ハプニング発生!
優菜が、大量の食材が入った大きな袋を抱えて市場のメインストリートを歩いていた、その時だった。
「おい、どけ!」
荒々しい声と共に、優菜の横を大柄な男が猛スピードで走り抜けた。男は、優菜たちのいる大通りで、何かを盗んだらしい泥棒を追いかけているようだった。
男が優菜のすぐ横を通り過ぎたとき、彼の腕が優菜の抱える一番上のパン用の小麦粉袋に強くぶつかった。
「あっ!」
袋は破れ、白い小麦粉が優菜の全身と、周囲の地面に派手に舞い上がった。
男は優菜に構うことなく、泥棒を追ってすぐに人波の中に消えた。優菜は、顔や髪にも粉をかぶり、呆然とその場に立ち尽くした。ルークとティナが慌てて駆け寄ってくる。
「優菜姉ちゃん!大丈夫!?」
優菜が粉まみれのまま首を横に振ろうとした、ちょうどその時、追跡を終えたらしい別の男性が優菜の前に立ち止まった。
彼は、さきほどの荒っぽい男とは対照的に、黒革の軽い胸当てを身につけた、精悍で落ち着いた雰囲気の青年だった。優菜より頭二つ分は背が高く、引き締まった長身は洗練された印象を与える。短い金色の髪は、陽の光を浴びてキラキラと輝き、獲物を射抜くような鋭い青い瞳と、彫りの深い整った顔立ちが印象的だ。彼は剣を鞘に収め、優菜に深々と頭を下げた。
「すまない、アレンというパーティメンバーが、不注意で君に迷惑をかけた。彼に代わってお詫びする」
彼はそう言うと、静かに優菜の顔に付いた粉を拭おうと、優しく手を差し伸べた。優菜は、突然の接近に心臓が大きく跳ねるのを感じた。