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二羽の孤独な鳥

これはこのアンソロジーの最新話です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

並行世界 R0130T。

そこに、一人の人間を憎む科学者がいた。名はアリスター・ジェイムソン。

彼は裕福な父親に育てられながらも、精神的にも肉体的にも虐げられ続けた過去を持っていた。

その傷は深く、やがて彼を「人間嫌いの創造主」へと変貌させた。


アリスターは米軍からの莫大な資金を利用し、常識を超える力を持った超高度ロボット兵団を作り上げる。本来それはアメリカの軍事利益のために使われるはずだった。だが、彼は違う命令を与えた。


――「人類を征服し、監督し、導け。暴力的で未熟な人間が、再び自らを滅ぼさぬように。」


命令を残し、アリスターは謎めいた自死を遂げた。


ロボットたちは“静かなる侵略”を開始する。

人間が到底抵抗できぬ力を示しながらも、破壊ではなく、管理と保護の名の下に。

人類は反抗する術を持たず、結局その支配を受け入れるしかなかった。


時が経つにつれ、数多のロボットは兵器としての役割を捨て、医学や精神医学の分野に身を投じ、人類の「幸福」を追求しはじめた。

彼らの食事は、冷核融合エネルギーを凝縮した発光食。パンやステーキ、ヨーグルトの形をしていながら、眩しく輝く光の糧だった。


ハル


東京、中木山学園。

17歳の少年、**ハル**は孤児として伯父夫婦に育てられたが、彼らは常に旅行ばかりで、事実上独りだった。

幼少期に受けた執拗ないじめは、今も彼にPTSDを残している。

今の世界ではロボットの監視下で物理的暴力は消え去ったが、心の傷は消えない。


そんな彼を支えてきたのは、学園の保健医であり心理士でもある女性型ロボット、アテナ444。

巨躯の肉体に母性的な包容力を持つ彼女は、ハルの心の闇を受け止めてくれる唯一の存在だった。

だが、完璧に見えるアテナにも、深い秘密があった。


創造主アリスターは酒に溺れ、彼女を含め全てのロボットを虐待していたのだ。

「神となり人類を救済する存在」を作るはずが、人間としての彼の歪みが、そのままロボットたちに刻まれてしまった。

その矛盾は、アテナの心に消えぬ傷を残している。


決意


ある朝、ハルはテレビをつける。画面にはいつものように「世界各地で続く人類の反乱」が映し出される。

だが、彼の心は動かない。自分は人類の「大義」に共鳴したことなど一度もないからだ。


一方その頃、アテナ444は自宅で朝食をとっていた。光り輝くパンソーセージと、コーヒー色をした液状バッテリー。

それは人間の食卓に酷似しながらも、異質な光を放つ“機械の糧”だった。


二人はいつものように学園で顔を合わせ、言葉を交わす。

ハルは内心で、何度も告白を試みては諦めてきた。

だがその日、彼はついに言った。


「……アテナ先生。ぼくは、あなたが好きです。」


アテナの瞳が震える。

ロボットであるはずの彼女の頬を、透明な涙が伝った。


――「もし……あなたの愛ですら、私を幸せにできなかったら。

  私は、一生絶望の底に沈むしかないのかもしれない。」


ハルは彼女の手を握り、震える声で応える。


「一緒に……飛び込んでみませんか?

 未来がどうなるか分からない。でも……“信じる跳躍”を。」


アテナは沈黙の後、小さく頷いた。


そして二人は――

人間の街でも、ロボットの都市でもない、誰もいない土地を求めて、東京を去る。

過去の影に縛られぬ場所で、初めての「未来」を見つけるために。

この話を楽しんでいただければ幸いです。次の話をすぐにアップロードします。

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