引っ越し祝いは灰色の牙と共に
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優菜によって、新しく生まれ変わった家に到着した子供たちは、前の家よりも格段に広い室内に目を輝かせた。特に、優菜が「秘密基地」と呼んだ石の地下室(緊急シェルター)に、子供たちはワクワクした。
優菜が持つスキル【対人交渉ブラザー・マネジメント】の影響もあり、子供たちの間には以前にも増して強い団結力があった。優菜の言葉には、自然とルークやティナの最も効率的な行動を引き出し、子供たちの関係を円滑にする力が宿っており、新しい家への適応もスムーズだった。
引っ越しの翌朝、優菜は朝食用のパンと一緒に、ルークが改良したばかりのスタミナ保存食を包んだ。隣人への挨拶と、この家を紹介してくれたライルへのお礼のためだ。
優菜が新しい隣家、灰色の牙の拠点である石造りの家を訪ねると、ライルが扉を開けた。
「ユウナ、おはよう!もう引っ越しは落ち着いたかい?」
「ライルさん、おはようございます。引っ越しは無事に終わりました。これからも、お隣さんとして、よろしくお願いします」
そう言って、優菜はライルに包みを渡した。
「これは...パンとスタミナ保存食だね。ありがとう、うちのメンバーも喜ぶよ」
ライルが包みを受け取った後、優菜は少し緊張しながら切り出した。
「あの、一度、私たちの家族を紹介させてください。よろしければ今夜、私たちの家で夕食をごちそうさせて頂けませんか?」
ライルは目を丸くした後、嬉しそうに破顔した。
「ユウナの手料理か!それは光栄だ。ルークからいつもユウナの料理が美味しいと自慢されていたからね。うちのパーティのメンバーにも話しておくよ」
その日の夜、ライルたち『灰色の牙』のメンバーは、手土産としてこの街では手に入りにくい香辛料を持って、優菜の家を訪れた。
「お招きありがとう。これはこの前の依頼で手に入れた香辛料だ、気に入ってくれるといいんだが。この二人は、俺たちのパーティ『灰色の牙』のメンバーだ。俺がリーダーのライル。そして、こっちがアレンと、紅一点のリリアだ。よろしくな」
優菜も、『灰色の牙』のメンバーに家族を紹介した。
「えっとティナとルークは顔見知りなんだよね。えっと、上から、エマ、ロディ、コリン、マヤ、ミリーです。」
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
子供たちの元気な挨拶にみんな笑顔になった。
ライルは子供たち一人ひとりの頭を優しく撫で、
「よろしくな」
と挨拶を言った。
子供たちと冒険者たちの間で和やかな挨拶が交わされた後、食卓は料理で埋め尽くされた。
優菜は、腕によりをかけて食事を用意した。テーブルには、肉汁溢れるハンバーグ、香ばしいからあげ、新鮮な野菜を使ったサラダ、温かいスープ、そして焼きたてのパンが並んだ。
『灰色の牙』のメンバーは、並んだ料理の豪華さと美味しさに驚き、次々と皿を空にしていった。食後のデザートとして出した、色とりどりのジャムを使ったジャムクッキーは、パーティにいる女性メンバーのリリアから好評だった。子供たちはライルたちの豪快な笑い声と武勇伝に目を輝かせ、家の中は温かい笑い声で満たされた。
食事が一段落した頃、ライルが優菜に向かって申し訳なさそうな顔で言った。
「ユウナ、本当にごちそうさま。初めて食べる料理ばかりで、どれもとても美味しかったよ。ただ、一つだけ申し訳ないことがある」
「なんでしょうか?」
「実は、俺たちは明日から数日、街を離れる依頼が入ってしまった。引っ越してきたばかりで、君たちを見守ってあげたかったんだが...。本当に、留守にして申し訳ない」
ライルは、優菜たちの安全を心から案じていることを言葉にした。
「いえ、そこまで気を使っていただいて申し訳ないです」
「気にするな。君たちを狙う連中は、俺たちの敵でもあるからな」
ライルはそう言って冗談めかしたが、すぐに真剣な表情に戻った。
「俺たちがいない間、変な動きがあったら、すぐにゲオルグさんの店へ逃げるか、この家から絶対に出ないようにしてくれ」
優菜はライルの優しさ、そして心からの気遣いに胸を打たれた。
「ライルさん...ありがとうございます。気をつけて行ってきてください」
ライルは頷き、他のメンバーと共に優菜の家を出ようとしたが、扉の前で優菜の横に立ち止まった。
「本当にご馳走様。楽しかったよ」
ライルはそう言って、優菜の頭に優しく触れ、ポンと一度叩いた。
そして、優菜の目を見て、少し照れたように笑った。
「...美味しかったよ。毎日ユウナのご飯が食べたいぐらいだよ。気をつけて行ってくる」
優菜の顔が一気に熱を持つのを感じた。ライルの言葉と、その真っ直ぐな視線と温かい手は、優菜の胸に温かい火を灯した。優菜は、この心優しい青年に対して、冒険者としての尊敬だけでなく、特別な感情を抱き始めていることを自覚した。
翌朝、ライルたち『灰色の牙』のメンバーを見送った優菜は、子供たちと朝食を済ませた後、昨日完成させた秘密の作業場へと向かった。
作業場は優菜の理想通りだった。換気システムのおかげで匂いは一切漏れず、広々とした調理台は、大量のパンと保存食を効率的に生産することを可能にする。
「ティナ、ルーク。ここから、また頑張ろうね」
ルークは作業台に広がる肉の塊とスパイスを見て、目を輝かせた。彼もまた、優菜から教わった知識を応用し、スタミナ保存食の生産規模拡大に挑戦する意欲に満ちていた。ティナもゲオルグから教わった薬草の知識を早速試すべく、真剣な顔でハーブの選別に取り掛かった。
優菜の【家事スキル】と、それに導かれた子供たちの集中力と才能が、新しい秘密の拠点で本格的に稼働し始めたのだった。