ね。確かにこれは金森さんにはあまり聞かせたくない内容だったわね。だから柊さんは言いたくなかったのね」
撫子も興味本位で聞いたことを反省しているらしく、声のテンションが低い。
瑞希の言いたかったことが撫子に伝わったのは良かったのだが、できればもう少し早く気づいてほしかった。
「どうして椿ちゃんはそんなことを言うんだろう。あたしは椿ちゃんとも瑞希ちゃんとも仲良くしたいのに。……もちろん撫子ちゃんもだよ。あたしにとってどっちも大切な友達だもん」
舞は瑞希と椿、二人の友達ゆえにどちらの味方にもなれずもどかしい表情をしている。
「そういうことだ。だから今後一切金森は私に話しかけるな」
「嫌だよ。だってあたしは瑞希ちゃんと友達だもん。そんなことしたくないよ」
これ以上面倒くさい椿に絡まれたくなかった瑞希は冷たく舞を拒絶する。
舞は瑞希と距離を置くのが嫌らしく、強い声で瑞希の言葉を拒絶する。
「金森がいなくならないと私のストレスが増えるんだが」
「そういう言い方はないんじゃないのかしら。確かに一色さんは少し独占欲が強い男の娘のような気もするけどそれを金森さんに八つ当たりするのは間違っていると思うわ」
これ以上舞と関わると椿のせいでストレスが増えると思った瑞希は、舞に絶縁を宣言する。
舞からなにかしら反論されると思っていたのだが、すぐに反論をしてきたのが舞ではなく撫子だったということに瑞希は驚いた。
だから女という生物は嫌なのである。
女は男よりも結束力が強い。
もし男が女をイジメたら周りにいる女がその女を庇い始める。
だから女は厄介だし面倒な生き物である。
「やっぱり白鳥は女サイドに付くんだな」
「?なにを言っているのか分からないけど、私は一色さんの件で金森さんに八つ当たりをしているのは間違っていると言っただけよ」
売り言葉に買い言葉。
瑞希と撫子の言い争いはどんどんヒートアップしていく。
「ストップ、ストッープ。二人とも喧嘩しない」
瑞希がイライラしている理由を聞くはずがなぜか喧嘩を始めた瑞希と撫子を必死に制止させようとする舞。
二人も舞に制止され、冷静を取り戻したのかバツの悪い表情を浮かべながら黙り込む。
「それよりもごめんね瑞希ちゃん。椿ちゃんが瑞希ちゃんに喧嘩を売るようなことを言って」
「別に金森が謝ることじゃないだろ」
舞はまず、友達の椿が瑞希に喧嘩を売ったことを謝罪する。
なぜ椿ではなく、その友達の舞が謝罪するのか瑞希の価値観では分からなかった。
「だってあたしと椿ちゃんは友達だから。それに瑞希ちゃんも友達だから。あたし、なんで椿ちゃんが瑞希ちゃんにそんなこと言ったのか明日聞いてみる」
どうしてそんな話になったのだろうか。
別に瑞希は理由を聞きたいわけではない。もちろん、椿からの謝罪もいらない。
ただ、瑞希は椿に絡まれてストレスを抱えたくなかったから、舞が瑞希に話をかけなくなればそれだけで良かったのだ。
その後、この話は舞の中では完結したのか、この後の会話は他愛もない会話ばかりとなってしまった。
瑞希は何度も訂正しようと声を上げようと頑張ったがタイミングが合わず、全部かき消されてしまった。
撫子も会話に参加していたのだが、コミュ障なのか瑞希も撫子も舞のテンションについていくことができなかった。
周りから見れば高校生三人組の男女グループだ。
さぞ、青春してるなーと思われているに違いない。
だが、違う。
周りが思っているほど、そんな華やかなものではない。
これはただの日常である。
高校生が学校の帰りにワックに寄って駄弁るだけのなんの変哲もない日常。
だから瑞希は、この日常を青春という安っぽい言葉で表現されたくはなかった。
だって瑞希の人生はそんな安っぽい、ありふれたものではなく、確かにここにあり、唯一無二のものなのだから。




