私は異世界の女神を愛しているが、彼女は私の存在を気にしない
これはこのアンソロジーの最新話です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
ユウト:「ああ、我が友よ! ダチョウのアバトゥ、そしてスライムのステファンよ! もう、これ以上は耐えられない!」
アバトゥ:「ユウト、どうしたのだ?」
ユウト:「多くの者にとって祝福であるはずのこの異世界――この『コンビニウム』は、俺にとっては呪いなんだ。」
ステファン:「呪い? どういう意味だ?」
ユウト:「俺は……彼女に恋をしてしまったんだ。神竜の血を引く王女、オレリア様に。」
アバトゥ:「それのどこが悲劇なのだ? 思い切って気持ちを伝えればいい。」
ユウト:「できないよ、アバトゥ。彼女は神の末裔、俺はただの地球の平民。そんなことは――愚かを超えて、冒涜だ。」
ステファン:「お前が宗教を信じる人間だったとは知らなかったが?」
ユウト:「俺は神を信じない。ただ、美そのものにひざまずく芸術家だ。
そしてオレリア様――神竜の血を継ぐその方こそ、この世界のあらゆる美の極致なんだ。俺のような者が触れてよい存在ではない。」
アバトゥ:「自分で自分を苦しめているだけだ、ユウト。いっそ想いを告げてしまえ。たとえ拒まれても、今の宙ぶらりんな状態よりはましだ。」
ユウト:「いや……この宙ぶらりんこそが、俺の居場所かもしれない。
前にも話したが、俺は元の世界で秘密結社――『自動芸術士の会』の一員だった。
我々の信条はこうだ。人は芸術を創るのではない。すべてのもの――岩も、雲も、言葉も、音も、それぞれに魂を持つ。
人間はただ、それらの魂が望む形をこの世界に写すための器にすぎない。
それこそが“芸術”なんだ。
今この静かな野原にも、無数の魂が舞っているのが見える。
だが、彼女を見たとき――オレリア様のまわりには、この世界すべての魂が群れ、光の妖精のように揺れている。
その光景を見るたびに、俺は思い知る。彼女は遠い。俺の手の届かぬ宇宙の存在だと。
だからこそ、憎まない。友よ、証人となってくれ。
俺は彼女を憎まない。彼女はただ、神の理に従って生きている。
そして俺も、その理に従って、彼女を愛し続けるだけだ。」
沈みゆく夕陽の下、ユウトは三つの杯に葡萄酒を注いだ。
「彼女に、乾杯。」
アバトゥとステファンは杯を受け取ったが、飲まなかった。
ただ黙って、彼を見つめていた。
その目には、どこか哀れみの色が浮かんでいた。
風が野を渡り、草花がざわめく。
一瞬、コンビニウムのすべてが息をひそめたように感じられた。
(完)
この物語を楽しんでいただければ幸いです。次の作品をすぐにアップロードします。




