金貨と、新しい服
読者の皆様へ
ep21【オークの肉とマヨネーズ】にて、ティナとルークが銅貨5枚で購入したものを追記いたしました。
ティナ:小さな花の飾りがついた髪飾り(優菜とお揃い)
ルーク:カラフルできれいな花が描かれている絵
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。
優菜は、手のひらに乗せた金貨一枚をしっかりと握りしめた。予想外の大きな収入だ。ライルの誠実さに感謝しつつ、再び市場の奥へ足を向けた。
「さあ、急いで新しい小麦粉を買い直して、それから、他にもちょっと買い足すよ」
まず、優菜は使い物にならなくなってしまった小麦粉を買い直した。次に、今日買うのに悩んだ品々を、金貨の余裕に背中を押されて購入していく。
「お姉さん、こちらの白い塩をください」
優菜は、透明感のある上質な海塩を少量購入した。
「トマトも買いに行こう。いつもと違う美味しいスープも作れるからね」
優菜は、みずみずしい赤色のトマトを籠に多めに購入した。煮込み料理やソースなど、他の用途にも使える貴重な食材だ。
そして、優菜達はゲオルグの店に戻り、高価なシナモンの枝を手に入れた。さらに、今日ゲオルグに見せてもらった香辛料の中で、気になったが高すぎて買うのをあきらめた香辛料の小袋も、一つだけ購入した。これだけあれば、当分の食卓は贅沢になるだろう。
金貨が銀貨と銅貨に姿を変え、優菜の荷物は再び重くなったが、心は満たされていた。
家に戻ると、お留守番をしていたロディ、マヤ、ミリーが、優菜達を出迎えた。
ルークは優菜の籠から赤いトマトを取り上げ、目を輝かせたみんなに見せた。
「見て!お土産だよ!こんなに真っ赤できれいなトマトも買えたんだ!」
コリンとエマはトマトに触ろうと手を伸ばし、ティナやロディも不思議そうに籠の中の白い塩や、シナモンの枝を覗き込む。
ルークはさらに、ポケットから小さな包みを取り出し、マヤとミリーの目の前で広げた。
「家には本がないから、絵を買ったんだ。絵本は高かったら買えなかったけど、これなら小さいミリーでもわかるだろう?」
マヤとミリーは、きれいな色で描かれた花を見て、目を輝かせた。
「ルークお兄ちゃんありがとう!とってもきれいな絵だね。」
みんなが楽しそうにしている姿を見ながら、優菜は笑顔で言った。
「今日の夕食は期待しててね!美味しいご飯作るからね、夕食までにちょっと作りたいものがあるから、部屋に行ってるね」
優菜は、気づかれないようにみんなのすり切れて薄くなった洋服に目を向けた。
(すぐ作ってくるから待っててね)
優菜は一人部屋に入り、戸を閉めた。
優菜は部屋の中で、今日、安価な店で手に入れた、青色、茶色、黄色の布の束を取り出した。そして、すぐに高速家事スキルを起動した。
その速度は、裁縫職人が数日かけて行う作業を、一瞬で完了させるレベルだった。優菜は、布を床に広げ、一瞬で各人のサイズに合わせた型紙を頭の中で構築する。
ザッ、ザッ、ザッ――。
優菜の持つ古いハサミが、驚異的な正確さで布を切り裂く。そして、針と糸が優菜の指先で、まるで生き物のように踊り始めた。糸目が全く見えないほどに細かく、それでいて頑丈な縫い目で、布は見る見るうちに立体的な服へと形を変えていく。
最初に仕上がったのは、優菜自身とティナの青色のワンピースだった。優菜のものは動きやすい膝丈で、ティナのものはロングで裾にフリルがついた可愛らしいデザインだ。
続いて、ルークとコリンには、地味だが汚れが目立ちにくい茶色のシャツと丈夫なズボンが仕上がった。エマには同じく実用的な茶色のシャツと動きやすいスカートだ。
そして、一番幼いマヤとミリーのためには、優菜が前世で見た幼稚園の制服を思い出しながら、特に時間をかけた。薄い黄色の優しい色合いのスモックと、その下に履かせるための青色の半ズボンだ。
優菜は作業を終えると、布の塊を抱えて戸を開け、リビングに戻った。
「みんな、ちょっとこっちに来て」
子どもたちは何事かと優菜のそばに集まった。優菜は抱えていた布を床に広げた。
「じゃーん!みんなの新しい服だよ!」
ルークは目を丸くし、「えっ!いつの間に!?」と声を上げた。
優菜はティナに青色のワンピースを手渡した。
ティナは歓声をあげて、自分に青色のワンピースをあててみた。鮮やかな青色は、ティナによく似合っていた。
「すごい!新しい服だ!破れてない!」
「とっても綺麗!」
ルークとコリンは興奮して飛び跳ね、エマは照れながらスカートの裾を抑えた。優菜は最後に下の子に洋服を手渡した。
「マヤ、ミリー、新しい服だよ」
優菜が二人に薄い黄色のスモックと青色の半ズボンを着せると、その姿はまるで、地球の幼稚園のパンフレットから飛び出してきたかのように愛らしかった。この世界ではあまり見られない、明るい色合いと動きやすいデザインの洋服と二人の可愛らしい姿に、全員がメロメロだった。
「こんなに可愛いと誘拐されるかもしれない」
ティナがボソッと呟いた言葉に、優菜は無言で首を縦に振り同意した。
「また作るから、よかったら明日から着てみてね」
窓から差し込む夕陽が、新調したばかりの服を優しく照らしていた。
いつも応援ありがとうございます。