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未来への準備

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。引き続きお楽しみ頂けると嬉しいです。

ルークとティナが持ち帰った銀貨と銅貨を、優菜は孤児院の小さな食卓の上に広げた。それは、子どもたちが稼ぎ出した驚くべき富の山だった。


「昨日の分と合わせて、パンの売上が銀貨45枚。干し肉で銅貨8枚ね」


優菜はテキパキと計算していく。


「仕入れと材料費を引いても、一気に孤児院の貯蓄は銀貨30枚近くになったわ!」


子どもたちが歓声を上げる。わずか二日で、飢えの心配から解放されるほどの富を生み出した事実は、何物にも代えがたい喜びだった。


「優菜姉ちゃん!すごいよ!これでもう毎日お腹いっぱい食べられるね!」


とロディが目を輝かせた。


優菜は優しく頷いたが、すぐに表情を引き締めた。


「ええ、そうね。でも、本当に毎日お腹いっぱい食べるためには、もっとパンをたくさん、ずっと焼けるようにしないとダメなの。今の窯じゃ、一度に焼ける数が少なすぎるし、パンが焦げ付くかもしれない。だから、もっと大きくて、たくさんのパンを一度に焼ける窯が必要なのよ。でも...」


優菜は、地球で読んだ本やテレビで見た知識を思い返していた。「貯金は、いざという時の命綱」と学んでいた。


「新しい石窯を建設するには、腕のいい職人に頼み、質の良い石材を大量に仕入れなきゃならない。ざっと見積もっても、今ある貯蓄ではギリギリか、少し足りないくらいなの。もう少し資金に余裕を持たせたい。何かあった時のために、すぐに市場で材料を仕入れられるだけの安全な貯蓄が必要よ。だから、窯の建設はもう少しだけ待って。来週には始められるように、明日も頑張りましょう」


ティナとルークは、優菜の慎重な判断に納得し、頷いた。


「ティナさんには、引き続き貴族街でのパン販売をお願いね。ルークは、昼食の時間に干し肉を売った後、市場で他の露店が何を、どれくらい売っているのか、情報を仕入れてきて」



優菜は翌日の役割分担を指示し終えると、ふと手を止めた。自分の胸に手を当てると、ティナたちの頑張りが伝わってくるようだった。



(私、地球では、家族のために、自分の時間を削って無理ばかりしていたな……。この異世界にまで来て、また誰かのために自分を犠牲にするなんて、もう嫌だ。ここでなら、みんなのことも、自分のことも大切にしていいはずだ)



「みんな、聞いて」


優菜は静かに話し始めた。


「私たち、この二日間で急に新しいことを始めて、すごく頑張ったわ。でも、人間、ずっと走り続けることはできないの」


優菜は一人ひとりの顔を見た。ティナやルークは疲れた表情こそ見せないが、小さなマヤやミリーは、遊びたい盛りの子どもだ。無理をさせては、長くは続かない。


「だから、明後日は、みんなお休みにしましょう」


「お休み?」


コリンが目を丸くした。


「ええ。明日はいつも通りパンと干し肉を売るけど、明後日は全員、完全に仕事を休むの。ロディも、窯の火の番はお休み。エマとコリンも、葉っぱは摘まなくていい。ただ、ゆっくり休んで、遊んで過ごすの」


子どもたちは一瞬戸惑ったが、すぐに歓声を上げた。彼らにとって、飢えの心配がない中で与えられる「休日」は、生まれて初めての経験だった。


「優菜さんは?」


ティナが尋ねた。


「もちろん、私もよ。ただ、私は休みの日に町に出て、必要な買い物や仕入れも済ませてきたいの。ルーク、あなたはもう日雇い労働者が集まる場所を知っているでしょう?町の地理にも詳しいはずだから、私の案内役をしてもらえないかしら?」


ルークはきっぱりと頷いた。


「任せて、優菜姉ちゃん!町のことは何でも知っているよ!」


「ありがとう。休息は、体を休めるだけじゃない。効率よく長く働くための大切な準備なの。私たちには、これから何年も続く、自立への道のりがあるんだから」


優菜の瞳には、地球で学んだ知識を活かし、孤児院を長期的に守り抜くという強い決意が宿っていた。そして彼女はまだ知らなかった。この初の休日が、孤児院の未来の設計図だけでなく、優菜自身の運命をも大きく変える出会いの始まりとなることを――。

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