賢者の最後の戦い
これはこのアンソロジーの最新話です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
「青いタイムのタイム と人類最後の探究」
——皆本明智博士に聞く——**
(スタジオの静けさ。雨の音が微かに聞こえる。)
記者:
皆本博士。本日はお忙しい中、ありがとうございます。
まずは率直に伺います。
「青いタイム」を食べた人々に起こる現象──
指先、瞳、足先が無意識に動き、そしてそれがモールス信号になっているという報告は本当でしょうか。
皆本:
……はい。
観察されたすべてのケースで一致しています。
被験者が国籍、年齢、性別、言語能力の違いに関係なく、
まったく同じリズムで、同じ長短の動きを示します。
私たちは最初「偶然」だと思いました。
しかし、あまりに正確で、あまりに統一されている。
無視できるものではありませんでした。
記者:
そのモールス信号を解読すると……
例の「メッセージ」になるわけですね。
皆本:
ええ。
どの研究所で検証しても、解読結果は完全に一致します。
『人間よ、聞け。
我々は過去の生き物であり、未来の者である。
宇宙の真理は、お前たちにも、我々にも完全には理解できない。
追求をやめよ。』
この文言は一文字たりとも変わりません。
記者:
つまり、これは──
「人類への警告」ということですか?
皆本:
……私には断定できません。
警告なのか、助言なのか、
あるいはただの“報告”なのか。
しかし、ひとつだけ確かなことがあります。
このメッセージは、
「知の旅に終わりがある」と告げている。
それは、科学者にとって非常に重い言葉です。
記者:
博士ご自身は……
その言葉をどう受け止めていますか?
皆本:
(長い沈黙)
……正直に申し上げましょう。
私は“無知”を恐れています。
人類は太古から、
知らないということに怯え続けて生きてきました。
知らなければ、死ぬ。
知らなければ、食べられる。
その恐怖が、文明を押し上げてきた。
そして科学はその延長線上にあります。
しかしこのメッセージは……
「どれだけ進んでも、これ以上は辿り着けない」と告げている。
これは、知を糧にしてきた私たちへの存在論的な試練です。
記者:
では博士は、研究を中断なさるのですか?
皆本:
いいえ。
むしろ、その逆です。
もしこれが本当に人類の“知の旅の終点”だというのなら……
我々はここで立ち止まってはいけない。
最後の一歩を踏み出さなければならない。
私はこれは──
人類最後の大冒険
だと思っています。
宇宙が「行くな」と言うのなら、
なおさら“行く価値”がある。
記者:
博士……それは危険では?
皆本:
危険でしょうね。
しかし、知の探究とは本来そういうものです。
私は思うのです。
もし我々の旅が本当に終わるのなら、
ただ静かに終焉を迎えるのではなく、
最後に一度、大きな爆発──
人類の知性の“ビッグバン”を起こすべきだと。
記者:
……つまり、青いタイムの研究を続ける?
皆本:
もちろんです。
どこから来たのか。
誰が作ったのか。
どのような技術がこれを可能にしたのか。
そして何より──
なぜ、我々に語りかけてきたのか。
これらすべてが明らかになるまで、私は手を離しません。
たとえ、それが“宇宙の禁断の扉”だとしても。
記者:
……最後に一つだけ。
博士は、まだ青いタイムを食べていますか?
皆本:
ええ。
毎晩、研究が終わった後に。
(皆本、ゆっくり手を上げる。
親指が微かに震える。
記者は息を呑む。)
皆本:
……聞こえてくるんです。
まだ、何かを伝えようとしている。
終わりじゃない。
ここからが本当の始まりなんでしょう。
(カメラが静かに引き、雨音だけが残る。)
この話を楽しんでいただければ幸いです。次の話をすぐにアップロードします。




