異世界への転生
次に目が覚めた時、優菜は全く見覚えのない、荘厳な大聖堂のような場所に立っていた。
目の前には、全身に黄金のローブを纏い、威圧的な光を放つ人物が立っていた。
「ようこそ、異界からの迷い人よ」
その声は、性別を超越した、深く響く低音だった。
「ここは?」
「そなたは命を落とした。しかし、その魂はまだ強く、ここに導かれた。かの世界でのそなたは、六人の家族のために、その身をすり減らした献身の魂だ」
黄金のローブの人物は、優菜の過去を全て見透かしたように言った。
「その献身と、抑圧された可能性を、私は高く評価する。よって、そなたに第二の人生と、それにふさわしい才能を与える」
「才能……?」
「うむ。そなたの能力は、かの世界で最も地味で、最も過酷だったそなたの役割に由来する」
次の瞬間、優菜の頭の中に、何か異質なデータが流れ込んできた。それは、ステータス画面のような、ゲームのような情報だった。
月島 優菜(14)
【職業】:家政術師
【スキル】
完全献立作成:手持ちの資源とステータスから、最も効率的で満足度の高い献立を導き出す。
高速家事:掃除、洗濯、裁縫、修理などの家事全般を常人の七倍の速度と効率で行う。
対人交渉:多人数を円滑にまとめ、交渉を有利に進める。
献身の極意:自分の疲労と引き換えに、味方全体を強力に支援する。
黄金のローブの人物は、にやりと笑ったように見えた。
「その能力で、そなたはかの世界での報われなかった人生を、今度こそ楽しむが良い」
「いや……あの、なんでまた家事なんですか!?」
優菜は思わず突っ込みたくなった。せっかくの異世界で、チートだというのに、与えられた能力が究極の主婦スキルだったからだ。
「それが、そなたの最強の才能だからだ。そなたの新しい世界は、剣と魔法が支配するが、誰も『生活』を豊かにすることを知らない世界だ」
「生活を……」
「さあ、旅立て、家政術師よ。そなたの日常を、そなたの幸せのために使うが良い」
強烈な光に包まれ、優菜の意識は再び途絶えた。次に目を開けたとき、彼女の目の前には、土壁の粗末な家と、汚れた衣服、そして腹を空かせた孤児たちの姿があった。