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【高速家事スキル】を隠す少女は、食料難の孤児院を最強の料理で救う  作者: 紫陽花


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才能の開花

 ライルたち『灰色の牙』のメンバーを見送った後、優菜と子供たちの新しい生活は本格的に動き出した。家が市場から近くなったことで、朝の準備時間は大幅に短縮され、体力的な負担も軽減された。何よりも、隣に冒険者パーティという「盾」ができたことで、優菜は以前より安心して子供たちの活動を見守ることができた。





 新しい家での生活で最も変化したのは、優菜が「秘密の作業場」と名付けた広々としたキッチンだった。


「ルーク、このスペースなら、一度に倍の量が作れるわね」


 優菜は、ルークと共に作業場の配置を工夫した。優菜の【家事スキル】で強化された調理台は熱効率が良く、防臭対策も万全だったため、彼らは時間を気にせず、そして誰にも気づかれることなく作業に集中できた。


 ルークは、自分の保存食の工程を優菜に教わりながら、生産規模の拡大に試行錯誤していた。彼は、材料の仕入れから加工、乾燥、包装に至るまでを効率化する独自のシステムを考え出した。


「優菜姉ちゃん、この保存食は、乾燥させる温度を少し高くして、スパイスを二段階に分けて揉み込むと、味が馴染むのが早くなるよ」


 優菜はルークの閃きに驚いた。


 一方、ティナは家の裏庭に小さなスペースを見つけ、ゲオルグから教わったハーブの栽培と加工に着手した。彼女は市場では手に入りにくい稀少なハーブの種を優菜に頼んで仕入れ、毎日熱心に世話をした。


 ティナは、物心ついた頃から弟妹たちの世話をしてきた経験から、ハーブや薬草に対する知識の吸収が恐ろしく早かった。優菜よりも年上で、家族の世話を一手に引き受けてきたティナだが、優菜の持つ異世界の知識と、それを惜しみなく与えてくれる優しさに全幅の信頼を寄せていた。優菜は、ティナが自分の得意な分野を見つけ、それに没頭し真摯に向き合う姿を見て、彼女のためにできることはなんでも協力しようと改めて決意を固めた。


 優菜は前世では、すべて一人でやらなければ、という重い気負いを胸に抱えていた。家族はいつの間にか、優菜が家事をやるのが当たり前のようになっており、優菜一人に重い責任がのしかかり、心身ともに疲れていた。優菜の心には、誰にも頼ることなく「自分が頑張れば、すべてうまくいく」と信じて突き進む、孤独な使命感が根付いていた。


 しかし、この異世界での生活は違った。


 ルークは誰に言われるでもなく、優菜の負担を減らすために市場での販売戦略や保存食の改良に集中し、ティナは薬草の知識を深めることで将来的に家族の健康を担おうと努めていた。幼いマヤとミリーでさえ、優菜が作業場にいるときは静かに遊び、優菜を応援するようになった。


(私は、一人じゃないんだ)


 作業場の熱気の中で、優菜はふと、自分が前世で抱えていた孤独な気負いが、徐々に溶け始めているのを感じていた。子供たちは彼女の指示を待つのではなく、自ら考え、各々が家族を支えていた。その強い団結力は、優菜自身も自覚していない【対人交渉ブラザー・マネジメント】の恩恵でもあったが、何よりも子供たちの優しさと自立心によるものだった。


 この安堵感が、優菜の創造性をさらに開花させた。




 ライルたちが不在の間も、優菜たちは市場での販売を続けた。ルークのスタミナ保存食は冒険者ギルドで相変わらずの人気だったが、優菜はパンの販売に大きな変化を加えた。


 優菜は、作業場の効率が向上したのを機に、一気にパンの種類を増やした。


「今日は、もっと色々な人に、私たちのパンを届けるわ」


 市場の露店に並んだのは、バターの香りが豊かなデニッシュ、具材が豪快なコロッケサンドイッチ、そしてボリューム満点のハンバーグサンドイッチなど、数種類の新しいパンだった。


 デニッシュは、その美しい見た目と高級感から、富裕層や街の女性たちから瞬く間に人気を博した。一方、コロッケサンドイッチとハンバーグサンドイッチは、手軽に腹を満たせるボリューム感から、冒険者や日雇い労働者たちの間で定番商品となった。


 優菜のパンはすでに「黄金のパン」として知られていたが、多角的な商品展開は、「貧民街の子供たちが売るパン」という枠を完全に超え、「街の食文化を牽引する至高の品」としての地位を確立し始めた。


 市場の商人たちは、優菜たちの商売の規模が大きくなっていることを黙って見過ごせなくなっていた。


「あの子供たち、儲けすぎだ。一体どこから、そんな技術と材料を手に入れているんだ…」


 新しい家が『灰色の牙』の隣にあることで、彼らは手荒な真似はできなかったが、優菜たちの動向を探る視線は、以前にも増して冷たく、そして鋭くなっていた。


 優菜は、冷たい視線を感じながらも、動じなかった。彼女の胸には、この新しい家で育まれる子供たちの才能と、彼らとの強い絆こそが、どんな困難にも揺るがない、この世界で生き抜くための確かな礎となっているという、揺るぎない確信があった。

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