ルークの初仕事
夜明けと共に、ティナとルークは身支度を整えていた。ルーク(12歳)は興奮と緊張で体が熱い。初めての「お仕事」だ。昨日、優菜がくれた役割は、この孤児院の未来に直結しているのだと理解している。
ティナは昨日より一回り大きな包みをホウシの葉で作り終え、それをルークに手渡した。
「じゃあ、行こうか。ルーク、きんぴら二十個とピクルス二十個。いつもよりずっと重いけど、大丈夫?」
「うん!僕、力持ちだから大丈夫だよ!」
重い荷物を背負い、二人は孤児院を出た。昨日の経験があるティナは、足取りに迷いがない。ルークは、ティナの背中から、昨日までにはなかった強い決意と、孤児院を救うのだという使命感を感じていた。
「ルーク、優菜さんから聞いたと思うけど、あなたには護衛と情報集めをお願いしたいの」
ティナが歩きながら話す。
「今日は、人が多くて活気がある通りをいくつか回るわ。その時、周りの人の話し声や、他のお店が何を売っているか、よく聞いていてほしいの」
ルークは真剣な顔で頷いた。
「うん!ティナ姉ちゃんの『サポート役』だもんね!ぜったい大事な情報、持ってかえるから!」
市場に到着すると、ティナはいつもの場所より少し人通りの多い角に場所を取った。ルークは指示通り、少し離れた場所で荷物の見張り役をしながら、周囲に耳を澄ませた。
「今日も野菜の値段が上がってるな。困ったもんだ」
「あの店で売ってる甘いパン、最近貴族の奥様たちがよく買ってるらしいよ」
「保存がきく食料は高いけど、日雇いには助かるんだ」
「あの、少し酸っぱい漬物、味が濃すぎなくて美味しいって評判よ。今日は二個買おうかしら」
ルークは、優菜から渡された木の板の切れ端に、聞き取った言葉を書き留めていった。彼は、いつもの市場が、ただの買い物場所ではなく、情報が渦巻く場所だと初めて知った。
ティナは、優菜が「さらなる商品価値」のために味を改良したピクルスを丁寧に並べ、客に勧めていく。ルークが書き取る情報の中に、ピクルスの評判が入った時、彼の胸は熱くなった。自分たちが孤児院でやっていることが、本当に誰かの役に立っているのだと実感できたからだ。
そんなルークの働きのおかげで、ティナは不安なく客とのやり取りに集中できていた。