地獄の孤児院と、最強の家事スキル
強烈な光が収束し、優菜の視界が戻る。最初に感じたのは、埃とカビの混じった、強烈な生活臭だった。
目を開けると、そこは土壁の粗末な家屋。薄暗い室内に差し込むわずかな光が、床に積もった土埃を照らしている。そして、優菜の周りには、痩せこけた小さな子どもたちが六人、ボロ布のような服を着て座っていた。
彼らの瞳は飢えと諦めに曇り、優菜を見つめる眼差しには、前世の弟妹たちと同じ「何かを頼る」色が浮かんでいた。
「お腹すいたよ……」
一番幼い、三歳の女の子が震える声で言った。その光景と、その言葉を聞いた瞬間、優菜の頭の中に警報が鳴り響く。
(嘘でしょ。ここ、本当に異世界?しかも、明らかに飢えてる!)
優菜は絶望的な気持ちで周囲を見渡した。この粗末な建物と、この惨状。そして自分を見つめる六つの小さな瞳。
(まさか、この子たちも……私が世話をすることになるの?)
逃げ出したかった。やっと長女という役割から解放されたと思ったのに、まるで神様の悪戯のように、また同じ状況に突き落とされた。
ここは、先代の院長が亡くなり、あとは衰退を待つだけの辺境の集落の共同生活施設だった。
「目が覚めたのね!よかった!」
唯一、十代後半とおぼしき女性が駆け寄ってきた。彼女は、砂色の髪を一つにまとめ、緑色の瞳をしていた。 彼女は疲れているのか、目元には濃いクマができている。
「あの、貴方は?」優菜は尋ねた。
「私はティナ。この施設で、この子たちの世話をしています。貴方は森の中で倒れていたところを、私が運び込んだんです。お加減はいかがですか?」
ティナは優しげだが、その声は疲れきっていた。優菜は自分の名前を名乗った。
「私は、優菜です。ティナさん、助けてくれて、ありがとうございます。」
ティナは申し訳なさそうな顔で俯いた。
「いいえ。本当はもっとゆっくり休んでいただきたいのですが……ご覧の通り、おもてなしできる状況でなくて、本当にごめんなさい」
優菜は、ティナの疲労困憊の顔と、飢えた子供たちの瞳を見て、前世での自分の経験が警鐘を鳴らすのを感じた。
「いえ、助けてもらったのは私の方です。……あの、私にできることがあれば、手伝わせてもらえませんか?」
ティナは驚いたように顔を上げた。
「で、でも、優菜さんはまだ怪我を……」
「大丈夫です。少しだけ、体を動かした方が楽になる気がします。実は、私、料理や家事が得意なんです。まずは……台所の様子を見てもいいですか?」
優菜は逃げたいはずなのに、体が勝手に動いた。長年染み付いた「長女の習性」だった。
「あ、ありがとうございます!それだけでも、本当に助かります……」