待ち受ける闇
一行が公爵家主催の会合の場に到着し、優菜はライル、ゲオルグ、アレクを護衛につけて臨んだ。
会合の場は、優菜の技術の価値を測る貴族たちの視線、魔導院の嫉妬、そして優菜を再び手にしようとする裏切りの騎士団残党の静かな殺気で満ちていた。
そして、会合が始まって間もなく、その殺気が現実のものとなった。
「異界の知識を王家の手に渡すなど、愚の骨頂!」
高位貴族が集うホールのシャンデリアの影から、数名の騎士団残党が姿を現した。彼らは優菜たちのいる空間に向けて、即座に強力な闇魔術を一斉に放つ。闇魔術は、通常の魔法を無効化し、肉体に直接的な衰弱と苦痛を与える、危険な術式だった。
襲撃が始まった瞬間、優雅なホールは地獄に変わった。
高位貴族たちは、自分たちに向けられた闇魔術ではないにもかかわらず、「闇」という禁忌の言葉と、その禍々しい魔力の奔流にパニックを起こした。ドレスをまとい着飾っていた夫人たちは悲鳴を上げ、紳士たちは護衛を呼ぼうと声を荒げるが、会場の扉はすでに封鎖されていた。彼らは皆、優菜の周りで繰り広げられる激しい戦闘から、我先にと逃げようと、ホール後方へ押し合いへし合いする醜態を晒した。
「ユウナ伏せろ!」
ライルが叫び、即座に優菜を背中に庇った。ゲオルグとアレクは、優菜の護衛隊形を瞬時に組み、前に躍り出る。
アレクは青白い防御魔法を展開し、最初の一撃を受け止めたが、闇魔力の衝撃は防御壁を激しく揺さぶる。
「くそっ、キリがない!」
ゲオルグが叫ぶ。彼は剣を構え、アレクの防御魔法のわずかな隙間から、風を纏った魔法剣を繰り出し、残党の一人を牽制した。しかし、敵の狙いは優菜ただ一人。後続の闇魔術が、アレクの防御壁の周囲を回り込み、ライルたちめがけて殺到する。
ライルは優菜を抱きかかえたまま、騎士の剣で闇の奔流を弾き返そうとするが、彼の鎧はすでに戦いの疲労で軋んでいた。度重なる激戦と、リリアの離脱による心身の疲労が、彼らの動きを鈍らせている。
「このままではユウナに当たる!」アレクも焦りの表情を浮かべた。防御壁の強度が限界に近づき、闇魔力の禍々しい光が優菜の白い頬を照らし始める。
優菜の目の前で、ライルたちが追い詰められていく。優菜は、この世界に来てからずっと、誰かに守られてきた。彼女は今、ロンドの街を守ると誓ったライルたちを、この手で守りたいと強く願った。
優菜の胸の奥深くで、何かが弾けた。




