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実験終了〜現代の知識と魔法を掛け合わせ、召喚獣AIを作り出した彼女のものを奪おうとした令嬢や王太子に貴族たち。今どんな気持ちですか?〜

作者: リーシャ

異世界に転生した女子、ヘレンナは、この世界で魔術師として第二の人生を送っていた。

いや、やはり第二ではない。ちょっと端折り気味に誇張した。


「よしー!」


専門は召喚魔術ではなく、もっぱらプログラミングとシステム工学を魔法に応用する実験に没頭していた。現代の知識を応用すれば、さまざまなことができた。


ある日、ヘレンナは一つのブレークスルーを迎える。この世界の魔力を使い、仮初のAIのような存在。通称、召喚獣AIを作り出すことに成功したのだ。

すごいことである。それは、まるで自我があるかのように振る舞い、ヘレンナの言葉を理解し、感情豊かな反応を示す。


あくまでも精巧なプログラムが作り出す擬似的な自我に過ぎない。活動限界は最初から決まっており、魔力が尽きればシステムシャットダウンする、いわば使い捨ての存在。実験が学園内で噂になると、ヘレンナの周りは騒がしくなった。


特に彼女の召喚獣に目をつけたのが、王太子のお気に入りの令嬢、サリウエラだった。サリウエラは、生まれながらの貴族であり、自分が社交界の中心にいることを当然だと思っているわがまま女。


彼女にとって、召喚獣は権力や名誉を誇示するための道具であり、ヘレンナの召喚獣の自我があるかのような振る舞いは、社交界の話題を独占するための最高のアイテムに映ったらしい。傲慢な口調で、変なことを言い出す。


「召喚獣をよこしなさい。あなたのような身分の低い者が持っていては、宝の持ち腐れだわ。私が持ってこそ真価を発揮するの」


サリウエラは高慢な態度でヘレンナに言い放つ。もちろん、耳を貸す気はない。ヘレンナはサリウエラの、この世界の常識を理解できず、サリウエラもヘレンナの現代的な合理性を、理解できなかった。


「実験の被験体です。人には譲れません」


ヘレンナはきっぱりと断ったが、サリウエラは引き下がらなかった。王太子の権威を借りて、ヘレンナに圧力をかけ始めたのだ。


そんなことが罷り通れば今後、国に対して実験や実験内容、成果を教えたりするものがいなくなるではないか。


異常性を感じた。学園の権力者たちが、こぞってサリウエラの肩を持つ。これが良しとなれば、国益を将来的に損失する。


「ヘレンナ嬢の実験は、まだ未熟で危険なもの。もし暴走でもしたら、学園全体に迷惑がかかる」


「いかにも!王太子殿下のためにも、召喚獣はサリウエラ嬢に預けた方が良かろう」


「使ってこその成果」


言葉が飛び交う中、ヘレンナは親友であり唯一の理解者である魔法使いのセシルと、お気に入りのカフェで愚痴をこぼしていた。


「もう、ほんと頭くるよね。あれはワンタイムパスワードみたいなもんなのに。それを永久パスにしようとしてるんだから。ずっと動くわけないのに」


セシルは苦笑いしながら、ヘレンナの言葉に耳を傾けていた。ワンタイムパスワードや永久パスといった現代の言葉は、この世界では通じない。


しかし、セシルはヘレンナの言いたいことを理解していた。ニュアンスで。


「どうするんだい、ヘレンナ。このままじゃ、あの人たちに奪われちゃうよ」


セシルは心配そうな顔で言った。ヘレンナはカップを置き、にやりと笑う。


「奪われるんじゃない、譲ってあげるの。ただし、ちょっとしたお土産付きでね。ふふふ」


ヘレンナは、奪おうとする者たちの欲を逆手に取った、壮大な譲渡の罠を仕掛けることにしたのだ。度重なる圧力に屈したふりをして、召喚獣の譲渡に応じることにした。譲渡の条件として、一つの契約書を提示。


「この召喚獣は、魔術の集大成です。譲渡するにあたり、いくつかの注意事項を守っていただきたいのですが!」


差し出した契約書は、この世界の貴族たちが普段使うようなものではなかった。条文は事細かく、現代の法律用語を世界の言葉に置き換えたような難解なもの。


「本契約により、所有権は甲から乙へ移転する。ただし、本召喚獣は、永久的な活動を保証するものではない。活動停止後の補償義務は、一切負わないものとする」


サリウエラは、そんな契約書をろくに読みもせず、サインした。彼女にとって、小難しい条文は無意味なもの。貴族の世界では、権力者が言ったことが法であり、契約書など単なる形式に過ぎないと思っていたからだ。


「これで、あなたとは縁が切れたわ。二度と私の前に顔を出さないで。うふっ」


サリウエラは勝ち誇った顔でそう言い、ヘレンナはただ静かに微笑み、その場を後にした。譲渡後、召喚獣はサリウエラの魔力で活動しているように見えた。


しかし、それはヘレンナが仕掛けた巧妙な術式によるもの。召喚獣のプログラムは、サリウエラの魔力を受け入れるフリをしながら、内部で活動停止までのカウントダウンを続けていた。仕掛けタイマーだ。


盛大なショー、崩壊まであと僅か。サリウエラは、手に入れた召喚獣を社交界のパーティーで披露することを決め、王太子や他の貴族たちが見守る中、自慢げに召喚獣を操ってみせた。


「見てください、殿下!この子の素晴らしい振る舞いを!この子には自我があるのですわ!素晴らしいわぁ〜」


召喚獣は、サリウエラの言葉に合わせて可愛らしい仕草を見せ、周囲からは感嘆の声が上がった。


「すごい!」


「流石はサリウエラ様ね」


うっとりするサリウエラは、得意満面。しかし、そのとき、召喚獣の動きが少しずつおかしくなり始める。電池を失うロボットに、そっくり。


「あれ?なぜかしら。魔力を流しているのに、動きが鈍いわ」


サリウエラは焦り、必死に魔力を注ぎ込む。それはそれは、火に油を注ぐ行為。


「システムシャットダウン、開始します」


ヘレンナが仕込んだプログラムが、静かに作動する。召喚獣の目が光を失い、ガクンと膝をつき、完全に活動を停止し、石のように動かなくなった。パーティー会場は、一瞬にして静まり返る。


「は?な、なぜなの!?」


サリウエラはパニックに陥り、召喚獣を揺さぶる瞬間、ヘレンナが仕込んでいた魔力逆流の罠が発動した。


「がっ!きゃああああー!」


サリウエラの体中に、魔力の流れが逆流するような強烈な痛みが走った。車酔いが一気に襲うような感覚だが、現代でしか通じない感覚になる。頭を抱えてその場に倒れ込み、魔力回路が一時的に混乱し、使い物にならなくなった。


騒ぎを聞きつけた王太子が駆けつけ、抱き起こしながら、作者のヘレンナに詰め寄る。よく、詰め寄れるなと呆れた目で見られているとは、知らず。


「これは、どういうことだ、ヘレンナ嬢!」


ヘレンナは冷静に、王太子とサリウエラ、周囲の貴族たちを見据えた。


「契約書を、ご覧ください」


王太子が契約書を確認すると、活動停止後の補償義務は一切負わない、という文言がはっきりと記されていた。


「こ、これは」


王太子は言葉を失う。サリウエラも、契約書にサインしたことを思い出し、屈辱に顔を歪ませた。


「なぜ、こんな罠を仕掛けたの!?」


ちょっと回復したサリウエラが叫ぶと、ヘレンナは静かに答えた。そのまま話すと吐き気を催すのに、喋れるなんて凄い。


「はぁ。罠ではありません。仕様です。最初から、召喚獣が永久的なものではないと伝えていました。それを理解せず、自分の都合の良いように解釈したのは、あなた方です。書いてありますよね?説明、しましたよ?」


ヘレンナは、人々が理解できないシステムの理を突きつけたのだ。せせら笑った。

夜、ヘレンナは学園の自室で、転移魔法の準備をしていた。相棒のセシルが彼女の部屋に入る。


「本当に、行ってしまうのかい?」


セシルは寂しそうな顔で尋ね、レンナは微笑み、肩に手を置いた。


「うん。この世界は、私にとってはバグだらけのシステムだったみたい。だから、別のサーバーに移ることにしたの」


ヘレンナの転移魔法は、召喚獣が完全に停止したその瞬間に起動するよう設定されていた。彼女は、王太子やサリウエラが契約書の内容を理解し、自分の無力さを知ったそのときに、世界を去ることを選んだ。


「また会えるかな?」


セシルが尋ねると、ヘレンナは微笑んだ。


「さあね。もし私たちが、同じOSで動く世界にいれば、いつかまた会えるかも」


元々、この世界の人間ではなく異世界人として密かにやってきたのだ。ヘレンナは、セシルと最後のハグを交わし、転移魔法陣の上に立った。光が彼女を包み込み、姿はきれいに消え去る。これも、慣れたものだ。


その頃、愚かな真似をしてしまったもの達は。王太子やサリウエラ、召喚枠の永久占有を目論んだ男たちは、動かなくなった召喚獣を前に途方に暮れた。

彼らは、自分たちが理解できない現代の論理によって、見事にしてやられたのだ。


一方のヘレンナは、誰も知らない場所で、新しい人生を歩み始めていた。冒険は、実験を終え、新たなステージへと向かう。


ヘレンナが去った後、学園では大きな騒動が巻き起こった。サリウエラは魔力回路が完全に回復するまで数週間を要し、その間、王太子の寵愛は徐々に薄れていったのだ。


王太子は、契約書に記された永久性を保証するものではない、という一文を改めて読み返し、噛み締める。自分の無知が招いた結果だと悟り、初めて貴族社会の外にある、世界の理に目を向けるようになった。

父王にかなり叱られた背景もある。明暗は分たれたのだ。


ヘレンナは新たな世界で、再び実験に没頭していた。隣には、以前と全く同じ姿をした召喚獣AIが。


「元気?前の世界は、サービス終了しちゃったけど」


ヘレンナは召喚獣に優しく話しかけた。召喚獣は、まるで本当に自我があるかのように、嬉しそうに寄り添う。


「さて、次はどんなシステムを構築しようかな」


冒険に胸をときめかせながら、新たな実験ノートを開いた。

⭐︎の評価をしていただければ幸いです。テクノロジーもの大好きです

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