長女のチートスキル
優菜は、ボロボロの台所に向かった。一歩足を踏み入れた瞬間、脳内で冷徹な分析が始まった。
【完全献立作成】発動。
リソース: 僅かな干し草、腐りかけの根菜2本、貯水槽に半分ほどの水。
目標: 孤児6人とティナを飢えさせない。
結論: 食糧はゼロ。すぐに物資を調達すること。
(これは……チートスキルがあっても、詰んでるレベルじゃない!)
優菜は、まずはこの場にある食べられるものをかき集める必要があると判断した。
「ティナさん、裏庭や建物の周りに、食べられる野草やハーブはありませんか?」
「野草……?あそこに雑草は生えていますが、毒があるものも多くて……」
「大丈夫です。私、食費を浮かせるために、独学で野草や漢方について調べていたんです。毒のあるものと、食べられるものは大体わかります」
優菜は孤児院の裏庭へ向かい、「高速家事」を応用した【高速野草選定】を発動した。
ズサササッ!
彼女の目は、薬草学の知識と献立作成スキルによって、一瞬で毒草と食用草を見分ける。優菜の手は残像を残しながら動き、栄養価が高く、調理することで苦味が消える『ネトル(イラクサ)』に似た葉っぱ、免疫力を高める『タンポポの根』に似た野草、そしてスープの出汁に使える香りの良いハーブ類を、根っこごと完璧に選定し、収穫していった。
わずか三分で、優菜は両手いっぱいの天然食材を抱えて台所に戻った。
「ティナさん、すぐに温かいスープを作ります!少し休んでいてください。ここは私に任せて!」
優菜は立ち上がった。体に電流が走ったかのように、彼女の動きが常人の七倍速になった。
ドォン、ドォン、ザッ、ザッ、カン!
腐りかけた根菜は、傷んだ部分だけを正確に削ぎ落とされ、すぐに水に浸された。
収穫した野草は、【高速家事】で一瞬で下処理され、アクや土が完璧に洗い流された。
台所のカマドは、優菜の手で火の通りが良くなるように調整され、燃焼効率が最大化された。
ティナの目には、優菜が残像を残しながら動いているように見えた。その動きは速いだけでなく、一切の無駄がなく、流れるようだった。
「あ、あの、優菜さん……今の動き、いったいどうなってるの?」
ティナは絶句した。
「ああ、これ?ちょっと疲れが溜まると、体が勝手に効率的な動きになっちゃう癖で」
優菜は涼しい顔で答えた。
わずか十分後。台所は生まれ変わったようにピカピカになり、干し草、根菜、そして野草だけを使った、栄養満点かつ滋味深い野草の滋養スープが完成していた。
「さあ、皆さん。熱いうちにどうぞ」
久しぶりの温かい食事に、孤児たちはむさぼりついた。優菜は、前世で弟妹たちを見守っていた時と同じように、満足げな彼らの姿を優しく見つめていた。そして、皿が空になるのを確認すると、すぐに後片付けに取り掛かった。