これは運命だね
次の日。
瑞希の心は晴れやかだった。
高校生活で一番憂鬱だった問題、部活動をどうするかを無事解決できたからだ。
瑞希にとって部活動は無意味である。
好きでも興味もないことに高校生という貴重な時間を費やし、煩わしい人間関係に悩むのは人生で一番のストレスである。
それを自分で言ってなんだが、わけの分からないサポート部を創立し、入部する。
活動内容は尚美に提示したが、実質活動なんてないようなものだ。
今日から部活動のない、平和な日常を過ごすことができる。
瑞希はポーカーフェイスを浮かべながら、心を躍らせていた。
「おはよう柊さん」
「おはよう白鳥」
昇降口で上靴に履き替えていると、撫子があいさつをしてきた。
もちろん、無視をするという愚行はしない。
あいさつを返す行為は学生でも社会人でも基本中の基本だ。
「「……」」
あさいつは良いのだ。
でもこれ以上会話が続かない。
瑞希もそうだが、撫子も人とあまり話をしないタイプの人間だ。
それに瑞希も撫子も部活をやりたくない理由は自分の時間を取られるのと、煩わしい人間関係が面倒だからだ。
つまり、お互い利害が一致していたから今まで話していたが、それが終わるともう話す理由なんてない。
まさに知り合い以上友達未満の関係だ。
「どうしたの柊さん。そんなに私を見つめて」
「悪い。ぼぉーとしてた」
「そう。もしかして熱でもあるのかしら。体調が悪いなら早退をすることをオススメするわ。無理をしてもなにも良いことはないもの」
一人で考え込んでいたせいで気づかなかったが、無意識に撫子の方見ていたらしい。
撫子は不思議そうに瑞希に尋ね、考え込んでいることを誤魔化すために違う理由を言ったら、逆に心配されてしまった。
撫子は他人に興味がない印象だったが、普通に人の心配はするらしい。
そういうところは優しい女の子である。
「まさか白鳥に心配されるとは思ってなくて」
「そんなに驚くことかしら。もし体調が悪いなら保健室に連れて行くけど」
「心配は嬉しいが体調は大丈夫だ。それよりもここで立ち話をしていると他の生徒の邪魔になるから移動するか」
「っ、そうね。柊さんの言う通りだわ。こんなところで立ち話をしてたら他の生徒の邪魔になるわね」
ここは朝の昇降口。
つまり、次々と生徒が登校してくる。
広いとは言えない昇降口でただ駄弁っている生徒がいたら、登校して来た生徒からすると邪魔者以外の何者でもない。
撫子もそれに気づいたようで、恥ずかしそうに顔をほんのり赤らめさせる。
いつもクールな撫子にしては珍しい表情だった。
「あっ、瑞希ちゃん、撫子ちゃん。おはよー」
「おはよう金森」
「おはよう金森さん」
そこにタイミングが良いのか分からないが、登校してきた舞と遭遇する。
舞は手際よく上履きに履き替えると、自然と二人に溶け込んだ。
「二人は一緒に登校してきたの」
「いや、たまたま昇降口で会っただけだ」
「そうなんだ。それじゃーあたしもたまたまだからこれは運命だね」
「「……う、うんめい?」」
見た目と昨日少し話した印象から、もしかしたらそうなのかもしれないと思っていたが、舞は結構ロマンチックらしい。
「あれ、なんで二人とも引いてるのっ」
ロマンチストな舞も人の機微には敏感らしい。
引くのは心外だと言うかのように声を少し荒げる。
「日常会話で『運命』なんていう人、初めて見たわ」
「白鳥に同感だ」
「えっ、そうなの?あ、あたしっておかしい」
「別におかしくはないけど、初めて日常会話で聞いたから少し驚いただけよ」
「そうだな。別におかしくはないと思うよ。日常的に運命って言う人もいるだろうし」
二人に否定されたと勘違いされた舞は、まるで捨てられた子犬のような顔で聞いてくる。
「そっか……良かった……」
撫子も瑞希も舞のことをおかしいとは思わない。
もしおかしい人がいるならそれは亜美である。
あの姉は一回脳神経外科で頭の中を見てもらった方が良い。
あれはブラコンを通り越して病気である。
二人に肯定された舞は、本当に安堵な表情を浮かべる。
そんなに安心することだろうかと瑞希は心の中で首を傾げた。
「なぁ、白鳥。今少し気になったところがあるんだが、聞いても良いか」
廊下を三人で横に広がって歩きながら瑞希は撫子に話しかける。
「それは内容にもよるけど、よほど変な質問でなければ良いわ」
言った後気づいたが、確かにこんな言い方をされれば警戒もするし、不審そうな表情を浮かべるのも分かる。
瑞希もこんな聞き方をされれば間違いなく身構える。




