王都の手がかりと、優菜の決意
お楽しみ頂けていますでしょうか?
いつも、応援ありがとうございます。
また、新しくブックマークや評価、リアクションなどくださった方も、ありがとうございます。
引き続き、お楽しみいただけると幸いです。
ライルたち『灰色の牙』を乗せた馬車は、数日かけてようやく王都へと到着した。煌びやかな王都の光景は、戦禍に苦しむ外の街とはまるで別世界だ。彼らはまず、案内役のリリアと共に、依頼主である王立魔導院の役所を訪れた。
役所の高官は、ライルたちの到着を歓迎しつつも、今回の任務の重さを改めて伝えた。
「君たちの任務は、残された魔王の残滓――すなわち、魔力の揺らぎから、魔王の残党が次に王国のどの拠点を狙うかを正確に予測し、その進軍ルートを特定することだ。もしそれが、過去の大規模な侵攻の動向と一致すれば、王国は直ちに国境線を総動員し、全面的な防衛戦争の準備に入ることになる」
依頼の目的は、単なる魔物の討伐ではない。国の命運を握る、情報収集だった。
リリアは早速、魔導院の古い文献や過去の調査報告書を読み漁り始めた。彼女が注目したのは、古代の文献に時折登場する、「異界の知識」に関する記述だった。それは、かつて世界の外から持ち込まれた、魔力とは異なる原理に基づく技術であり、魔王が最も恐れ、消し去ろうとしたとされるものだ。
「ライル、これを見て。この文献には、『世界の外から来た者』が、魔王軍の『移動パターン』を予測し、その進路を妨害したという記録が残ってるわ。彼らの知識は、魔導院のどの理論とも違う……まるで、未来を読むかのように正確だったと」
リリアは、優菜のお守りに刻まれた「失われた言語」と、この文献に書かれた「異界の知識」が、無関係ではないことを直感していた。
「ユウナは、一体なにものなんだ?」
アレクは驚愕した。
「ユウナの技術が、この『異界の知識』だとしたら、彼女はとてつもない可能性を持っているわ。その知識は、魔王の残滓を追う私たちにとっても、最大の武器になるかもしれない」
ライルは、優菜の秘密という個人的な領域に踏み込むことに深い戸惑いを覚えた。しかし、この国の一大事である依頼を成功させ、王国の信用を得ることができれば、街に戻ったときに、優菜と子どもたちを狙う『商会ギルド連合』の圧力から、王国の権威を使って守り抜くことができる。
彼は、その家族の未来のため、優菜の過去を一時的に利用するという痛みを伴う決断を下した。
「ユウナの力を隠して怯えるのではなく、王国の力で守り抜く。この依頼を達成し、後ろ盾を得る。ゲオルグ、街の動向を調べてくれ」
同じ頃、遠く離れたロンドの街では、優菜が台所で夜を徹して実験を続けていた。首元の銀のペンダントが、彼女の脳内の古代知識と現代の記憶をまるで超高速の計算機のように統合し、直ちに解答を引き出したおかげで、優菜は理想の長期保存食の製法を頭の中で完成させた。しかし、それを現実にするための特殊な素材が、決定的に不足していた。
特に、長期保存食の風味と栄養価を保つための、非常に稀少な特殊な鉱物が必要だった。それは、この世界の錬金術では製造不可能とされており、市場に流通しているものより、はるかに高純度でなければ意味をなさなかった。
「なんとか、代替品を……」
優菜は、台所の隅に置かれた、家で長年使われていた、持ち手の焦げた古いフライパンに目をやった。それは、何度も過酷な環境に晒され、表面が剥げ、焦げ跡だらけの金属製品だった。
優菜はペンダントに触れ、目を閉じた。すると、彼女の現代の記憶と、ペンダントから得た古代の知識が、頭の中で一つの光となって結びついた。次の瞬間、優菜の脳裏に、その古いフライパンの金属の組成図が鮮明に浮かび上がる。そのフライパンには、彼女が求める『特殊な鉱物』の代わりとなる、極めて貴重な成分が、微量だが確かに含まれていたのだ。
(これだわ。私が求めているのは大量の素材じゃない。この特殊な保存食を完成させるための、たった一度の「起動剤」としてなら、この鍋の微量な成分で足りる!)
優菜は、子どもたちには見つからないよう、夜の間に裏庭で火を熾した。彼女の技術は、もはやパン作りではなく、古代と現代の技術を融合させた、錬金術に近い領域に達していた。
翌朝、彼女の手元には、指先に乗るほどの高純度の新しい素材が確保されていた。これで、彼女が『商会ギルド連合』の流通網を崩壊させるために設計した、最終兵器とも言える保存食の開発が、本格的に始動する。
優菜は、ペンダントを握りしめ、自分に言い聞かせた。
「ライルさん、もう少しだけ待っていて。私も、あなたたちの帰還のために、この街を守り抜くわ」




