落ちこぼれの俺が通うマッドハッター魔法学院は集団幻覚らしいけど、鏡から出てきたサイコロ型チョコレートが神だったかもしれない件
これはこのアンソロジーの最新作です。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。
大和は背が低く、痩せていて、そして極度の引きこもり気質の少年だった。
勉強も運動も苦手で、魔法の成績は常に最下位。
彼が通っているのは、名門と呼ばれる
マッドハッター魔法学院。
しかし、大和にとってその学院は、ただの苦痛の場所だった。
大和のクラスメートには、なぜか個性的すぎる五人の少女がいた。
高貴な家系の令嬢、エリナ・モスコレフティ。
すぐ怒るツンデレ、野木本彩香。
魔法の天才少女、スサナ・スアレス。
遠い国から来た留学生、ナイラ・コネ。
そして、謎めいた先輩、白石乙女。
奇妙なことに、
この五人は全員、大和に好意を抱いていた。
理由はとても単純だった。
「だって大和くん、可愛いんだもの」
エリナが微笑む。
「背も低いし、ひょろひょろだし、勉強もできないし」
彩香が腕を組んで言う。
「でも、そこが魅力」
スサナが静かに頷く。
「うちの国では、そういう男の子は守ってあげたくなる」
ナイラが笑う。
「あなたはとても面白い存在よ」
乙女が囁く。
しかし、大和は魔法がまったく使えなかった。
杖を振れば爆発する。
呪文を唱えれば黒煙が出る。
彼は学院で一番弱い生徒だった。
ある日の授業中。
突然、学院の校長が教室に入ってきた。
クミガワ・アルバート校長。
長いコートを着た、痩せた老人だった。
アルバートは静かに言った。
「諸君に真実を教えよう」
教室が静まり返る。
「このマッドハッター魔法学院は――」
彼は微笑んだ。
「集団精神病による幻覚だ」
大和は固まった。
「え……?」
「君たちは存在しない学院で、存在しない魔法を学んでいる」
アルバートの声は冷たい。
「これは集団的な精神錯乱だ」
大和の視界が揺れる。
床が歪む。
教室が溶ける。
五人の少女の顔がぼやける。
そして――
大和は目を覚ました。
「……あれ?」
彼は教室の机に突っ伏していた。
どうやら授業中に眠ってしまったらしい。
夢だったのか。
ただの悪夢だった。
大和が顔を上げた瞬間、
教室の中央で――
エリナ、彩香、スサナ、ナイラ、乙女の五人が
盆踊りを踊り始めた。
「え?」
音楽もないのに、
彼女たちは円になって踊る。
手を振り、回り、笑いながら。
その時。
「カット!」
教室の隅から声がした。
そこにいたのは映画監督の北斎だった。
「よし、いいシーンだ。休憩!」
すると、教室にいた全員が立ち上がる。
役者たちがストレッチを始める。
カメラマンが水を飲む。
照明スタッフがライトを調整する。
大和は呆然とした。
その瞬間。
「カット!」
また声が響く。
今度は別の男だった。
映画監督の宮本。
「はい、ここまで! 休憩!」
すると、さっき「北斎」を演じていた役者も、
他の役者たちと一緒に休憩に入る。
大和の頭がぐるぐる回る。
そして――
大和は目を覚ました。
「……は?」
また教室だった。
どうやら授業中に寝ていたらしい。
しかし。
なぜか教室にはたくさんの鏡が置かれていた。
机の上。
壁。
窓。
すべて鏡。
大和は一つの鏡を見た。
そこに映る自分。
その反射が、
にやりと笑った。
「……?」
そして。
その反射は突然、
サイコロの形をしたチョコレートに変わった。
チョコレートは跳ねる。
ぴょん。
ぴょん。
ぴょん。
そして――
大和の口の中へ飛び込んだ。
「……」
その瞬間。
学院中で暴動が始まった。
生徒たちが叫ぶ。
杖が光る。
廊下が崩れる。
誰かが叫んだ。
「アルバート校長が生徒を殺している!」
「死体でネクロマンシーをしている!」
マッドハッター魔法学院は戦場になった。
その中心にいたのは、
大和と、あの五人の少女だった。
「革命よ!」
エリナが叫ぶ。
「ぶっ飛ばす!」
彩香が杖を振る。
「魔法陣展開」
スサナが呟く。
「戦う」
ナイラが笑う。
「面白くなってきた」
乙女が囁く。
しかし。
大和には魔法がなかった。
それでも彼は前に出た。
「……行こう」
大和は言った。
「校長を止める」
そして。
学院の中央ホールで、
大和とアルバート校長が向かい合った。
沈黙。
長い沈黙。
そして。
アルバートが言った。
「……踊ろうか」
次の瞬間。
大和。
アルバート。
五人の少女。
全ての生徒。
全ての教師。
学院にいる全員が踊り始めた。
盆踊り。
円になって。
回りながら。
笑いながら。
マッドハッター魔法学院は、
巨大な踊りの渦になった。
大和も踊った。
理由はわからない。
でも踊った。
世界が回る。
音もなく。
終わりもなく。
ただ、踊り続けた。
もしかすると、あのサイコロ型のチョコレートこそが神だったのかもしれない。
そして――
物語は終わる。
この物語を楽しんでいただけたなら幸いです。次の作品も近いうちにアップロードします。




