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有名パーティとの出会い

優菜の目の前には、金色の髪と青い瞳を持つ精悍な青年が立っていた。優菜の顔に付着した小麦粉を拭おうと、彼が差し伸べた手は、優菜の心臓を大きく跳ねさせた。


彼の手は大きく、優菜の小さな顔を覆い隠してしまいそうだったが、その指には幾つもの古傷や、固くなった皮膚が見て取れた。これは、過酷な世界で生き抜き、努力してきた者の手だ。優菜は、その事実に驚きつつも、弟たちの手とは全然違う、大人の男の人の手にドキドキしてしまった。


彼の手が触れそうになったその時、優菜は慌てて一歩下がり、自身の手で顔を覆った。


「だ、大丈夫です。ありがとうございます。すぐに片づけます」


優菜はそう言うと、地面に散らばった白い小麦粉の山と、破れた袋を見下ろした。ライルが怪訝な顔で見つめる中、優菜は高速家事スキルを起動させた。


一瞬の動作で、優菜は抱えていた他の荷物の中から布切れと小さな袋を取り出し、破れた小麦粉袋の中身を素早くかき集めた。次に、自身の服や髪に付いた粉を、まるで魔法のように一瞬で払い落とし、周囲に舞い散っていた粉塵すらも、あっという間に掃き清めた。


その驚異的な手際の良さに、周囲で野次馬として集まっていた人々から、「おお!」というどよめきと小さな歓声があがった。


ライルは目を丸くし、優菜の動きから目が離せなくなっていた。


「……君は、何者だ?」


その驚きは、彼がこれまで見てきた一流冒険者のスピードに匹敵する早さだった。優菜は何もなかったかのように、手の中の小麦粉袋を見てため息をついた。


「ただ家事が得意なだけです。だけどこの小麦粉は、ちょっと…」


青年は使いものにならなくった小麦を見つめた。


「重ねて申し訳ない。私の名はライルだ。アレンは冒険者として、少々行儀がなっていない。この被害は、弁償させてもらう」


ライルは懐から金貨一枚を取り出し、優菜の手に握らせた。その金貨一枚の価値は、ぶちまけてしまった小麦粉の約十倍に相当する、優菜にとっては驚くほどの金額だった。


「これがあれば、新しい小麦粉が買えるだろう。もし足りなければ、遠慮なく言ってくれ」


優菜は驚き、その金貨の重みに手が震えた。


「い、いえ!そんな大金は……!そこまで高価なものではありません。銀貨一枚あれば十分買えます」


「いや、違う」


ライルは優菜の言葉を制した。


「これは小麦粉の代金ではない。君の服を汚し、君の予定を台無しにしたことへの詫びの印だ。受け取ってくれ」


その真摯な態度に、優菜はこれ以上固辞するのは失礼だと感じた。優菜は金貨を受け取り、しっかりと頭を下げた。


「では、ありがたく頂戴します。私は優菜といいます。ライルさん、ありがとうございます」


ルークが優菜の側に立ち、ライルを見上げて言った。


「ねぇ、お兄さんたち、冒険者なの?」


ルークの質問に、ライルは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を穏やかに戻し、頷いた。


「ああ、そうだ。私は冒険者の【灰色の牙】というパーティに所属している」


その名前を聞いた瞬間、ルークが「えっ!」と息を呑んだ。


「【灰色の牙】!まさか、この国でもトップランカーって噂のパーティ!?こんなすごい人たちが、この街にいるなんて!」


ルークの言葉を聞いて初めて、優菜はこのパーティの存在を知った。目の前のライルが、噂の有名人であることに驚きを隠せなかった。彼は胸当ての下に白いシャツを着ているだけだが、その立ち姿からは騎士のような規律正しささえ感じられた。


「そうでしたか。有名な方とは知らず、すみません」


ライルは真剣な顔をしていたが、さきほどまで小麦粉で白くなっていた優菜の姿を思い出して、クスリと笑った。


「ああ、こちらが迷惑をかけたほうだ、気にしないでくれ。君たちは?この辺では見慣れない顔だが」


「私は優菜です。この子たちは私の家族で、市場に食材を仕入れにきたんです」


ライルは、優菜が小さな子どもたちを引き連れているのを見て、一瞬複雑な表情を見せたが、すぐに表情を戻した。


「そうか。今日の騒ぎの件は本当にすまなかった。もし、アレンにまた何か問題があれば、しばらくはこの町にいる予定だから冒険者組合に来てくれれば話を聞く。では、失礼する」


ライルは再び深々と礼をすると、優菜たちが歩いてきた道とは逆の方向へ、颯爽と立ち去っていった。


(ライル……なんて真面目な人なんだろう。有名な冒険者なのに、こんなにも誠意を尽くしてくれるなんて)


優菜は、手のひらに乗せた金貨の重みをじっと感じた。優菜は、この想定外の収入によって、今日の仕入れで手が届かなかった塩や香辛料や、ほかの食材にも手を伸ばせることに気づいた。そして、ライルという精悍な金髪の青年の残像が、優菜の胸の奥で、静かに波紋を広げていた。


「優菜姉ちゃん!よかったね!金貨だよ!」


ルークが目を輝かせて言った。ティナも安堵の息をつく。


「さあ、急いで新しい小麦粉と、他にもいろいろ買えるね!買い足しに行こう」


優菜は笑って応え、再び市場へと足を踏み入れた。



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