二人の距離と小さな祝杯
みなさまへ
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10/9(11~12時) 180位 [日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕 - すべて
で、ラインキング入りいたしました。
初めての作品で、このように応援していただけるとは思っておらず、いつも嬉しく思っています。
本日も、お楽しみいただけたら幸いです。
優菜が作った白いシチューと焼きたてのパンは、夜遅くにもかかわらず、『灰色の牙』の拠点に届けられた。
「ユウナ、わざわざありがとう!匂いだけで生き返るようだ!」
ライルは目を輝かせた。
「お帰りなさい、ライルさん。皆さん、お疲れでしょうから、温かいものをどうぞ。このシチューは、少し変わった料理ですが、体を芯から温めてくれます」
優菜が運んできた白いシチューは、この世界のどの料理とも異なり、ミルクとバターの豊かな香りが立ち込めていた。長時間の依頼で疲弊していた『灰色の牙』のメンバーは、その優しくも濃厚な味わいに心底感動し、あっという間に鍋を空にした。紅一点のリリアは、特にシチューの滑らかさに驚いていた。
食後、他のメンバーが体を休める中、優菜はライルに呼ばれ、窓際のソファーに腰掛けた。街灯の柔らかな光が二人を照らしていた。
「本当にありがとう、ユウナ。君の料理は、ただ美味しいだけじゃない。体も心も満たしてくれる。明日も頑張ろうって思わせてくれる」
ライルは、心からの感謝を込めて言った。
「そう言っていただけると、嬉しいです。でも、無理はしないでくださいね。皆さんが無事に帰ってきてくれて、私も安心しました」
ライルは優菜の隣で少し黙り込んだ後、静かに優菜に尋ねた。
「ユウナ、君は本当に、凄いよな。俺よりずっと年下なのに、あの七人の面倒を見て、たった数ヶ月で、七人全員が暮らせる確かな生活を築いて...。一体、どこでそんな知識と技術を身につけたんだ?」
優菜は、この質問をいつも避けてきた。しかし、目の前のライルの真っ直ぐな瞳は、ごまかしを許さないように感じた。
「...子供たちを守るために、必死で覚えました。ただ、私の持っている技術は、この世界にはないものが多いんです。だから、時々、怖い気持ちになることもあります」
優菜は、事実の一部をぼかしつつ、胸の内を絞り出すように伝えた。
ライルは驚いた様子もなく、優菜の言葉を静かに受け止めた。
「そうか。そうだったんだな。ユウナが、不思議な力をもっていることには、薄々気づいていたよ。でも、それがどこから来たものだろうと、君がその力で子供たちを守り、俺たちを助けてくれていることには変わりない」
ライルの理解と肯定の言葉は、優菜の胸に深く染み渡った。
「...ありがとうございます。ライルさんにそう言ってもらえると、少し、肩の荷が降ります」
優菜は、ライルにだけは、心に抱えていた重荷を少しだけ手放せる気がした。
ライルは空を見上げ、続けた。
「ユウナ。君がこの街にいるおかげで、俺は冒険者としてもっと頑張れる。君の作る料理を、もっと多くの仲間に届けたいし、何より、君と子供たちが安心して笑っていられる場所を、俺が守り抜きたい」
ライルの心からの誓いと、優菜を見つめる真摯な眼差しは、優菜の心に響く。優菜は彼の存在が、自分の心を照らす希望の一つになっていることを自覚した。
二人の間に流れる静かな時間は、互いの胸に温かい感情を育んでいた。優菜は、ライルの隣で初めて、異世界に来てからの数ヶ月で得た最大の宝物は、家族と、心から頼れる隣人の存在なのだと悟った。




